4ハウスの太陽 ー心の軸を再構築するー
こんにちは、変化球ホロスコープリーディングへようこそ。このアカウントでは初心者が占星術を勉強する際の「なんでそう解釈するの?」という疑問点を元に、王道とは少し違うホロスコープの読み方について深掘りしていこうと思います。
2回目からは4ハウスに位置する天体について解説します。長くなりましたので、天体ごとに記事を分けました。初回は4ハウスに位置する太陽について扱います。
本記事では主に心理占星術の立場から考察しています。伝統的な占星術とは見方が異なるかと思いますがご理解のほどよろしくお願いいたします。詳しくは末尾の参考文献をご覧ください。4ハウスの概要についての記事をまだ読んでいない方は、ぜひそちらもご覧ください。
ハウスと天体の関連性
天体を扱う初回の記事ですので、ハウスと天体自体について軽く触れようと思います。
占星術ではハウスと天体の意味が往々にして似かよることがあります。例えば前の記事で、4ハウスは家庭、両親、無意識・潜在意識などを表すとお伝えしました。これは月の性質とよく似ています。月は母性、本能的欲求、無意識、安心感などを表し、幼少期の体験と深く関わっているとされているからです。また9ハウスは学術的探求、哲学、宗教、海外などを示すとされていますが、これは木星(宗教的恍惚感、直感的認識、創造性を象徴)を連想させます。
これは占星術を学び始めたばかりの人にとって混乱の種ですが、一体なぜこのように解釈されるのでしょうか。
これは現代占星術において、ナチュラルサインという考え方があるからです。1ハウスは牡羊座、2ハウスは牡牛座、3ハウスは双子座、というように各12ハウスと12星座を順番通りに割り当てたものです。そして各星座には、その星座を支配する天体(=サインルーラー、支配星)があるという考え方もあります。月は蟹座を支配し、木星は射手座を支配するといった具合です。この二つの考え方を組み合わせると、『ハウス=星座=天体』という図式が成り立ちます。4ハウスには4番目の星座である蟹座が対応するため、支配星である月と関係を持つというわけです。これが特定のハウスと天体が結びつけられるようになった所以です。
しかしこの考え方は割と最近になって主張され始めたものです。17世紀頃に占星術が大衆へ一般化されるにつれ、より分かりやすく単純化されるために両者の象意は一緒くたにされました。現在では混乱を引き起こす原因でもありますが、記憶する量は確かに減ったと言えるでしょう。しかし無理に一括りにしたせいで、両者を全く同じものとみなし、間違えて覚えてしまう危険性があります。
例えば6ハウスは労働・奉仕を意味しますが、6ハウスのナチュラルサインである乙女座の支配星、水星は知性・コミュニケーションを司ります。同様に5ハウスの子供、純粋な喜び、創作活動は言うまでもなく太陽と関連していますが、太陽は自己実現の欲求・方向性を象徴します。関連性は確かにありますが、決して同じものではありません。そもそもハウスと天体が同じ意味を持つものならば、わざわざ分ける必要がないのです。両者を同じように扱うことはとても危険です。
ではホロスコープを読む際には二つをどう区別すればいいのでしょうか。その答えはリズ・グリーン著『占星学』から引用して説明いたします。彼女はこの本の中で以下のように述べています。
心理占星術的な解釈によれば人間には様々な心の側面があり、占星術ではそれを
10天体に象徴しました。火星であれば支配者としての男性性、金星であれば娼婦や恋人としての女性性、太陽であれば父親としての男性性______。男性だから男性性だけしか持っていないというわけではなく、ここでいう父親や娼婦というのはあくまで象徴的なものであり、人間は誰しも10天体が表現する心の側面全てを持ち合わせています。そして天体はこのような10種類の心的側面自体をホロスコープ上で表現し、一方ハウスはそのエネルギーの活用方法、分野、方向性など付随的なものを表すのです。
例えば4ハウスに太陽がある時は、『社会において理想の自分になりたい、自分の人生の支配者になりたい』という男性的欲求(太陽)を、『家庭、無意識など』(4ハウス)の領域において追求するということです。同じ太陽でもどのハウスに位置するかによって、表現の仕方や方向性が全く変わってくるのです。これはよく使われる例えですが、天体は役者、ハウスは舞台と考えると非常に分かりやすいです。
