ボクのやるせない怒り

二人だけの新年会。私たちは久し振りに盃を交わす。
「あけまして」赤ヤンが言った。
私は盃を持ち上げ返礼とすると、「とりあえず謝ってもらってもいいですか?」と言った。
「はい? 僕がですか?」悪人面でとぼける赤ヤン。
「ええ、勿論あなたですよ」
「なんでですか?」
「いいから謝って下さい。話はそれからです。話を聞けば『ああ、むしろ率先して頭を下げるべきでした。許して下さい』って感じになりますから」
「マジですか。じゃあ……ごめんなさい」赤ヤンは不承不承といった体でペコリと頭を下げた。
「いいでしょう。僕はそんなに気にしてないですから。大丈夫ですよ。さ、飲みましょう」
「はァ」
暫し私たちは盃を交わした。
「で?」やおら赤ヤンが訊いてくる。
「で、とは?」
「いや……だから僕が謝った理由ですよ」
「ああ……その話ですか……します?」
「いや、するでしょう!」
「じゃ、まァ、話っていうか説教みたいな感じになっちゃいますけど」
「あ、はい」
「あのですね、なんで野球マンガの主人公っみんなピッチャーなんですか?」
「はァ?」
「いや、巨人の星とか」
「あ?」
「タッチとか」
「お?」
「ドームくんとか、ルーキーズとか、メジャーとかみ~んなピッチャーばかりじゃないですか。僕ねェ、それが許せないんですよ」
「いや……かっ飛ばせキヨハラくんって知ってます? それとか、あぶさんも野手が主人公ですよ」
「いや、もちろん存じてますよ。でも、それってどっちも実在の選手が主人公じゃないですか。だから無効票です」
「ドカベンがありますよ」
「いや、あれが唯一の例外ですよ。ドカベン以外はみんなピッチャーなんです」
「ふ~ん」
「それだけじゃありませんよ。野球マンガって大抵ライバルのスラッガーと誰もいないグランドとかで一対一の勝負しますよね」
「そう……ですか?」
「しますよ。その時、不文律か知らんけど大抵直球勝負なんですよ」
「はァ」
「アレってバッター側の身勝手な押し付けじゃないですか?」
「……」
「主人公のピッチャーが技巧派だったらどうすんですか?」
「どう……する?」
「直球しか投げられないなんて不利じゃないですか」
「は、はァ」
「それに、アレって大抵一打席勝負ですよね?」
「ああ……かもしんないですね」
「それっておかしくないですか? バッターってのは三打席の中で一本でもヒットを打てばそれだけで首位打者を狙えるくらいの高打率なんですよ。それがたった一打席だなんて。ナンセンスですわ」
「はァ」
「やるなら五打席対決ですね。ほら、試合の時ってだいたい五打席くらい回ってくるじゃないですか」
「はァ」
「はァ……じゃないですよ。どうなんですか、そこんところは」
「いや……だから帳尻が合ってるんじゃないですか?」
「帳尻?」
「ええ、ピッチャーは直球しか投げない。その代わり一打席勝負。ね、プラマイゼロでイーブンですわ」
「なるほど……ヤンキーのクセに考えましたね」
「で?」
「で、とは?」
「いや、なんでさっき謝らされたんですか?」
「だってアナタ元甲子園球児じゃないですか。野球に関する苦情は言ってもいいってことですよね?」
「とんだクレーマーですね」
「僕がですか?」
「ええ。とりあえず謝ってもらっていいですか? 土下座で」
「……」
こうして私は新年早々頭を下げさせられた。屈辱だ。許せない。キキに癒してもらおう。

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