見出し画像

079 人材ビジョンとは何か? 具体的にどういう風に表現したらいいのか?


人材ビジョンとは何か?

企業のビジョンと言ったら、通常、事業ビジョンのことを指す

でも、最近は事業ビジョンと同等かそれ以上に人材ビジョンが重視されだしている

というわけで今回はその人材ビジョンについての話をする

ところで人材ビジョンとは何だろう

あえて定義づけするなら次のとおり

企業が社員(将来の社員含む)に期待する長期的な成長や能力開発の方向性を示す言葉

要するに「社員の成長の方向性」である

と言っても人材ビジョンの対象は社員と求職者だけじゃない

顧客・取引先・支援機関など、ステークホルダー全員だ

彼らは、人材ビジョンを見て「付き合うに値する会社かどうか」を判断する

なぜなら、人材ビジョンはその会社の「人材の質」を現わすからだ

分かってくれたかな?

まだピンとこない人のために、この後、人材ビジョンの具体的な例を挙げておく

なぜ人材ビジョンが必要になったのか?

ところで、なぜ? 今? 人材ビジョンが必要になったのか?

ざっくり言えば次のとおり

「企業が働き手を選ぶ時代」から「働き手が企業を選ぶ時代」になったから

どうだろう?

ひと昔前まで、企業が働き手を選んでいた

実態はともかく、企業側はそう思い込んでいた(思い込もうとしていた)

でも残念ながら、もうそんな時代じゃない

個人の働き方に関するニーズはとっくに企業の平均的な現状を追い越しており、企業側が働き手を選べる状況にはない

それは労働条件レベルの話ではない

働き手の人生に関わるレベルで働き手のニーズは高度化している

どういうことかと言えば、働き手ニーズは自己実現志向になったということだ

分かりやすく言えば、「成長させてくれる会社で働きたい」ってこと

世の中の変化と働き手の自己実現ニーズの関係は次のとおり

  • VUCA:社会の変動・不確実性・複雑性・曖昧性が高まるので、働き手は10年後に食いはぐれしない実力を身につけさせてくれる企業を選ぶ

  • 人生100年時代:一人一人の働く期間が長くなるのに対し企業寿命は短命化傾向。そのため働き手は何度も転職することが前提になり、転職できるだけの実力を身につけさせてくれる会社を選ぶ

  • 第四次産業革命:AI化やロボット化はオールドビジネスやルーチンワークを駆逐する。働き手は陳腐化しやすいテクニカルスキルよりも、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルを高めてくれる会社を選ぶ

  • 人材の流動化:多様な働き方と転職市場の活性化により、ますます働き手が企業を選ぶようになる

  • ダイバーシティ:上記に伴い働き方や価値観の多様性が進み、企業はダイバーシティを前提にした経営をするようになる

  • 自己実現志向:上記の状況に適応するため、働き手は自分の潜在能力を最大限に発揮したい欲求を高め、それに見合った企業を選ぶようになる

このように「働き手が企業を選ぶ時代」になりつつあるわけだけど、問題は「どうやって自分を成長させてくれる企業を見つけるのか?」である

その判断材料になるものが「人材ビジョン」だ

人材ビジョンを持つことで経営はどう変わるのか?

さて、人材ビジョンが必要になった背景は分かったと思うけど、ここからは「人材ビジョンを持つことで経営はどう変わるのか?」の話をする

まず下の概念図をじっくり見てもらいたい

これからの経営概念図 筆者

上記の「これからの経営」がループになっていることに気付いてもらいたい

その起点になるのが人材ビジョン(と事業ビジョン)である

ちなみに、今までは募集次第で人員確保ができたから、事業ビジョンさえあれば十分だったけど、今や「働き手が企業を選ぶ時代」だから、それだけだと働き手から選ばれず、人材が採用できなくなる

採用できないだけならまだしも退職者がどんどん現れて、最悪は労務倒産なんてこともあり得る

それを防ぐためにも人材ビジョンは必要

もちろん人材ビジョンさえ整えれば働き手が集まるなんてことはない

中身の伴わない人材ビジョンは「単なる能書き」だからね

大事なことは「人材ビジョンからバックキャスティングした組織運営」と「ステークホルダーとのコミュニケーション」である

今回は人材ビジョンの話中心だから運営方法については簡単に済ませるけど、ざっくり言えば次のとおり

  • 方針:人材ビジョンを達成するための方針を決める

  • 計画:上記方針を具体化する

  • 実施:具体化された計画を愚直にこなす

  • 見直し:実施した結果を基に方針や計画を見直す

「人材ビジョンからバックキャスティングした組織運営」について興味のある方は拙書『自律型組織をデザインする』を参考にしてもらえれば幸いです。

人材ビジョンの例

「理屈はいいから人材ビジョンの例を示してくれ」って人もいるだろうから、ここからは人材ビジョンの例を示す

これらは実際の人材ビジョンではなく、あくまでも私の創作物であると理解した上で参考にしてもらいたい

ちなみにここでは「採用方針」「育成方針」「キャリア開発方針」「リーダーシップ発揮方針」「ステークホルダー方針」も入れているが、会社の実情に合わせて柔軟に方針を考えてもらいたい

