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宙わたる教室 最終回までの奇跡と軌跡

今年10月8日から、NHKで放送しているドラマ『宙わたる教室』。
ごらんになって、ぎっちり胸を鷲掴みにされている方も多いのではないでしょうか?
私もその一人です。今期はヒューマンドラマが多く、珍しく?良作多しドラマ期だと私は思っていますが、このドラマはダントツです。
昨日録画していたものを視聴して、来週最終回とテロップが出た瞬間……せめてもう1話……と哀しみに駆られましたがそれは仕方ない。
そして最終回を前に、自分の感想や抱いた想いを記しておきたい。そう思い、文章に起こしている次第です。それでは、1話ずつとはまでは行かずとも、私が特に心に残ったシーンを上げながら、スタートします。


①設定も台詞も真新しくない、だけどなぜこんなにも胸打たれる?

私がこのドラマを通して、疑問を抱いていることがあるとすればこの部分。
舞台は定時制高校、たくさんの事情を抱えた人が、何か目的を持ってここへやってくる。キャラクターに置いても、キャラの王道を行くような台詞が多く、すっごく新感覚、と感じる要素はない。
だけど毎回涙してしまう。
話一旦逸れます。現代日本において、本、マンガ、映画何に置いても、何かしらの劇的感動、新感覚、涙って、必須とされていますよね。私は自分も小説を書いているので何となく感じるんですけど、淡々としたものはビジネスにならない。そしてヒューマンの描き手はたくさんいる。
だけど戻って、宙わたる教室。真新しさはないけれど、普遍的なテーマをどこまでも誠実にしつこく、優しく(易しくとも言える)、描いている気がするんですよね。

例えば第2話

アンジェラさんの知恵で、初めて実験成功!

定時制高校教師の藤竹(窪田くん演)は、高校に科学部を作ろうと考えていた。そして柳田岳人(小林くん演)を筆頭に、部は広がっていきます。最初は荒れ荒れだった柳田くん。彼はディスレクシア(学習障害)があり、頭はかなり良いのに、学習に遅れを取っていました。その事実を藤竹により知らされ涙するのですが(このシーンも切ない)、彼はそこを乗り越えて科学部に足を踏み入れます。第1期生で熱量ある彼は、もちろん部長。
そんな、たくさんの諦めを経験し、尖っていた彼が、実験に夢中になるシーン。人って、絶望から、こんな笑顔にまで辿り着くことがあるんですよ。って言うのを証明された瞬間だったように私は感じています。柳田くんに今後苦悩が待っているとしても、この瞬間の、わずか一片の笑顔が、堪らなく美しかった。

第4話も非常に良い。「金の卵の衝突実験」

柳田くんと長嶺さんの何とも決められない関係

私、個人的にこの回が一番好きかもしれません。
何でかって言うと、個性溢れる定時制高校の生徒たちが、それぞれを認め合い、譲り合い、尊重する……葛藤との延長戦上にある「自己決定」が見られたから。
長嶺さん(イッセー尾形さん演)は世代間のギャップを受け入れられず、柳田くんをはじめとした若者を一括りにし、否定します。しかし、長嶺さんにも高校へ行く理由があります。愛する奥さんの為に、病のせいで学びたくても学べない彼女を想って、懸命に学校に来ています。だからこそ、気だるそうにみえる若者が許せない。だけど、奥さんに諭され改心し、長嶺さんは自分の生い立ちや悔しさ、怒りを若者にぶつけ、クラス全体が距離を縮めていきます。
この回は、恐らく隕石同士の衝突を主題としているんだろうけど、まさにそれを模したのが、柳田くんと長嶺さんが衝突する光景。だったと思う。
長嶺さんは柳田くんを知り、柳田くんは長嶺さんを知り、
長嶺さんは柳田くんの必死さが伝わるノートを見ても、からかったりしなかったし、柳田くんも、多分これがきっかけで煙草を止めた。のでないかと考えています。
今の人って(私も少々老婆心っぽい)、なぜ何事も一括りや二分化にしたがるのでしょう?これをした人は悪人です、不審者です。気をつけましょう。SNSでもそれに限らず、よく見る傾向です。
多分、このドラマに出てくる人たちは、目の前の人たちをただただ「個人」として見ている。そこも大きな魅力の1つ。少なくとも私にはそう見えるのです。

