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【第十五回俳樂會】結果及び選評

0.ご挨拶

皆さまごきげんよう。芙蓉セツ子と申します。
段々と肌寒い風が頬を掠めるようになりまして、鈍色の低い空は冬の足音すらも感じさせるような今日この頃ですけれども、如何お過ごしでしょうか。

さて、先週末に催させて頂きました句会【第十五回俳樂會】なのですけれども、一連の行事が無事終了いたしましたので、改めてこちらでご報告させていただきたく存じますわ。皆さま、まことにありがとう存じます。

まず、今回の総合結果と投句並びに選句の一覧は下記の通りとなりました。

015回発表用

【第十五回俳樂會】 投句者数 17名 選句者数 11名 投句総数 60句
【兼題】 季語『夜寒』 漢字「実」 題材〔新しい季語を考案して一句〕
【席題】 季語『菊供養』季語『菊』

【一席(13点)】柿の実の若さのままに朽ちにけり芙蓉セツ子
【二席(11点)】雨音や夕餉静けき予報円(予報円:仲秋)芙蓉セツ子
【三席( 9点)】郷愁はプラリネの奥ふかくかな(プラリネ:三秋) とみた環【入選(8点)】曳船や水音細き菊の宿 芙蓉セツ子
【入選(8点)】三つ目のピアスホールを埋め夜寒 綿井びょう
【佳作(7点)】塩飴のゆっくりゆっくりと溶ける(塩飴:三夏) watoshi
【佳作(6点)】草は実にタピオカをはや飲まずをり 村蛙

※発表文のため敬称略とさせていただきます。

――ということで、第十五回は久々にわたくしが一席と二席を賜りました。
開票していて、わたくし自身も結果に驚きましたわ。ありがとう存じます。

何より、ご参加を頂きました皆さま、ご視聴、お見守り頂きました皆さま、重ねて御礼申し上げます。

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1.芙蓉セツ子 選

さてここからは、わたくしが今回選句で採らせて頂きました句をご紹介して参りたく存じますわ。

天:草は実にタピオカをはや飲まずをり   村蛙さま
この句の肝は「草は実に」という、時間の経過を感じる季語から一句が始まる点かと存じますわ。
一見すると「タピオカ」という俳句では見慣れない横文字が目を引くのですけれども、「草は実に」という季節の移り変わりの中に身を置いてみた時にその中で世の中と自己との関係性を冷静な視線で観察した句かと存じます。

一歩引いた視点から客観視してみたときに、ふと情緒が過るような一句。
全体的な句形も綺麗に整っている精度の高い句という印象を受けましたわ。


地:ピザ冷めて半円に整へておく   とみた環さま
この句は「ピザ冷む」という新季語を設定して詠み込まれた句ですわね。
ピザというのは食べ始めの最初の一口というのは、まことに楽しい気分になる食べ物かと存じます。まだ熱いピザを頬張っている時ですわね。

この句にわたくしが趣を感じた点はその「一口目」との対比にありまして、やがて食べ進めたピザが段々と冷めて残ってしまう、その「寂び」の感覚。この情感が秀でている句かと存じますわ。

新季語の提案として見ましても、冷めるのが早くなったことに季節の進みを感じるという設定がまことに新鮮で面白い視点でございました。
散らかして残ってしまった冷めたピザを、なんとなく見栄えだけ取り繕って半円に整えてみる。そんな細やかな仕草にも心境の変化が伺えますわね。


人:鼕の響き渡るや八雲立つ国に   
村蛙さま
「鼕(どう)」というのは出雲地方の太鼓の呼び名とのことで、10月に行われますお祭りの際に用いられるものだそうですわ。地域限定の季節感による新季語の提案でございました。

この句は読んでみたとき「鼕の響き」という余りの余韻が、ちょうど大太鼓のお腹に響くような音の振動の如く、中七、下五に残響として残り続けるような心地がしてまいりました。

10月の出雲という厳かな雰囲気の情景に相応しい、格調の高い一句かと存じますわ。

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さて今回、福禄寿(各1点)に選んだ句がまさかの全て「猫」を題材にした句となってしまいました。選句の時点で気づいていたので流石にどうしようかと悩んだのですけれども、どれもそれぞれ好きな理由がありましたので、そのまま3選句とも猫の句を採らせて頂きました。

福:夜を寒み母を呼ぶ声猫二匹   watoshiさま
上五から鑑賞していきまして最後に「猫二匹」を読み終えたときに、満足感と申しますか、自然に句の世界を追体験出来たような心地になりましたわ。
シンプルなのですけれども、その分、純粋な情景と配置の良さを味わえたような気がいたします。
例えばこれが「猫二匹母を呼ぶ声夜寒かな」ですと答えを先に見てしまったクイズのようで面白くないのです。(まことに雑な例ですけれども――)