1.技術力を重視した企業の例

【人材ビジョン】
私たちは、革新と技術のフロンティアを切り拓くことを使命とし、専門分野で卓越した技術力と知識を持つ人材を求めます。私たちの成功は、優れた人材の力によって成り立ちます。そのため、以下の指針を定め、優秀な人材を引き付け、育成し、キャリアを支援します
【採用方針】
①技術力と専門知識を重視します
②多様性と包括性を考慮した採用をします
③当社文化との適合を重視します
【育成方針】
①継続的な教育と研修を行います
②メンターシッププログラムを持ちます
③自己啓発を奨励しています
【キャリア開発方針】
①キャリアパスを明確化します
②定期的なキャリアカウンセリングをします
③定期的なパフォーマンス評価とフィードバックをします
【リーダーシップ発揮方針】
①リーダー育成プログラムを持ちます
②リーダーの役割モデルを示します
③エンパワーメントを推進します
【ステークホルダー・コミュニケーション方針】
①経営の透明性を確保します
②定期的な双方向コミュニケーションの場を設けます
③長期的関係の構築を図ります

筆者作成

2.自主性や創造性を重視する企業の例

【人材ビジョン】
私たちは、自主性と創造性を持つ人材を採用・育成することで、組織の革新と成長を推進します。創造的な思考と自主的な行動が、新しい価値を生み出し、持続可能な未来を築く鍵となります。このビジョンを実現するために、以下の方針を設定します
【採用方針】
①創造性を評価します
②自主性を確認します
③当社文化との適合を重視します
【育成方針】
①クリエイティビティを促進します
②自己啓発を支援します
③メンバー同士のフィードバックやサポートを推進します
【キャリア開発方針】
①柔軟なキャリアパスを用意します
②チャレンジングなプロジェクトを提供します
③メンターシッププログラムを持ちます
【リーダーシップ発揮の方針】
①柔軟なリーダーシップスタイルに対応します
②エンパワーメントをします
③インクルーシブな環境を提供します
【ステークホルダー・コミュニケーションの指針】
①透明性のある情報共有をします
②定期的にオープンな対話の場を設けます
③ステークホルダーとの共創を推進します

筆者作成

3.イノベーションを推進する企業の例

【人材ビジョン】
私たちは、革新と創造を推進するために、新規事業の立ち上げとイノベーションに貢献する人材を求めます。このビジョンを実現するために、柔軟性、創造力、リスクを取る勇気を持つ人材を重視し、育成します
【採用の指針】
①創造的な発想力の評価
②リスクテイキングの精神
③迅速な適応能力
【育成の指針】
①イノベーション研修
②プロトタイプ開発の支援
③失敗を学びに
【キャリア開発の指針】
①キャリアパスの柔軟性
②チャレンジングなプロジェクトの提供
③メンターシッププログラム
【リーダーシップの指針】
①変革型リーダーシップ
②エンパワーメント
③オープンなコミュニケーション
【ステークホルダー・コミュニケーションの指針】
①透明性のある情報共有
②双方向コミュニケーション
③共創の推進

筆者作成

4.社会貢献を重視する企業の例

【人材ビジョン】
私たちは、社会貢献とコミュニティ支援に情熱を持つ人材を求めます。社会に対する責任を果たし、持続可能な未来を創るために、社員一人ひとりが積極的に貢献できる環境を提供します。このビジョンを実現するために、以下の方針を設定します
【採用方針】
①社会貢献への情熱を評価します
②当社文化との適合を重視します
③多様性の尊重を念頭に採用します
【育成方針】
①社会貢献活動を奨励します
②コミュニティとの連携を支援します
③SDGs教育をします
【キャリア開発方針】
①社会貢献に基づくキャリアパスを提供します
②定期的なキャリアカウンセリングを実施します
③リーダーシップ育成研修を行います
【リーダーシップ発揮の方針】
①地域を巻き込むリーダーシップを推奨します
②エンパワーメントします
③協力とコラボレーションを支援します
【ステークホルダー・コミュニケーション方針】
①透明性のある情報共有をします
②積極的な対話の場を設けます
③持続可能な関係の構築を図ります

筆者作成

『自律型組織をデザインする』好評発売中!!


いいなと思ったら応援しよう!