あいさつもできなくなって
2階へと上がる階段の前でのことだ。
同じアパートに住んでる方と、たまたま帰る時間が重なった。
おそらく50代後半の男性。もしかしたら60代かもしれない。廊下を微かに照らす程度の灯りしかないため顔はよく見えなかった。
流石にこの状況で無視はできないなと思っていたが、瞬時にあいさつの言葉が出てこなかった。
「こんばんわ」
落ち着いた口調で、その人は先にあいさつをしてくれた。ハッとして、僕も「こんばんわ」と返した。
部屋に帰宅してから換気扇の下で煙草を吸いながら「ああ、そうだ。『こんばんわ』だったな」と心の中で呟いた。
いつからか、目上の人や会社の人には「お疲れ様です」、友人や後輩には「おつかれー」「おつ」などが自然と出てくるあいさつの言葉になっていた。
労うでもなく、反射的に。
そうだ。夜は「こんばんわ」だった。幼少期にできていたことが三十路になってできなくなるとは。
「こんばんわ」なんて口に出したのいつ以来だろうか。ぼんやりと記憶を辿ってみたら、近所のBARで飲む時は毎回使っていたことを思い出して少し笑う。
あいさつくらい、ちゃんとできないとダメですね。そんな夜。
関係ないけど勝手に尊敬している松永天馬さんがこんなことを呟いていた。
ため息が出るほど、カッコイイ。
そんなわけで宣伝みたいだけど、最後にこの曲を。松永天馬で「ポルノグラファー」
この文章をお読みになられているということは、最後まで投稿内容に目を通してくださったのですね。ありがとうございます。これからも頑張って投稿します。今後とも、あなたの心のヒモ「ファジーネーブル」をどうぞよろしくお願いします。