②登場人物それぞれが抱えた傷、新しい傷の捉え方。

このドラマをを語る上で避けられないもの、それは、『傷』ではないかと、私は思っています。

恩師と生徒の衝突

定時制高校に通う皆さんは、それぞれが何かしらの「傷」を抱えています。いや、私だってそうだし、多くの人は生きながら、傷を負って行くものだと思います。辛いけれど、現実はそう。
物語終盤、ちょっとしたすれ違いがきっかけで、科学部は廃部寸前にまで追い込まれます。有名な大会に自分たちの研究を引っ提げて、参加する予定でした。でも、それも怪しくなってきた。その過程で一番傷を負ったのが、柳田くん。彼は研究(実験)に夢中になるあまり、部員と衝突し、そしていつのまにか抱いていた「もっと研究を続けたい、大学への希望」などと真っ正面から対峙することになり、現実を知り(できないことではないと信じたい)、また1つ傷を濃くします。
「諦めるのはには慣れていたつもりだったけど、やっぱり辛い」
この旨の台詞を耳にしたとき、筆者は考えました。
諦めるとは何だろう? ずっと心で反芻し、その言葉の正当な意味を、ぼーっと探し続けました。まだ、答えは出ていません。
だけど今回9話です。柳田くんは過去の友達とも話し合いをし、次のステップへと進もうとします。
それで、藤竹の方が弱って廃部を提案する最中、
(ここに至る背景は、9話を見て頂ければと思います)
柳田くんがやってきて言います。
「俺たちをもっとその気にさせろ!」
格好良すぎです。同時に思いました。
彼は傷ついたって、傷に自ら向かっていく。
柳田くんだけじゃない、藤竹先生も、柳田くんも長嶺さんも佳純ちゃんもアンジェラさんも、みんな走って傷に向かっていって、対話しているみたいだった。
向き合うと言うより、向かっていく。
その姿に私はずっと、魅了され憧れていたんだと、書きながら分かってきた気がします。

③演者の魂こもった「心理描写が」がすごすぎる!

最後に、このドラマがなぜここまで、人の心を掴むのか……
それは私的に一言で言うと、俳優さんたちの心理描写がすごいから。表題と一緒ですね。でも、間違いなくドラマの純密度を上げている、1つのピースだと思っています。
窪田くん、終盤近くまで淡々飄々とした「ザ・藤竹先生」を作ってきたからこそ、終盤で柳田の痛みや悔しさに触れた瞬間の、顔。哀しく光った。すごかったです。彼の為にやってきた若しくは彼の世界を広げたと思っていたのに、実はそれが傷つける行為にもなり得た事実を知ったときの、表情。細かく表現されていた。
小林くんも素晴らしかった。彼は瞳の使い方がとても上手い。
絶望で黒く染まる瞳。興味で光り輝く瞳。希望語る瞬間を、僅かな光と共に儚げに表すーーなどなど、挙げたらキリがないけれど、とにかく素晴らしかった。
イッセー尾形さんが教壇で語るシーンも大好きなんだよな。
「俺の原動力は怒りで、昔はその怒りが外に向いていた、でも今は自分に向かっている」というような台詞。※書き起こしではないので正確ではありません、すみません。
この台詞、こんな訴え染み渡るように言える人いる?と圧倒されました。
ガウさんのいてくれるだけでハッピーに感じる演技や、伊東さんのキャラクターを想定した、間の作り方も秀逸だった。
個人的に佳純ちゃんが柳田くんのことを「部長」と呼ぶのが大好き!
高島礼子さんもめちゃくちゃ嫌な役だけど、それくらいに感じさせるってある意味すごいなと、思ったりしています。

長くなりました。来週いよいよ最終回。寂しいですね。今から寂しいです。
きっとラスト、リトルグリーンモンスターの曲で感動して終わるんだろうな、と言う予想だけはできています。
最後まで読んで下さってありがとうございます。おわり。


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