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にゃるらの大学生時代の記事で思い出したこと

INTERNET YAMEROを未だに聴いたことがなく、NEEDYGIRL OVERDOSEのあらすじすら知らない人間である私が、唯一にゃるらという人に関して知っているのが次の記事である。

記事自体は高校3年生の夏、ちょうどげんしけんにハマっていたので、何か面白いことを書いている人はいるかしらんと思いnoteを検索していたときに見つけた。初読の感想は「まぁ、そんなこともあるよね」程度のもの。特に深い印象をもったわけではなかった。書き手がにゃるらだったので、有名人のにゃるらにもこういう経験があったんだねぇと若干感心した。

しかし今になって改めて読んでみると、自分も彼と同様オタサーを巡って色々苦労していたということを思い出した。というわけで、自分の備忘録も兼ねて、オタサーに幻想を抱いた男の顛末をつらつら書いていこうと思う。

本編

入学式から数日すると、各サークルがキャンパスでビラ配りやライブ、パフォーマンスなどを行いはじめる。私は友人のS君と一緒に膨大な数のビラを貰って帰ってきた。

高校時代は色々見て廻った末に帰宅部に入るというムーブをかましているので、大学では何かしらには絶対所属しようと考えていた。私の関心領域は非常に狭い。加えて運動ができないのでストライクゾーンは文化系に絞られる。それでも、大学は高校とは比べ物にならない程多くの団体が存在する。自分のように、世間から少数派とすら見なされない真の少数派もいるはずだと、ほんのわずかな期待を抱いていた。

自室の机にビラの束を置き、仕分け作業を始める。何十枚もあるビラのうち、新歓に行きたいと思わせたのは数枚だけだった。しかし数個でも興味が惹かれる団体があるというのは幸運だ。早速私はTwitterでその団体を検索してみた。

その結果、ただでさえ少ない候補がさらに絞られる羽目になった

切られたのは東方Projectのファンが集まる東方サークルである。ここは、オタサーながら定期的な活動をしっかり行っており(げんしけんのように溜まり場的サークルにはなっていない)、好感がもてた。だが、よく考えてみれば私は東方の原作もプレイしたことがないニワカだった。東方の認知歴は10年以上だが、「やっぱり太田順也が長野出身なのが効いてるよなぁ」「原作の文脈を無視した二次創作っていう点では、やっぱりポストモダン的なのかねぇ」と考えながらコンテンツをウォッチしてきた人間が、暇な時間にキャラのイラストを描きあって和気藹々の集団に馴染めそうもなかった。

最終的に残った団体は3つ。オタサー①、オタサー②、その他である。

第一の絶望

このサークルは、一般名詞的に言えば「アニメ研究会」と呼べる団体で、文字通りアニメ好きの人々が集まっていた(ちなみに漫研は端から行く気がなかった。シンプルに絵がクッソ下手だから)。公式Twitterで私の好きなアニメについて呟いていたこともあり、結構期待して部室見学に向かった。S君も一緒に行った。

部室は、複数の団体がパーテーションで分けて使っており、このサークルのスペースは部屋の一番奥にあった。入ると、部員が数名、ソファやイスでくつろぎながら今期のアニメを見ていた。本棚と本棚の隙間から部長らしき人が出てきて、会誌を渡しながら「自由に見ていってね」と挨拶してくれた。私たちはソファに座り、無言で会誌を読んだり、一瞥すればわかる位狭い部屋を何度も何度も眺めた。その間、部員の方々は春アニメを見ていた。

不憫に思ったのか部長が、「なんか見たいアニメあったら流そうか?」と声をかけてくれた。私は、当時やっていた別の春アニメをリクエストした。それから十数分、再び無言で画面を見続ける時間を過ごした。部室見学ってこんなものなのかと、世間知らずの男2人は思った。完全なる虚無だった。耐えきれなくなった頃、他の新入生が入ってきたので、入れ替わる形で部室を抜け出した。

とはいえ、1回行っただけで判断するのはサークルに失礼である。部員全員が揃っていたとも限らない。実はもっとフレンドリーで面白い先輩もいるんじゃないか、そう思い私は後日部室を訪れた。部屋は閉まっていた。活動日が不明なのだから、運が悪ければそうなるのは当たり前だ。結局、無機質な鉄製の扉が静かに佇むばかりのサークル棟を、泣く泣く後にした。その後、TwitterでこのことをDMしたら、謝罪と共に翌日は部屋を開けるとの返信があった。もう縁がないのは明らかだが、私はもう少し粘ることにした。

翌日、私は1人で部室に向かった。部屋では部員が雀卓を囲んで麻雀を打っていた。私はもう帰りたくなった。というのも、私は麻雀が好きではないからである。しかしそういうわけにもいかず、私は雀卓の一端に座ることとなった。麻雀が不得手だということを言うと、先輩が色々とアドバイスをしてくれた。アニメ研究会に来て、なぜ麻雀を打っているのか。意味がわからなかった。打っている間、部員の方々は当時のネットミームで盛り上がっていた。2時間位経った頃、適当な言い訳をして部屋を出た。それから、私が部室に足を入れることは二度となかった。