禄:まんまるく愛猫まねる夜寒かな   なつヲキクさま
この句は何より可愛らしさが気に入りまして、またその気持ちに共感出来る句ということで採らせて頂きました。「まんまるく」をひらがなにしたのがまことに良かったかと存じますわ。
例えば「真ん丸く」ですと句から受ける印象が固くなってしまいます。

わたくしも布団の中で丸くなるほうなので、この状態がよく分かりますわ。

寿:伸びている我を労る猫あんま   ペラ男さま
この一句は新季語(猫あんま:晩秋)の提案が面白く採らせて頂きました。
「猫あんま」というこの言葉ですけれども、初耳でも感覚が伝わってまいりますし造語としても良い塩梅なのではないかしら。

猫と飼い主との普段の関係性や、情景が伝わってくる句かと存じますわ。

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2.新しい季語というお題

今回は兼題の一つに、題材〔新しい季語を考案して一句〕というものを指定させて頂きました。
大変難しく実験的なお題だったのですけれども、多くの力作をお寄せ頂きました。このお題は随分悩んだのですけれども、「季語」というものを普段とは別の角度から考えてみるという良い結果になったかと存じますわ。

わたくしがこのお題を設定した理由には2つありまして、
1.新しい季語を募集した際にどのようなものが集まるのかという興味
2.先人の連綿と受け継いできた季語というものを改めて考えてみたい

という目的がございました。

ある日、わたくしはお蕎麦屋さんに参りまして食後に蕎麦湯を頂いたのですけれどもその際に「蕎麦湯というのは新しい冬の季語になるのではないか」と思いまして、お家に帰って早速歳時記を確認してみましたら既に載っていたということがございました。
その際に感じた若干の無念さと先人と心が通じ合ったかのような奇妙な嬉しさ。そのとき感じた感覚こそ、わたくしが季語の醍醐味に触れた瞬間だったのかもしれません。

ということで、先人の偉大な足跡を辿りながら新たな季語を考えてみたときに果たしてどのような季語が生まれるのか。皆さまと挑戦をしてみました。

さて、お寄せ頂いた「新しい季語」には次のような提案がございましたわ。
(べこ餅:初夏)(塩飴:三夏)(紫外線:三夏)
(ピザ冷む:三秋)(プラリネ:三秋)(明き巣:晩秋)(八雲忌:晩秋)
(猫あんま:晩秋)(羊駱駝:晩秋)(鼕:晩秋)
(道路工事:三冬)(フリース:三冬)(二日目のシチュー:三冬)
(静電気:冬)
※頂きました記載内容のまま転記しております。

(予報円:晩秋) ※芙蓉セツ子作

この中で分類してまいりますと、まず地域特有の言葉を季語にしてみたというのが「べこ餅」と「鼕」の二つですわね。
調べてみますと、どちらもなるほどと思える言葉選びかと存じますわ。
実際に地域限定の季語というのは「行事」を中心に歳時記に載っておりますのであっても不思議ではない季語かと存じますわ。
例えば、今回の席題でした「菊供養」は浅草寺の行事ですから、地域限定の季語の先輩とも言えるのかもしれませんわね。

次に、食べ物もユニークなものが多かったですわね。「塩飴」「ピザ冷む」「プラリネ」「二日目のシチュー」それに先述の「べこ餅」もですわね。

この中ですと「プラリネ」というお菓子の材料は季節も合っておりまして、情緒のある季語のように感じましたわ。プラリネはナッツ類を加熱してカラメル状にしたものですけれども、原料のナッツ類は概ね秋に穫れるのものですし、プラリネ自体も秋の雰囲気によく似合うお菓子ように存じます。

「塩飴」や「シチュー」というのも季節感を想像しやすいですわよね。
「ピザ冷む」の醸し出す趣の深さは、先述の選評の通りですわ。

他の新季語の提案に関しましても、一見して納得できるものがほとんどでは無いかしら。「八雲忌」は小泉八雲さまの功績を考えると実際にあっても良い気がいたします。毎年詠んでいたらそのうち定着しないかしら――。

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3.全体的な感想

ということで、今月の俳樂會だったのですけれども如何でしたでしょうか。
今回わたくしは嬉しかったことが2つありまして、1つは「初めて俳句を作ってみたのですが…」と投句して下さった方がいらっしゃったことですわ。

先日、兼題を募集している際に『一歩目からの俳句体験』ということで俳句を作ったことが無い方に向けて手引のようなものを執筆してみたのですけれども、それが少しでもお役に立てておりましたら嬉しゅうございますわ。

『俳樂會』という場は嬉しいことにかなり幅広い句歴の方にご参加いただいているように存じます。(わたくしは句歴が浅い方に入るかと存じますわ)

俳句というのは将棋のように段位はありませんし、柔道のように体重別でも当然無いのですけれども、そんな様々な背景のある方がいらっしゃる中で、一歩踏み出して俳樂會に投句して頂いたことに何より感謝を申し上げます。

