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【トレンドマイクロの事例から学ぶ、タックスヘイブン税制と節税スキーム】

こんにちは、行政書士の佐々木です。

今回は、外国法人をお持ちの方が気になる税務ニュースとその分析を投稿します。

最近、情報セキュリティ業界の大手、トレンドマイクロが東京国税局から96億円もの申告漏れを指摘された事例が話題になっています。
参考:トレンドマイクロ 96億円余申告漏れ 東京国税局指摘に対応検討(NHK)

この出来事は、国際的な税務問題の複雑さと、日本のタックスヘイブン対策税制の重要性を浮き彫りにしています。
さらに、「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」のような複雑な国際的節税スキームについても考えさせられる事例です。


トレンドマイクロとは?


トレンドマイクロは1988年設立の東証プライム市場上場企業で、ウイルス対策ソフトを主力製品としています。
世界65カ国以上で事業を展開する大企業で、2022年12月期の連結売上高は約1,917億円、営業利益は約463億円を記録しています。

今回の問題の核心は?


東京国税局は、トレンドマイクロのオランダ子会社について、事業実態がほとんどないペーパーカンパニーではないかと判断しました。
その結果、2022年12月までの3年間で96億円余りの申告漏れを指摘し、過少申告加算税を含めて約24億円の追徴課税を行ったのです。

タックスヘイブン対策税制って何?


日本のタックスヘイブン対策税制(正式名称は外国子会社合算税制)は、日本企業が税率の低い国々に子会社を設立して利益を移転し、不当に税負担を軽減することを防ぐための制度です。
主なポイントは以下の通りです。

1. ペーパーカンパニーの判定
   外国子会社が実体のない「ペーパーカンパニー」と判定されると、その所得を親会社の所得と合算して課税されます。判定基準には、実体基準(固定施設の保有)と管理支配基準(事業の自主的管理)があります。

2. 経済活動基準
   外国子会社が実質的な経済活動を行っているかどうかも重要です。事業基準、実体基準、管理支配基準、所在地国基準/非関連者基準の4つの基準で判定されます。

3. 租税負担割合
   外国子会社の租税負担割合が20%未満の場合、原則として合算課税の対象となります。ただし、経済活動基準を満たせば、例外的に適用除外となる可能性があります。

トレンドマイクロの事例を分析すると


国税局の指摘から、オランダ子会社が上記の基準を満たしていないと判断された可能性が高いです。
特に、実体基準や管理支配基準を満たしていない、または経済活動基準を充足していないと判断されたと推測されます。

オランダは法人税率が約25%と比較的高いため、単純な税率の問題ではなく、子会社の事業実態や機能に焦点が当てられたと考えられます。
債券運用を主な業務としていた点も、実質的な事業活動の有無の判断に影響した可能性があります。

ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチとの関連性は?


「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」は、主にアイルランドとオランダの税制を利用して、グローバル企業の税負担を大幅に軽減する複雑な国際的節税スキームです。

スキームの概要
1. アイルランドに2つの子会社(A社、B社)を設立
2. オランダに1つの子会社(C社)を設立
3. A社が知的財産権を保有し、B社にライセンス供与
4. B社が世界中の顧客から収益を得る
5. B社からC社を経由してA社にロイヤリティを支払う
6. A社はタックスヘイブン国に本社を置く

このスキームにより、企業は以下のような税務上のメリットを得ることができます。

  • アイルランドの低い法人税率(12.5%)の恩恵

  • オランダの有利なロイヤリティ課税制度の活用

  • 最終的な利益をタックスヘイブン国に移転

トレンドマイクロの事例では、オランダ子会社の役割が焦点となっています。
典型的なダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチスキームとは異なる構造である可能性がありますが、国税局がこの子会社の実態を問題視した点は、複雑な国際的節税スキームに対する税務当局の厳しい姿勢を示しています。

今後の展開と企業への影響は?


1. 国際的な税務戦略の見直し
   企業は海外子会社の実態や機能を再評価し、タックスヘイブン税制に抵触しないよう注意する必要があります。

2. コンプライアンスの強化
   より透明性の高い税務報告と適切な文書化が求められます。海外子会社の事業実態や機能を明確に示す文書の整備が重要です。

3. 事業再構築の検討
   実態の薄い子会社や、主に税務上の理由で設立された子会社については、その存続や機能の見直しが必要となるかもしれません。

4. 国際的な税制改革への対応
   OECDのBEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトなど、国際的な税制改革の動きに注目し、それに適応した税務戦略の構築が求められます。

まとめ


トレンドマイクロの事例は、グローバル企業の税務戦略の複雑さと、それに対する税務当局のかなり厳しい姿勢を示しています。
わたしの周りの税理士さん、会計士さんからも、国税は本気出してきたという話をよく聞くようになりました。

ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチのような複雑な節税スキームは、かつては多くの多国籍企業に利用されてきましたが、近年の国際的な税制改革の流れの中で、その有効性と合法性が厳しく問われるようになっています。

企業は税務戦略を慎重に検討し、各国の税制に準拠しつつ、効率的な事業運営を行う必要があります。
同時に、税務当局の厳格化する姿勢に対応するため、より透明性の高い税務報告と適切な文書化が求められます。

税務戦略は複雑で難しい問題ですが、外国に会社を持っている方々には避けて通れない課題です。
今後も世界の企業動向と税制改革の流れに注目していく必要があると思っています。

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