第二の絶望

幸い私の大学には別のオタサーがあった。こちらは古のSF系サークルで、何年前からあるかわからない歴史をもっている。先ほどのアニ研より硬派な感じがしたので、期待して新歓に向かった。S君も一緒に行った。

土曜日の朝10時、部室でSF映画を見るというのが新歓の内容だった。数分前に部室の前に着くと、部屋は閉まっていた。間もなくして、他の見学者が2人(A君・B君)集まってきた。5分、10分と予定時刻を過ぎていくが、部員は一向に来ない。2人は待ちきれず帰ってしまった。15分程経った頃、DMで担当者が体調を崩したので代理人が遅れて向かうことが知らされた。鉄扉の前で運の悪さを痛感した。

10時半になってようやく部員が来、部室に入った。このサークルもアニ研と同様複数サークルが折半している形だったが、アニ研よりは広かった。私とS君はパイプ椅子に座らされ、アンケートらしきものを書かされた。好きなコンテンツの選択肢に「lain」があったので、ちょっと興奮した。lainを知っている、これはいけるんじゃないか。

予定から大幅に遅れたが、映画の上映が始まった。そのうち帰ってしまったA君とB君も戻ってきたので、4人で映画を見ることとなった。およそ3時間、パイプ椅子に座り無言で映画鑑賞。部室見学ってこんなものなのかと、世間知らずの男2人はまた思った。上映後、部員が出前を取りおごってくれた。食事はつつがなく、楽しく進んだ。その中で、A君は別のオタサー(ある作品だけが対象の、アニ研とは違うサークル)にすでに入っていること、A君とB君は知り合いであること、2人は2年生であることがわかった。その間、プロジェクターで流れるゆるキャンが私たちを癒してくれた。食事後、自由時間となり、私たちは本棚から漫画を取り出し読みふけった。ムダヅモなき改革の第1巻(アカギと並んで数少ない私が好きな麻雀漫画)を半分読んだあたりで、解散となった。

その日の夜、サークルのDiscordアカウントが送られてきたので、入った。何日かして、昼休みに部室に向かうと、部屋は閉まっていた。と思われたが、同じ部室の他サークルの方が中から開けてくれた。SFサークルもまた、活動日不詳の団体なのだ。部室の奥に向かうと、初対面の部員が何人かいた。一番の年長らしい女性部員に「私と顔見知りになったら、部屋の鍵を渡したげるよ」と言われたとき、限界が見えた気がした。

新入生が部屋にいるというのに、誰も話しかけてこず、部員同士でくっちゃべっていた。こちらから話しかけようにも、机や椅子は部員が占拠しており、話の内容も部誌がどうとかあの先輩がどうとか今度のイベントがどうとかで、共通事項が少なすぎた。私は部屋の隅で、あずまんが大王を読んでいた。史上最も長い昼休みだった。

別のタイミングで入部した新入生をDiscordで観測していると、OB会の予告が飛んできた。宴会場を借りて、さまざまな年齢層のOBOGが交流するとのことだった。新入生をもてなす前に、OBOGをもてなすんか。私は行く気がしなかったが、一応行くと返事した。当日はドタキャンした。

さらに数日後、何を血迷ったか私はもう一度部室に行った。まだ諦めきれなかったのである。だって笹原も最初はげんしけんに馴染めてなかったじゃない。そう思いながら部室へ赴くと、誕生日席に新入生の女の子を据えて、部員数名が談笑していた。彼女はOB会に、新入部員で唯一参加した人間だった。限りなく部外者に近い顔見知りだった私は、一応の挨拶を交わした後、部屋の隅でけいおん!を読んでいた。十数分して、私は部屋を出た。これを最後に、私は部室には行っていない。

結末

最終的に、私はオタサーではない他のサークルに所属し大学生活を送ることになった。このサークルは定期的な活動があり、雰囲気も閉鎖的・内輪的でない、ほか2つに比べ素晴らしい団体だった。ここまで書いてきてアレだが、にゃるらが経験したようなクソオタサー体験に比べれば、私のは単に自分がそのサークルに合わなかった、という非常にマシな体験である。

森見登美彦の名作『四畳半神話大系』では、主人公はテニサーから秘密機関まであらゆるサークルに入る(あるいは1つも入らない)世界線を経験し、そのどれにおいてもロクでもない結末を迎える。もっと別なサークルに入れば、もっと別な行動をしていれば、バラ色の大学生活が待っていたんじゃないかと嘆く彼に対し、下宿の隣人である樋口師匠は「君が有意義な学生生活を満喫できる訳がない。私が保証するから、どっしり構えておれ」と言い放つ。私もどうやら、そちら側の人間だったらしい。

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