句歴の長い先輩達の中でなかなか選の入らない状態というのは、わたくしも他の句会ではよくあるのですけれども、その中でも続けてまいりますと自分なりに成長を感じる瞬間がありますので、純粋に「俳句を作ってみる機会」というものを今後も体験して楽しんで頂けましたら幸甚に存じますわ。


そしてもうひとつ。今回、わたくしが出遅れてしまうほど選評の活動が活発に展開されたことが嬉しゅうございました。

選句あるいは鑑賞という行為は、俳句の実作と同じかそれ以上に大切なものかと存じます。これは他の文芸には無い特徴かもしれません。

17字という極めて短い詩形は、読み手に句の解釈が委ねられている部分もまことに大きいものかと存じます。
その中で他の方の選評で気づく良さや自分とは異なった感想で気づく妙味など、そういった発表後の余韻といったものが水面の波のように広がり、互いに及ぼし合っていくという状態が自然と芽生えていることに心より深謝いたします。まことにありがとう存じました。

さて、次回の俳樂會は来月に入ってからということになるかと存じますけれども、またこれからも様々な面でより洗練された空間となるよう準備して参りたく存じますわ。
季節は晩秋から立冬へと進んで参ります。季節の変わり目ですので皆さまにおかれましては、くれぐれもお体にご自愛くださいませ。
そして是非、第十六回俳樂會にご参加頂けましたら嬉しゅうございますわ。

俳樂會主宰 芙蓉セツ子


付録.今回の芙蓉セツ子作

柿の実の若さのままに朽ちにけり
今回作句した7句のうち唯一、頭の中で全く弄ることのなかった純粋な写生句がこの句でしたわ。
先日の台風が来る少し前のこと。お散歩をしていて近所の家の庭に柿が実っていたのですけれども、その実が嵐の前の静けさの中で未だ青いままだったのです。
それを見たときにふと、あぁこの子たちは若いまま土に落ちて朽ちていくんだなぁ、とこの句が浮かんでまいりまして、その際に手持ちの手帳に記したものを今回発表いたしました。

雨音や夕餉静けき予報円(予報円:仲秋)

「新しい季語」というお題に対するわたくしの回答ですわね。
関連する言葉に「台風」という仲秋の季語がありますけれども、天気予報のある昨今、却って「台風」そのものより「予報円」と接している待ち時間のほうが長いのではないかしら。

季語の趣としましては、嵐そのものではなく、その前の静けさや不気味さの中に流れていく「日常の生活」というものに焦点を合わせてありますわ。

曳船や水音細き菊の宿
今回は席題を「菊供養」という浅草寺に関するお題(句会の当日偶然にも菊供養の日だったのです)にさせて頂いたのですけれども、この句も発想の一歩目としては浅草の近くを流れます隅田川の印象から創作しておりますわ。

菊の咲いている宿との取り合わせによって何らかの趣が生まれていると良いのですけれども――。
ちなみに実際の写生とは離れてしまったので、句自体は特に浅草の景という訳ではありませんわ。わたくしが着想を得たのが隅田川という事ですわね。

提灯の裏側にある夜寒かな
最近随分と暗くなるのが早くなりました。夏でしたらまだ明るいくらいの時間でも、お店の前を通りますと赤提灯が灯っていたりしますわね。

この時期、お酒を飲むようなお店ですと店内の様子はまことに賑やかなものでして、外から見ますと暖かさをも感じるのですけれども、壁一枚を隔てた側には夜寒が横たわっている。そんな季節かと存じます。

この句もどちらかと申しますと写生句と申しますか、実体験に近いですわ。
暗くなった帰り道の赤提灯を見て、ふとその周囲に広がる闇夜の寒さというものに気付かされました。

夜を寒み図書館の灯の煙りたり
わたくし最近よく図書館に通っているのですけれども、その行き帰りも大分寒くなってまいりました。(実はその帰り道が上記の赤提灯なのです)

これは図書館の窓明かりを外側から眺めた時の句でして、ぼうっとその温かみのある灯りがぼやけているのを少し捻って「煙りたり」としてみました。

香台の若き香りや菊供養

今回の俳樂會は10月18日ということで丁度、浅草寺の菊供養の日でしたので一句詠んでみましたわ。
普段の浅草寺、あるいはお寺の「匂い」の印象というのはおそらく「線香」の煙の匂いかと思うのですけれども、この日ばかりは境内に菊の青々した匂いが漂ってくるように存じますわ。

秋旻や実験室の色薄し
兼題のほうで今回は字題を「実」という漢字にしてみたのですけれども、それを少し本意から外してみようかというところで作ってみましたわ。
この晩秋の時期に「実」と申しますとやはり木の実でしたり様々な果物が浮かんで参ります。わたくしの句ですと先述の柿の句ですわね。

そこで敢えて「実」をそれ以外で用いてみようと画策してみた句ですわ。
この句の景は、わたくしの好きな情景の傾向が色濃く反映されているように存じますわ。

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芙蓉セツ子
平素よりご支援頂きまして誠にありがとう存じます。賜りましたご支援は今後の文芸活動に活用させて頂きたく存じます。