L島での休暇を夢見て(B記)

ランゲルハンス島、行ってみたいような名前の島である。
村上春樹氏に『ランゲルハンス島の午後』というエッセイがあって、そのタイトルはなんだかのんびり過ごせそうな雰囲気を醸し出している。
しかし高校で家政学を勉強していた私は既に知っていた。
この島は世界の何処かの海にぽっかりと浮かんでいる島ではない。
膵臓の細胞のひとつで島のような形状をしているのだ。
つまり、この島は体内にある。
ランゲルハンス氏が発見したらしい。
不思議なネーミングと、父親が糖尿病だった事とセットで、記憶にしっかりと刻まれた(とりあえず名前だけは)

やがて父も亡くなり、その言葉を目にしたり耳にしたりする事もなく随分と時が過ぎたある頃のこと。介護福祉士の勉強を始めた夫が、教科書に対してボヤキ始めた。
「これ、誤字が多過ぎて酷いな。勉強にならん」
「あららー。違ったまま覚えて試験に出たら困るね」
「そうなんだよ。これなんか見て。何、ランゲルハンス島って。体内に島って」

あ、それは間違いじゃない、本当にある。

「え???」

指摘すると目が点になる夫。
そうだよね、知らなければ仕方ないよね。まぁでも、確か試験には出なかったみたいだからどちらでもよかったのかも。
 
そこから数年経って、村上春樹氏の『ランゲルハンス島の午後』を遅ればせながら読みたくなった。安西水丸さんの挿絵が見たかったのもある。

その絡みでネット検索などしていたら、某知恵袋で「ランゲルハンス島にどうしても行きたい、どうすれば行けますか」というものを発見してしまって笑った。
ベストアンサーに選ばれたのが「アメリカの某機関に行って体を小さくしてもらうのです」というものだった。
そうだ『ミクロの決死圏』という映画があったが、まさにそれではないか。気が利いてる。
質問者は「ありがとうございました。早速行ってきました」というような答え方をしていたので、まぁシャレだったのだろう。
 余談だが『ミクロの決死圏』の元になったのは手塚治虫先生の漫画だと立川談志師匠が仰っている。

ともあれ、のんびりとその島でくつろぐ午後を夢想したい気持ちはわかる。
どこかにないかなそんな島、いや、体内にあるはずだけど。
ただ近年『はたらく細胞』という漫画がヒットしたので、案外ランゲルハンス島は有名になったかもしれない。

村上春樹氏がどんなつもりでその言葉を選ばれたのかは知らない。

#村上春樹
#ランゲルハンス島の午後
 

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