量産とカスタムの狭間>工業デザインとクリエイターの相克
2月14日、東京・渋谷ヒカリエホールBで開催された「DESIGNER'S TILE LAB DTL Communication Day」の模様を記す。
LIXILのタイル部門INAXが、トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんとコラボレーション。デザイナーズラボを立ち上げた、そのお披露目会だ。
今回このデザイナーズラボを企画したLIXILの木野さんは、
「タイルの今を知ると、デザインが愉しくなる。古くから人間と密接に関わってきたタイルは、クリエイティビティ溢れる魅力ある素材。その良さと使い方を広めたい」
と動機を語った。
先進技術と伝統技術の両立。意匠などデジタル技術の進化だけでなく、釉薬や原料といったアナログの部分でも相当進化しているといい、そうしたタイルの進化が、デザインをクリエイティブにしていく可能性は広がる。
木野さんも、商品のみならずコンセプト自体をWEBを駆使して周知することで、TDLをコミュニケーションプラットフォームにしていきたいという。
TDLのコンセプト
TDLでは、4つのデザインコンセプトと焼き物自体が放つ魅力の5つの方向性をコミュニケーションキーワードに据え、カテゴライズした。
(1)SUPER REAL(スーパーリアル)
大判の高級大理石から布に至るまで、石、土、金属、木、布などの素材感をデジタルプリントで緻密に表現。イメージと外れる柄を排除できることで、むしろ当該素材で組むよりもある意味ホンモノっぽい佇まいに包まれる。これを木野さんは「フェイクではなく、スーパーなもの」という。軽量、大判化、耐久性、メンテナンスのしやすさといったタイルの良さが、現代の空間デザインに求められる意匠性を兼ね備えることで新たな空間構成が可能になるとする。
MARMORE(マルモア)
TRILOGY(トリロジー)
VENEZIANE(ヴェネツィアーネ)
BRIT STONE(ブリットストーン)
EUCALY WOOD(ユーカリウッド)
ART WOOD(アートウッド)
(2)HYBRID TEXTURE
異素材を組み合わせて調和を図ることがヨーロッパでは流行となっている。ガラスやミラーはど、異なる質感、形状を組み合わせることで、キラリと光るアクセントを空間に与えることができる。
(3)LIGHT&SHADE
立体的な構造により光と影を彩る、いわばこちらは照明とのコラボレーション。貼る方向によって壁面全体のアンジュレーション(波、うねり)が大きく異なるのも魅力だ。表面処理にラメのある装飾性を高めたものも登場している。
3D PYRAMIDAL(3D ピラミダル)
3D CHEOPS(3D ケオプス)
3D SHAPES(シェイプス)
(4)PLAYFUL COLORS
その名の通り、色と形を組み合わせることで空間構成を無限に広がる遊びがテーマ。木目が透けるヨーロッパ調の色味が10種類もあるなど、従来は難しかった多彩な色表現が可能になった。
NOUVELLE COLOR(ヌーベルカラー)
RHOMBUS(ロンバス)
IMAGINATE(イマジネート)
FINESTRIPE(ファインストライプ)
(5)YAKIMONO DIVERSITY
焼き物であるが故に偶然生まれる揺らぎやムラ。これを意図的に創り出しつつ釉薬を規格の範囲には収める。そうして得たINAXタイルの焼き物がもつ特徴を「ダイバーシティ」という言葉で木野さんは表現した。多様性というより多用性とでもいおうか、焼き物ならではの揺らぎ、ムラ、風合いをむしろ前面に押し出しつつも、工業製品としての「完成度」には妥協しないという忸怩が感じられる。
SFUMATURE(スフマチュア)
DEEPGLAZE(ディープグレイズ)
FRAGMENT(フラグメント)
VESTIGE(ベステイジ)
窯しずく(KAMASHIZUKU)
折り跡(ORIATO)
トラフプロジェクトのアーカイヴ
つづいてトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんが登壇。
これまで自身がどのようにタイルと取り組んできたのかスライドとともに解説するアーカイヴ的な内容だったが、豊富な具体例とともに紹介され、具体的かつ示唆に富んでいた。
2013年にINAXライブミュージアムで開催された「建築の皮膚と体温~イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界~」の空間デザインを担当したとき、建築家ジオ・ポンティのタイルの世界に触れた鈴野さん。平面的だと思っていたタイルが凸と平面の組み合わせで立体になること、同じタイルでも並べ方次第でまったく異なって見えたという。
そこで会場構成でも、光や照明によって全く異なることを際立たせるべく、空間を2度楽しめる会場構成に。また、ひとつのパターンであっても、四角だったり、穴あきだったりと、小さいモノの集積が無限に生み出されるタイルのデザインの可能性に魅せられたのだという。
ジオ・ポンティの「愛すべき建築」
https://www.biz-lixil.com/column/architecture_urban/manufacturing/vol04/
http://torafu.com/works/gio_ponti
タイルの柔軟性を表すこの動画がまたスバラシイ!!
