オリジナル小説 高所で会いましょう。#5
「ふぅ……結構歩いたな……。」
「そうですね……。」
「疲れたか?」
「はい……少しだけですが……。」
「じゃあさっきの休憩所に戻るか?」
そう提案するとサーシャは小さく首を振る。
「いえ、そこまでする必要は無いと思います。まだ時間はありますし……。」
「そうか……でもあまり無理をするなよ。」
「ええ、分かっていますわ。」
そう言うとサーシャは再び歩き出す。
そんなサーシャを見て、ケントは思うのであった。
(やっぱりこの子はまだ子供だもんな。)
(やっぱりもう少しペースを落としてあげた方がいいのかな?)
(でも、この子が大丈夫だって言ってるんだし……。)
(うーん……。)
(まぁ、本人がそうしたいって言うんだし、それで良いか……。)
そう結論を出すと、ケントも再び足を進める。
それからしばらく歩いていると――
「ん?あれは……」
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと待ってくれ。」
(確かあの辺は、さっき俺が魔物を倒した場所だよな?)
そう思い、その場所に近づいていくケント達。するとそこには――
――グチャッ!
――ベチョ!
――ビチ!
――ドサッ!
――バタン!
――ゴトッ! 大量の血痕があった。
そしてその中には、先ほどケント達が倒した魔物の死体もあった。
しかし、不思議なことに死体の数は4体しかなかった。
そして、ケントはそのことに疑問を覚える。
なぜなら、ケント達は3体の魔物を倒していたからだ。
しかし、その場にはそれ以上の数の死骸
「これは一体……」
「どうなっているのでしょうか?」
サーシャは不思議そうな顔をしている。しかし、ケントには心当たりがある。
「多分だけど、誰かが助けてくれたんじゃないかな。」
「それは一体?」
サーシャは首を傾げる。
「ほら、サーシャは覚えてない?最初に会った時に、サーシャは怪我をしていただろう?」
サーシャはハッとした表情を浮かべると、すぐに首を横に振る。
その様子にケントは苦笑する。
サーシャが首を振った理由はなんとなく分かったからだ。
おそらく、サーシャはあの場で起こった出来事を思い出したくないのであろう。
しかし、いつまでも目を背け続けるわけにもいかないと考えたのだろうか。
サーシャは意を決したような顔で話し出した。
あの森の中でサーシャを襲った化け物の正体は、彼女が連れているスライムであること。
そして
「私はその魔獣によって、一度殺されたはずなのです。」
そしてその時、サーシャの命は尽きようとしていた。
しかし、突然自分の体に光が灯り、気づいた時には目の前にいたはずの魔物の姿は無くなっていたのだという。
そんなことをサーシャは語る。
「それは、間違いなく神具の力だね……。」
「シングッ?」
サーシャはキョトンとする。そしてそのまま固まってしまう。
それも仕方がないことだ。
なぜなら、それはあまりにも信じられないことだからだ。
なにせそれは
『神の与えた奇跡』と呼ばれるものだからだ。
神の与える奇跡とは文字通りの意味で、神が起こすことができると言われているもののことである。
例えば、雨を降らせたり、作物の実りをよくしたり、病を治したりすることが出来るとされているのだ。
他にも、死んだ者を生き返らせることや、時間を巻き戻すことなども可能だとされている。
「でも、どうして私なんかのために……。」
「それは俺も分からないけど、サーシャを助けようとしたのは間違い無いと思うよ。」
ケントの言葉を聞いたサーシャは俯くと、静かに泣き出してしまう。
「わ、私がしっかりしてなかったから……私がもっとちゃんとしていれば……こんなことにはならなかったのに……なのに、それなのに……!」
「そんなことはないよ。」
「えっ……?」
「確かに、今回のことは君のせいかもしれない。君がもう少ししっかりとしていれば、あんな魔物に襲われても対処できたのかもしれない。」
「……」
「それでも、君はあの時精一杯頑張ったじゃないか。」
「え?」
「俺は見ていたぞ。あの時の君は、とても勇敢だった。」
「……」
「それになにより、あの子は最後まで諦めずに戦ったんだ。」
「……グスッ」
「あの子はとても強い子だ。」
「……ヒックッ」
サーシャは嗚咽混じりの声を出しながら、必死になって涙を止めようとする。
しかし、サーシャの瞳からは次々と大粒の雫が流れ落ちていく。
そして、サーシャは声を上げて泣いた。
今まで溜め込んできた感情を全て吐き出すかの如く。
しばらくの間泣いていると、
「……そろそろいいか?」
「……はい……。」
「落ち着いたか?」
「……なんとか……ですが……。」
そう答えると、サーシャは顔を真っ赤にする。
どうやら、今になって自分が泣いていたことを思いだし恥ずかしくなったようだ。
そんなサー
「さてと、これからどうするかだが……。」
「とりあえず、町まで行くってことでいいんだよな?」
「ああ、それで良いと思うよ。」
(正直、このままここにいても何も解決しないし……。)
(サーシャも少し落ち着いてくれたみたいだしな……。)
(しかし……)
(あの魔物が、一体何者なのかは結局分からずじまいになってしまったな……。)
(また会えたら、聞いてみるか……。)
(まぁ、次会うことがあるかなんて分からないんだけどな。)
(まぁ、そこは考えても仕方ないか……。)
(それより今は、サーシャのことだよな。)
ケントはサーシャの方を見る。すると――
サーシャは顔を赤くしながらチラッチラッとこちらの様子を伺っていた。
そんな様子に気づきながらも無視していたケントだったが、しばらく見つめていると流石に耐えきれなくなり苦笑する。
「ハハッ、分かった分かった。もう大丈夫そうだね。」
「あっ……」
サーシャは顔をさらに赤くすると、下を向いてしまう。
「じゃあ、行こうか。」
「はい……」
そう言うとケント達は歩き出すのであった。
それからしばらく歩いていると、
「ん?あれは……」
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと待ってくれ。」
そう言って、その場所へと近づいていくケント達。
そこには――
続く
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