
超年下男子に恋をする⑯(生理復活、おっぱいクリーム、劣化の呪いに必死の抵抗)
恋をすると綺麗になるというけれど、理由として考えられるのは、まず女性ホルモン活性化があると思う。
私の友人のオタク姉妹はリアルの恋に無縁のせいか30代前半と後半でそろって生理が終わりかけているという。
私も若いころに比べると生理の質はかなり変わってきた。早い人で30代から更年期というし、自分ももう更年期になるのかなぁと思っていた。
ところが、超年下男子に恋をした結果、急に赤い鮮血がどばーっと出て、色も量も変わった。病気を疑って婦人科に検診に行ったぐらい。
さらに私はYouTubeの美容チャンネルも熱心に見たし、化粧なんかも色々と試した。もともと化粧が好きだというのもあるけれど、化粧の流行は年代によって変わる。じゃあ、流行をそのまま真似ればいいかというとそうではなく、その人個人にあった化粧というのもある。
「若見え」と「若作り」はちがう。大人の女性が十代のようなキラキラメイクをするのはちょっとつらいものがある。
かといって、年相応なんていうのは、いらん固定概念で、自分の年齢に合わせた服や化粧を意識過ぎて逆に老け込むこともある。
ベースメイクに関しては、ある程度実年齢に近いものを参考にした方がカバーなどの面でたいへん勉強になるが、メイクに関しては、本人の顔立ちや見た目年齢に応じたものでいいと私は思っている。四十代でも三十代メイクで似合う人はたくさんいるし、三十代で二十代メイクでいける人もいる。
ただ日本という国は実年齢にやたらこだわる国で、「アラサーでそれはない」とか漫画のキャラさえコメ欄で叩かれたりもする。
そのアラサー概念、アラフォー概念いらない。ただの固定観念。
海外ではおばあちゃんだってビキニでビーチを歩いたりしいている。でも日本人は見た目じゃなくて年齢で「あの年であの格好はない」とか叩きがち。年齢を知らなければ言われないような芸能人さえ、すぐにSNSで叩かれる。
二十代の若さという最強の宝がある年代の時の自分と常に比べられて劣化だの何だの叩かれる芸能人は本当につらいと思う。十分美を維持している芸能人さえ劣化といわれるこの日本で、一般人なんて本当に生きづらい。
だから私は年齢を言いたくない。
日本人は海外では異常に若く見られることが多いため、日本でも実年齢より若くみられる私は海外では本当に二十代に間違われる。
見た目だけで「若い」と褒められる。
でも日本は実年齢重視社会。
見た目が若くても「その年で」とかすぐ実年齢を持ち出される。
こんな日本だからこそ、女性には老いへの恐怖や呪いがある。
そんな女性たちをターゲットにしたネットの広告配信がすさまじい。
もう恋する高齢女子なんていい餌食だ。
私も超年下男子に恋をして、浮かれる恋愛脳と老いへの恐怖でまんまと数々の商品を購入してしまった。
気づけば定期便で毎月の引き落とし額が上がっていく……。
中でも一番失敗したと思うのがおっぱいクリーム。
バストは年齢とともに垂れ下がっていく。
結婚してから下着は楽なものを選んでいて、離婚後もそのまま楽に流されていた。
その結果、かつてはDカップだった私の胸はBカップにまでサイズダウン。
ほんの試しのつもりで購入したバストアップのクリームがまさかの三回しばりで大失敗。残念ながら私の場合効果は認められなかった。
服はそれほど高いものを買ってたわけではない。
わりとしまむらを利用していた。あとはセールとか昔からもっていた古着とかとの組み合わせ。
彼はいつもZOZOTOWNで服を買うようだったけど、わたしのしまむらの服をおしゃれだと驚いていたことがあった。ほんとしまむらの服は安いけど掘り出し物がある。
でもいつも似たような雰囲気の服だと言われたことや、彼自身がシャツが好きというのもあって、私はそれまでタートルネックとかが多かったけど、襟付きのシャツを買ってみたり、知らず知らず影響されていた。
おっぱいクリームはともかく、化粧品や服を色々試したり変化するのを楽しんだり、私は十分恋する自分磨きを楽しんでいたと思う。
それに伴う結果も出てたし、どんどん若返りどんどん綺麗になるのは単純に楽しめる。でもそれで相手が自分のことを好きになってくれるかどうかはまるでちがう話。
最初はアイラインもマスカラもカラーで色々試したし、KATEしばりなモード系メイクも試したりしたけれど、彼はいつも私の目の力が強いと怖がった。
私よりもずっと目力がある子がいたけど、それでも彼は私の目の方が強いと言った。
「そんな目で見ないで」
これが彼の口癖だった。
まさに目は口ほどに物を言う。
私の強い想いいが目からあふれ出てしまっていたんだろうか。
私の「好きだよ」とか「大好き」というのはもはや「いい天気だね」ぐらいな意味合いでしかなく、彼も「はいはい」みたいな感じだったのに、私の目はいつも見られなくて、目が合ってもすぐにそらしたり、しまいには「見ないで」なんて言う。
私は結局アイラインも黒やネイビーのようなきつい色は入れず、茶系とかバーガンディーの配色のメイクをすることが多くなった。
私はブルべで寒色系のメイクが似合うとされるけど、それでも彼を怖がらせないメイクということで避けるようになった。
でも今思えば彼は暗闇でも「そんな目で見ないで」とよく言っていたから、もはや化粧の問題じゃなかった気がする。
童貞を奪われる危機を感じたのかもしれない。
私はそれほど彼に性的興奮を覚えていたわけではないけれど、彼に振り向いてもらうには、性的魅力を上げなければ思っていた。
もしも私が壇蜜さんなら彼も好きになってくれたのに!なんて本気で思っていた。
私がおっぱいクリームに飛びついたのは女としての衰えを感じていたからだ。酔った時にキスを拒まれたのは、私が若くないからで、性的魅力に欠けるからだと思っていた。
男は本能的に生殖機能の若さを感じ取るのかもしれない。
だから化粧より服装より、性的衝動を感じさせる何かを求めたかった。
相手に何も期待せず、ただ自分が綺麗になることや変化を楽しむ心があれば、片想いは充実する。
だけど相手のリアクションを求めたり、受け入れてもらうことを望んでしまうと、恋はだんだん辛くなる。
だから高齢女子の恋は片想いのままの方がいいこともある。
韓流ドラマやアイドルに萌えてるだけなら人生の活力となるし、誰にも自分にさえも批判されることはない。
苦しいのは周りの若い子たちと比べてじゃない。自分の若いころと比べてどうしても衰えを感じざるを得ない部分で「劣化」の自虐がはじまる。
それはもう本当に呪いだ。
片想いのリアル王子に呪いを解くことを強要してしまう。
でも本当は自分を苦しめる魔女は自分自身の中にいる。
私は呪いの魔女の目で彼をみていたのだろうか。
「そんな目で見ないで」
その言葉は、今の私が私自身に言ってあげたい言葉だ。
でもこの時、私は呪いの中にいた。
ただただ楽しい片想いだけではすまなくなっていった。