4ハウスを読み解く上での注意点
天体は個人の心のエネルギーの質を表すと説明しました。しかし注意していただきたいのが、そのエネルギーを実際にどのように使うかは、ホロスコープ上からは分からないということです。
同じく4ハウスに太陽が位置しているとしましょう。この配置はあくまで『プライベートな事柄を通して自己実現を図る』というエネルギーの方向性を表しています。言い換えればホロスコープの上で示されているのはたったそれだけなのです。実際に現実世界でどのように行動するかはその人次第であり、ある人は一家の大黒柱や主婦となることで太陽を表現するかも知れません。ある人はプライベート空間を彩るインテリアデザイナーになるかも知れません。はたまたそのどちらでもなく、全く関係のない職種や日常生活を送る中で自分の価値観と向き合うことになるかも知れません。そもそも太陽は具体的な社会的地位や役割を表すわけではないので、仕事には全く現れない可能性もあります。
以下の天体の説明では、まず最初にその配置が示すそのままの意味について解説します。その後いくつかのポイントに分けて説明し、現実世界で取られやすい行動スタイルを複数ピックアップします。これは絶対ではありません。あくまで多数派によって選択されやすい行動なだけであり、別の表現様式を通して行う場合もあります。またどれか一つだけとは限らず、全てのものに当てはまる人もいるでしょう。
抽象的な話ばかりだと理解しにくいと思うので、説明の最後にはキーワードと主に関連する職種について個人的な見解を元に書き出しました。前半の詳しい説明が分からなければ、こちらだけでもご参考にしてみてください。
太陽
上記で述べたように、個人の中には様々な心の特性があります。占星術ではそれらを10種類に分け、天体として扱います。個人はそのどれもを欠けることなく潜在的に持ち合わせていますが、すべてのエネルギーを平等に活用しているかというとそうではありません。ある人は火星に象徴される面が、またある人は月に象徴される面が強く出るといった具合に、その人によって使う特性の割合が違うのです。このエネルギーの強弱や使い方の違いは、言ってみればその人の個性だと言えるでしょう。しかし一方で、その個性というアンバランスさによって社会生活で上手く活用できなかった心の面は、未熟で未発達のまま置き去りにされます。個人はそのような劣った機能を無意識の領域に押し込めようとしますが、押さえつければ押さえつける分、そこから出てこようとするエネルギーの反発は強まります。ここの内容に関しては、詳しくは天体の記事で扱います。
(MBTIをご存知の方は、優勢機能や劣等機能という単語を思い出したかも知れません。MBTIは元々ユングのタイプ論をベースにしており、本記事で参考にしている心理占星術もユングと深い関わりがあるので両者には当然関連性があります。しかしMBTIの基本機能である感覚や直感、思考、感情とはあくまで目の前の出来事にどう反応するか、それをどう解釈するかの分類であり、天体が表す心的エネルギー自体ではありません。4機能はむしろ占星術における風水地火やハウスと関わりが深いでしょう。MBTI と占星術の関係性についても、別の記事で詳しく扱います。)
太陽は閉じ込められた劣等機能を掘り起こし、主要な機能と折り合いをつける欲求を表しています。個人の影である無意識の部分を認め、自我とバランスを取ることで自己実現、潜在的な自己への回帰を目指すのです。個人の自我そのものも表し、個人の潜在能力全体を統括しようとする働きは『父性』と表現されます。これは太陽が古来より生命力の象徴、天を統括する神として表現されてきたことからも分かります。
4ハウスと太陽
太陽は「自分の描く理想に近づきたい」「確立された個性を表現し、社会に打ち出したい」と熱望する天体であり、この配置の場合はそれが4ハウスで行われることを意味します。配置が意味するものは『プライベートな事柄を通して自己表現する』です。以下で解釈する上でのポイントを見ていきましょう。
安心とは何か、家族とは何かを追求する
