つんとする味
わたしたちふたりの生活は、某テーマパークの、目と鼻の先にある。
わたしたちが昼頃に起き出す休日、外にはいつも、家族づれや仲のよさそうな恋人たちの姿。
ぬるい風が吹くベランダから、彼らを眺めている。
行きゆく人はみんな、お洒落をしていて、楽しそうだ。幸せそうだ。
少しだけ。ほんの少しだけ、うらやましかった。
わたしたちは、みんなみたいにはしゃぐのが、なんだか恥ずかしい。
わたしたちふたりは、夢の国に行くようなふたりじゃないのだ。
のそり、と用を足しに起きた彼は、そのまま目が覚めたようだ。
ぼうっと外を眺めるわたしを後ろから抱きしめて、
わたしのうなじに眠たい顔を押しつけた。
『あそこにはさ、満を持したとき行こうか。』
ある夏の夜に、ささやかな風で涼みながら、彼がそう言っていたのを思い出す。
あのときわたしたちは、窓際で抱き合いながら、パークの光が消えゆくのを見ていた。
『何、マンをジして、って。』
あのときわたしはばかなふりをした。
そうしたら、彼がわたしの頭を撫でるのをやめないでいてくれる気がしたから。
「お昼は、蕎麦にしよう」
「いいね、わさびある?」
この生活も悪くない。ふたりの生活は、いつも夢うつつ。
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