ラグビーワールドカップに浮わつく女の覚書⑥熊谷での南アフリカ戦における浮ついたファンの言動
9月6日、熊谷まで日本×南アフリカ戦を会社の同僚と観に行った。覚書⑤の、同僚だ。
キックオフは19時15分だが、職場から(開幕戦で休みを取るので、さすがに有休は無理だった)熊谷まで行くとなると2時間弱はみておく必要がある。入場にも時間がかかるので、職場は15時に出ると決める。
ところが、当初予定通りに仕事が進まず、前日は仕事を持ち帰り、朝方3時半までEXCELと格闘する。それからシャワーを浴びて4時過ぎに就寝。3時間ばかり寝て、9時前に出社。
鬼神のごとく仕事を片付け、予定どおり15時に同僚と会社を飛び出す。
目的の駅に着いたら、無料の送迎バスに乗るのだが、これが想像より立派なリムジンバスで、実に快適。
このあたりで睡眠不足がハイテンションに転じて、だんだん様子がおかしくなる。
会場に着くと、入場は噂通りの長蛇の列。入場開始時間ちょうどに着いたのだが、入れたのは40分後。これでもまだ早い方かもしれない。
こりゃ、本番は早めに行かなきゃね。
持ち物検査とボディチェックがあると知っていたので、カバンは口を開けた状態でスタンバる。このために、仕事に関わるものはほとんど会社に置いてきた。
さくっと持ち物検査が終わり、意気揚々とボディチェックに臨もうとしたら、警備の人に止められた。
「すみません、ボディチェックはランダムなんです」
自分の浮かれっぷりを自覚する。恥ずかしい。
試合は、負けた。
何せ南アフリカの本気度が違った。日本がひどく悪かったとは思わないが、ミスも多く、特に、司令塔でもあるSO田村のキックは、精度を欠いた。
これでは最高に仕上がった南アフリカに勝てるわけがない。
ついつい、2015年のジャイアントキリングを期待していた我々。残念な結果に、愚痴もでる。
どういうわけか、ラグビーファンは、基本的に自分が応援してるチームにこそ厳しいのだ。
しかし、この日は少々様子が違った。
試合後、地元でテレビ観戦していた父から電話が入る。
「ふゆき! なんだ、あの田村のキックは! 自陣で蹴っちゃだめだと言ってるだろう!」
えっ、私のせいなのか⁉
ひとしきり、まるで負けたのは私の指示(?)が悪いせいだと言わんばかりに叱られる。負け試合の時は、いつもこうだ。
いい加減、言いつくしただろうところで、普段なら「善戦」すら許さない父がこう言った。
「まあいい、今日はオープン戦みたいなもんだ。本番(の日本)はこうはいかないからな!」
会場から駅までの無料送迎バスの中。若い男性グループの一人が、田村をこき下ろしていた。
「今日はダメな時の田村だな。自陣であんなキック、ダメだろ」
奇しくも、うちの父と同じことを言う。
「でもさ、俺が悪いんだよ」
え? なぜ、田村のキックが君のせい?
「俺さ、こないだのフィジー戦でさ、田村を褒めすぎたんだよ」
確かに、あの試合での田村は、冴えわたっていた。
「だから今日はダメだったんだ。俺が悪いんだよ、反省したわ」
「経験から言わしてもらえれば、(日本は)浮ついてたね。これで目が覚めるだろ」
と、元ラグビー選手でもある同僚が辛辣に言う。
が。
「でも、選手以上に、俺ら浮ついてるからね。こんな浮ついてる奴に、お前ら浮ついてるとか、選手も言われたくないよな」
そして神妙な顔をして言う。
「俺らファンも、目が覚めたわ」
つまるところ、みんな浮ついているのである。
浮ついたまま、ワールドカップの開幕を迎えるファンが、日本中にあふれている。