小説「ジョハリの窓」 第1章:オープンな領域 第4節:恋愛に不向きな私
それから毎日のように下校時に校門の外で待っている純平。
好意を寄せてくれる純平にそんなに悪い気は、しない。
でも、お付き合する気には、なれない。
私は、男子と付き合った事が無い。
そりゃ私だって人間だから男性に興味がないわけじゃない。
友人の彩芽が付き合っている彼との経験話を聞かされ、妄想してしまう事もある。
でも、胸をときめかせる男子に巡り合った事が無い。
純平にもトキメキを感じないし、どちらかと言うとうっとおしさを感じてしまう。
恋愛の事が良くわからない。
『恋愛ってお互いを分かり合う事だと』友人の彩芽が言っていた。
それを聞いて少し考えこんでしまった。
趣味のコスプレは、恥ずかしくて誰にも話ができない。
部屋の中でひっそりコスプレして裏アカでSNSに投稿しているがその事を知っているのは、彩芽だけだ。親も知らない。
つまらない男子に弱みを握られたくないと言う思いもある。
でも、付き合う彼には、”Good”の評価をほしいと思う。
それを判ってくれる男子としか付き合えない。
『恥ずかしいけど評価は、ほしい』と揺れる自分の心。
純平と並んで歩く春菜。
私は、思い切って聞いてみた。
「・・・純平ってコスプレの事どう思う」
「はっ? コスプレ? 春菜、コスプレーヤーなの?」
言った後で少し後悔した。
「ち、違うって。例えば、例えばよ」
心臓がバクバクしている。
「友達よ・・・ そう、友達にいるのよコスプレーヤー」
「うん、いいと思うよ。僕もコスプレ好きだな」
『本当か?私のコスプレ姿見たら引いてしまうんじゃないの』と疑心暗鬼になる。
冷や汗が額に滲み顔が熱い。
『ああ、言うんじゃなかった』後悔が私の心を閉ざす。
黙ってうつむく私を覗みこむ純平。
「ん? どうしたの春菜」
「あーあれ見て!」
ごまかそうと思って指さす先に数人の人垣ができている。
何やら街の不良らしき少年達が杖を持ったおばあさんを取り囲んでもめている。
小柄で白髪のか弱いおばあさんだ。
少年達は、腕にタトゥーを入れている。多分タトゥーシールだ。
「ああ、ああいう連中には、関わらない方がいいよ」
と目をそらすように脇を通り過ぎようと歩く純平。
しかし、知らんぷりなど私には、できない。
立ち止まり、おばあさんに声をかける。
「どうしました? 大丈夫ですか」
「はあ? あんただれ?」
おばあさんの意外な反応に躊躇した。
「いや・・通りすがりの女子高生ですけど・・」
「関係ないならひっこんでな」
「えー・・そうですか、じゃあ・・」
『何なんだ? 余計なおせっかいだったのか?』と、思った。
行こうとするとおばあさんが「せいばいじゃ!」と
持っていた杖で少年達に殴りかかる。
驚いた私。『ひょえーバイオレンス』
「パシ!」力なく振り下ろされた杖が少年の頭を直撃。
「いて!」頭を押さえる少年。
「クソ婆やりやがったな」
他の少年達は、半笑いで見ている。
おばあさんの杖を取り上げて膝で真っ二つに折ってしまった。
私は、思わずおばあさんの前に立ちふさがった。
「やめなよ。何があったのかしらないけど。お年寄りでしょ」
「この婆は、俺たちに言いがかりをつけて金出せって。普通、逆でしょ」
怒っている少年。
私は、困惑したようにおばあさんを見た。
「おばあさん、ほんとなの?」
「あー、何だお前、文句あんのか? 女子高生」
「女子高生って・・おばあさんがカツアゲしてんの」
「カツアゲ? へ、こいつらクズなんだよ。親のすねをかじって遊びまわって。だからよ、めぐまれないばあさんに少し分けろって言ったんだよ。えー、それのどこが悪いのさ。何かい、おめーが金出すのかい。女子高生!」
「いや・・お金はちょっと」
少年達は、向きを変えて逃げる。
「お前たち! 待ちな」
少年達は、あっという間に姿が見えなくなる。
もしかしたらあの少年達は、不良なんかじゃ無かったのかもしれない。
おばあさんが私をにらんでいる。
「おめーよー、逃げられちゃったじゃねーかよ。どうしてくれんだよこの杖!」
折れた杖を私に突き付ける。
「はあ、でも私のせいじゃないし・・」
電柱の影でじっと見ている純平。
「弁償しな! 女子高生!」
「はあ? 何で?」
折れた杖で私の持ってるカバンを突っつく。
仕方なくカバンの中から財布を取り出し中を見る。
「あー、160円しかないんですけど」
「貧乏人か! お前は。今どきの女子高生が160円? そこに隠れている彼氏に出させな」
電柱の影に隠れている純平に声を掛ける。
「純平、ちょっと」手招きをする。
すると「またねー」と言って走って逃げる純平。
「おめーよー! 裏切者!」
「へ? 何だあいつ。お前の彼氏じゃなかったのか? それにしてもクソ野郎だなあいつ」
変なおばあさん。
やっぱり恋愛には、不向きな私だった。