打ち上げ花火
重たい時計を背負った小人と
軽い時計をポケットに仕舞い込んだカンガルー
それは気まぐれに
季節ごと
代わる代わる
この街にやってきて
時の長さを
自在に錯覚させた
この街の指揮者は
それぞれの心の育みにあわせて
毎日かかさず
タクトを振っていた
永遠に終わらない旅だと
嘆いていた
亀の親子は
沈みゆく夕日を見つめて
この世の定めを知った
スピードが増しているのは
人間の住む社会で
ムクドリや渡り鳥
キツツキの
飛行スピードは
今も昔も
変わらなかった
夏になると
ほんの束の間
蝉はあちらこちら
地上に姿を現し
ひと夏の青春のごとく
命を燃やした
未来志向の窃盗犯が狙っているのは
人々の時間だった
ミヒャエル・エンデの『モモ』は
実話だったのだ
心が美しいハイビスカスは
いつも誰かの歩く背中を
気にかけていた
わだかまりの小石をかき集めて
できた積雷雲は
刹那の悲しみで雷を落とした
もうじき夏が終わる
はじまりは
やがていつか終わりを迎える
誰もが皆
それを承知していて
名残惜しむように
最後の打ち上げ花火を
見つめていた
耳を澄ますと
リンリンリン
リリリリン と
鈴虫が鳴いていた