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058 「経営デザインシート」を活用した経営革新の進め方

今回は経営デザインシートの話

「経営デザインシート」とは、内閣府・知的財産戦略推進事務局が2018年にリリースした思考補助ツールである

経営デザインシート(簡易版)

2020年、経営デザインシートに関する本を発売した当時、周りに「経営デザインシート」を知っている人はいなかったと思う

ところが最近、同業者や支援機関が経営デザインシートを話題にするのを耳にするようになった

コロナが収まり経営デザインし直そうとする経営者が増えたのかな?

それは分からないけど、改めて経営デザインシートについてnoteにまとめることにした


経営デザインシート、5つの特徴

1)未来志向

ありがちな経営方針書は何十ページもあり「これじゃ誰も読まないな…」ってのが多い

そうなる理由は次のことが考えられる

なぜ経営方針書は分厚くなるのか?

これらムダの多い作業の背景に、日本人特有の道徳観があると思っている

先人の知恵を尊重し、形を重視し、言われたとおりに、とにかく体を動かす…、という農耕民族的または儒教的な道徳観だ

言うなれば「過去志向」である

おかげで日本は他のアジア諸国より近代化がうまくいったかも知れないけれど、それは工業時代の話

不確実性、多様性、創造性がキーワードの時代には、そんな「過去志向」から「未来志向」に発想を改める必要がある

これに役立つのが「経営デザインシート」である

2)ペラ1枚

ところで分厚い経営方針書には何が書かれているのか?

中身の大半を占めているのは前期の結果や外部環境分析など「過去の話」じゃないかな

そうなる理由は先ほど書いたとおりだけど、肝心の方針が「前年比〇%アップ」で済まされていたら、それはちょっと寂しい

経営方針書なのだから「経営方針」を主役にしないとね

その点、経営デザインシートは「ペラ1枚」なので、方針以外のことを書くスペースは無い

経営方針書をペラ1枚で済ませるメリット

3)バックキャスティング

経営デザインシートは、まず「望ましい未来の姿」を想定し、そこから逆算で「今やるべきこと」を示す形になっている

このように未来から逆算するやり方を「バックキャスティング」と言う

そのメリットは「望ましい未来の姿」に向かって真っ直ぐに進めること

完璧な実現はあり得ないにしても、10年後振り返った時、「半分はできたかな」と言えるくらいの実現なら割と出来てしまう

これとは逆に「今」の解決に集中するやり方をフォーキャスティングと呼ぶ

このやり方だと往々にして重要度より緊急度の高いことを優先してしまう

進むべき方向が定まっていないからだ

そのため、気づけば「何も変わらない10年を費やしてしまった」なんて笑えない話を聞くことも珍しくない

バックキャスティングとフォーキャスティングの違いのイメージ

ところで未来は本当に想定可能なのか?