https://youtu.be/nAuH1vDAHII
●次に紹介されたのは、「コンフォルト」誌の企画でタイルを制作する機会があり、四つ葉のクローバーを探すデザインを手がけたときのこと。
トラフとつくるタイル VOL.1
https://www.biz-lixil.com/column/architecture_urban/manufacturing/vol07/
トラフとつくるタイル VOL.2
https://www.biz-lixil.com/column/architecture_urban/manufacturing/vol08/
トラフとつくるタイル VOL.3
https://www.biz-lixil.com/column/architecture_urban/manufacturing/vol09/
池袋西武の屋上に展開された 色と緑の空中庭園 モネ・ガーデンは、屋上全体を水面に見立てて青色のタイルを敷き詰めて、円形のデッキが蓮の葉のようにちりばめられている。
http://torafu.com/works/ikesei
●オーストリアのスキンケアブランド、イソップ。
日本でも15軒目になるというショールームだが、One Material=One Floorをポリシーとしており、店毎に異なる素材をテーマに店舗を作るという。料理作りと同様、素材の良さを活かすという趣旨だ。
設計の場面においては、通常ではまずコンセプトがあり、次に予算という段取りになるが、このブランドの場合は廻りの環境に対してどうコントラストをつくっていくやり方が多いという。
イソップ 渋谷店
http://torafu.com/works/asp_s
イソップ 新丸ビル店
http://torafu.com/works/asp_m
イソップ 河原町店
http://torafu.com/works/asp_k
イソップ東京ミッドタウン店
http://torafu.com/works/aesop_midtown
イソップ ニュウマン新宿店
http://torafu.com/works/aesop_newoman
イソップ 仙台パルコ2店
http://torafu.com/works/aesop_sp2
イソップ サムチョン店
http://torafu.com/works/aesop_samcheong
イソップ GINZA SIX店
http://torafu.com/works/asgs
イソップ 神戸BAL店
http://torafu.com/works/askb
●増永眼鏡のフラッグショップ「MASUNAGA1905 青山店」
http://torafu.com/works/msga
細長い空間をデザインするにあたっては、地下鉄のトンネルにインスピレーションを受けて、タイル状に配置。製品ひとつひとつを大切に魅せるため、一つのメガネに対して一つの棚と背面がある仕掛けになっている。
●3月1日オープンのパパブブレでは、LIXILタイルを使用。
建築は北山亘さん。道路がそのままの延長線上で店内に延びるよう。
タイルをヘリボーン貼りにして矢印のようにし、目地も30mmと大きく開けている。タイルでつくったサインをグラフィックとして壁に貼る。
挟まれた路地のように屋台風のレジカウンターがあり、奥にキッチンがあるように作られている。
パパブブレ ルミネエスト新宿店
http://torafu.com/works/ppbl2
建築家やデザイナーを育むプロジェクトへ
鈴野さんのポリシーは、「ひと物件につき、ひと素材」。だから工場に訪問して製造過程に入り込み、直接対話をしたいという。タイルは一枚だと反ってしまうので、できあがってから半分に割るという意味で必ず双子であるといったことにも感銘を受けたそうだ。
1億近いビューを獲得した下記の人気動画を見ながら、鈴野さんが次のようにコメントした。
https://youtu.be/mn1DEeyqaT4
「そもそもタイルはもっと身近なものであって、本来は自分で作るようなもののはず」
タイルの広がりは、カタログからは知れない、無限の広がりを持ったものだ。鈴野さんも今回をきっかけに「デザイナー”風”というのではなく、建築家やデザイナーを作っていくプロジェクトになってほしい」と期待を込めた。
新築納期の短期化とリノベーションの普及により、あとから入れ替えできるタイルや、よりスピーディーに施工できるものが市場では求められているという。また、テクノロジーの進化とともに、エコカラットのような機能性とデザインを両立した製品が今後増えていくだろう。
そんな中で、工業製品に期待される一定の範囲での規格化と、焼き物ならではのばらつきやゆらぎのような風合いのせめぎ合いはつづく。最終的には人の感性に委ねられる建築の世界にあって、個人的には、カスタムの世界でのタイルの躍進を期待したいところだ。