大災害、パンデミック、戦争、経済危機に出くわすたび、我々は「未来を想定するなんて無理」と思ってしまう

技術革新などによる「経済的な変動」「人々の価値観の変動」「これらの後に起こる制度の変動」などについても同様の感触を持つ

これらの例を出すまでもなく未来は予測不可能なことは間違いない

でも、冷めた視点で世の中を見てもらいたい

思うほど世の中は変わっていないことに気づくだろう

見廻せば、街並みも、走っている車も、歩く人々の姿も、10年前と比べてそんなに変わっていない

建物が更新されるのは何十年も掛かるし、工業製品を生み出す生産ラインもそう簡単に変えられないからだ

いっけん変化が激しそうな文化やライフスタイルだって、変化は若者中心であり、人口の過半数を占める中年以降の人たちは十年一日(じゅうねんいちじつ)で過ごしている

実は、予測不可能なのは突発的なことだけで、世の中はそんなに変わらない

違いがあるとしたら世代の違いとそれに伴う価値観やライフスタイルの違いくらい

要するに「社会の変化=世代交代」ってこと

であれば話は簡単

将来を想定したければ、次世代を観察し、次世代と対話するか、次世代に想定作業を任せれば良い

次世代が、今、理想と考えていることを、そのまま「望ましい未来の姿」に置き換える

それをバックキャスティングの起点にすれば、今やるべきことが抽出できる

4)プロセス志向

経営デザインシートの作成を「単なる書類づくり」ではない

一大プロジェクト作業だと思った方が良い

経営デザインシート作成プロジェクトの仕事

シート自体は「ペラ1枚」だけど、そこに至る道のりは長く険しい

これら膨大な作業が経営デザインシートづくりの本体であり、シートそのものは「氷山の一角」に過ぎないんだよね

氷山の一角のイメージ

経営デザインシートづくりは数名の社員プロジェクトで行うことをお勧めしている

その際、社長の関わりは最低限にとどめた方が良い

「経営方針づくりは次世代に任せる」が基本スタンスということもあるけど、それだけじゃない

次世代中心にシートづくりをすること自体「社員の主体性アップ」や「組織の活性化」につながるからだ

組織の3要素(下図)で説明すれば、「共通目的を持ち、コミュニケーションすれば、貢献意欲が高まる」のである

バーナードの組織3要素

プロジェクトの規模はだいたい数名程度

作成期間は、50人以下の規模の会社の場合、半年ほどだ

その期間、次世代プロジェクトメンバーたちは、次のようなかけがえの無い体験をする

✔メンバー同士が本気で語り合う体験

✔組織やステークホルダーを巻き込む体験

✔繰り返し行う仮説と検証の体験

もしかしたら初めての「経営感覚を味わう体験」や「組織の変化を体感する体験」になるかも知れない

人の成長に強くインパクトを与えるものは、「身の丈を超えた経験」

後になって「事前に大変さが分かっていたら絶対にやらなかった」と語るような辛い体験が人を一皮むけさせる

プロジェクト期間中、彼らは何度も悩み、窮地に立たされることだろう

その際、仲間同士で支え合いながら窮地を脱していく経験が、経営スキル、組織運営スキルを短期間で習得させる

理論的に言えば、経験→内省→教訓→実践の「経験学習サイクル」を高速回転させたと言える

経験学習サイクル

5)国が後押しする確かさ

5番目の特徴として「国が後押しする確かさ」が挙げられる

もしかしたら、これが一番のインパクトある特徴かも知れない

いくら私が「経営デザインシートの特徴は、未来志向で、ペラ1枚で、バックキャストで、作成プロセスが大事で…」、と言ったところで「それはあなたの意見でしょ」と言われたら、そこで終わる

それよりも「内閣府・知的財産戦略推進事務局が2018年にリリースした思考補助ツールである」と言った方が説得力がある

経営デザインシートは公的な補助金申請書の添付書類に指定されたり、金融機関の事業性評価シートに使われている

その実績だけでも信頼に値する

理論的背景にある「デザイン思考」とは何か

「経営デザインシート」と言った時、「デザイン? 何か描くの?」と思った人もいるだろう

確かに、「経営状態の見える化」や「将来像のビジュアル化」の意味で語っているなら、「何かを描く」はさほど間違った表現ではない

でも、デザイン本来の意味は「目的設定・計画策定・仕様表現からなる一連のプロセス」

完成した絵や形を指すのではなく、プロセスを意味している

では、デザインとは、どういうプロセスなのか?

それを説明するのが「デザイン思考」と呼ばれる思考法だ

その特徴は「人に焦点」「発散と収束」「仮説と検証」の3点でデザインを説明している

1)人に焦点

我々はとかく事柄に囚われやすい

対話をしていても、モノの話が出たとたん「それ何?」「どういうモノ?」「どこで手に入るの?」と事柄に引っ張られる

でも、それは対話自体を壊す行為でもある

事柄に焦点の当たった質問は、自己中心的で、薄っぺらなものになりやすい

それよりも人の「行動」「考え方」「好み」に焦点を当て続ける方が、ずっと情報量が多くなる

対話相手のどこに焦点を当てるのか? ①行動
対話相手のどこに焦点を当てるのか? ②考え方
対話相手のどこに焦点を当てるのか? ③好み

人に焦点を当てた対話は、情報量が増えるだけでなく、躍動感があり対話自体が楽しくなる

この躍動感を「発散と収束」とも言うのだけど、この現象が始まると、予想外の発想や展開を生み出しやすくなる

2)発散と収束

従来型の働き方が染みついている人にとって、発散と収束を繰り返すプロセスは、ムダに感じるかも知れない

「結論だけ教えてくれ」と苛つく人だっているんじゃないかな

確かに、労働者が機械みたいな働き方をしていた工業時代だったら、できるだけ「正確」かつ「端的」で「タイムリー」に指示・命令をしてくれた方が生産性は上がった

でも、今そのやり方は通用しない

機械でもできる仕事の大半は、それこそ機械が担うようになったからね

それよりも「深い思考」「深い話し合い」をした方が現代においては知的生産性が上がるので効率的である

生産性の階層イメージ

対話における「発散と収束」は、「知的生産物」を生み出すエンジンのピストン運動みたいなものだと思えばよい

発散・収束サイクルの図

この発散・収束サイクルを回すためには、「楽しさ」というエネルギーが必要である

共通目的に向かって、皆が貢献意欲を発揮する「仕事自体の楽しさ」さえあれば、発散・収束サイクルは回り続け、新たな発想や行動が現れ続ける

3)仮説と検証

前言をひっくり返すようだけど、実は「発散と収束」だけじゃ、適切なビジネスアイデアは生まれない

確かに、人の内面に関することなら、対話による「発散と収束」だけでも、たくさんの気付きが得られる

でも、ビジネスにおいてはそれだけでは足りない

様々な利害関係者や制度など、配慮すべき外部環境がある

方針策定作業のイメージ

もし、外部環境を踏まえず対話だけで方針を作ったらどうなるか?

うまく行けば独創的なものになるかも知れないけれど、往々にして内輪の妄想で終わることだろう

それを防ぐために、外部環境に適応するための「仮説と検証」をする必要がある

仮説・検証サイクル

なお仮説とは、天気予報のような結果を予測することじゃなく「暫定的な説明」のことを言う

例えば、ビジョンや方針は、経営理念を実現するための仮説と言える

経営理念を実現するため、人、モノ、金、情報をどのように集め、どのように使ったらいいのか?

その仕組みを説明するのがビジョンや方針ってこと

プロジェクト活動中、様々な仮説と検証を繰り返すことになる

その繰り返し作業の末、生き残った仮説がビジョンになり、方針になるんだよね

このスタンスを忘れると、拙速に未来を予測しようとし、妄想に走ったり、無力感に襲われたりするから、くれぐれも気をつけてもらいたい

経営デザインシートの作り方

だいぶ前置きが長くなってしまったけど、ここから経営デザインシートの作り方の話をする

とは言うものの、経営デザインシートに興味のある方は限られているだろうから、ここから先は有料とさせていただく

ちなみに有料部分は文字数約6000字、画像19枚である

ここから先は

5,880字 / 19画像

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