4ハウスに太陽がある場合、家族や家庭という概念を通して自分の存在と向き合うことになります。詳しく後述しますが、父親との関係が良好であるとは必ずしも言い切ることはできません。この配置の人にとっては安心でき、素の自分でいられる環境を自分の手で生み出すことこそが生涯の目標なのです。これは家庭を築くことに限らず、精神的な心の拠り所を作ることを意味します。ですので必ずしも専業主婦や一家の大黒柱になるとは限りません。
理想的な家庭のイメージは実際の父親から学ぶかも知れませんし、母親から学ぶかも知れません。あるいは全くの赤の他人から教わることもあるでしょう。いずれにせよ太陽には土星と違って伝統を引き継ぐ、継承するという意味合いがないので、受け取ったものを自分なりに再構築する必要があります。真似をしてもだめなのです。そのためには異質なものを取り入れることが大切です。安心感とは裏を返せば閉鎖感。外部と関係を断つことでしか維持できない平穏は簡単に崩れてしまいます。対向する10ハウスの社会的責任や役割と向き合うことで、自分の土台を再認識することができるでしょう。
父性と父親
占星術を初めて習う際に教わるのが、太陽は父親を表すという考え方です。これはある意味事実ですが、同時に不完全な見解でもあります。確かに物質世界での客観的視点を大切にする伝統的占星術では太陽を父親として扱うことが多々あり、全てにおいて間違いであると言い切ることはできません。一方で主観的な心の構造を重要視する心理占星術においては、出生ホロスコープはあくまで個人に内在する心の特性を示すだけなので、それが現実の状況とどう対応するかまではホロスコープには現れないとしています。この場合太陽は個人の中の主導権を握る存在、バラバラな心の側面を統括するエネルギーだと言えるでしょう。これは一般的には『父性』と表現されますが、現実の父親を指しているわけではありません。あくまで潜在的に誰しもが持ち合わせている心的機能の一つのことであり、それが家庭内での父親が担う役割に似ていることから『父性』と表現されただけなのです。
しかし太陽の受け持つ『父性』が、現実世界の父親の役割に似ていることは確かです。似ていれば当然相手に投影しやすく、また相手から影響を受けやすくもなります。乳幼児は両親の保護下で暮らすことが一般的であり、太陽の目指す主体的な生き方を表現することがなかなかできません。女性一般も社会的な圧力により、男性的エネルギーを自ら表現することに抵抗を感じる傾向があります。そして個人的な肉体を通して『父性』を表現することができなかった場合、代わりに身近な異性、つまり実際の父親や配偶者を通して表現することになります。本人は自分に潜在する太陽を他者が持っていると勘違いするようになるのです。自分の一部を相手の中に見ているため、自分と相手を区別できなくなり影響を受けやすくなります。放っておけば両者は切り離せない存在になってしまいます。
このような状況の場合、確かに太陽が父親(または女性にとっての男性の配偶者)の性格や影響力を表していると言えるでしょう。相手の影響力が大きいからです。しかし独立した個人であれば、もはや他人に頼らずとも自分の力で太陽を表現することができます。そうなると太陽=父親という図式は成り立たないのです。太陽が必ずしも父親を示すとは限らないことに注意しましょう。
自分の心の奥底を探究する
4ハウスは月と関係があるので、いわば月に内包された太陽です。自分の中にある曖昧さ、得体の知れない側面、弱さや汚点をふとした瞬間に見ることがあり、それをありのまま受け入れ表現したいと思っています。この人にとっては人の心こそが一番の難問であり、不可解さであり、魅力なのです。自分が一体どこから来たのかを探究することで、改めて大地にしっかりと根差した生き方ができるようになります。
これらは幼少期の経験や家庭環境とも深く関わっているため、探求するにつれ自然と自分の過去を遡ることになるでしょう。人によってはそれが苦痛を伴うプロセスかも知れませんが、この配置の人にとって、主観的な価値観を知り人生における新しい心の軸を再構築することは何よりも重要なことなのです。自分のふとした言動や感情に敏感でいるようにしましょう。例えば日常の些細な事柄で感じたことについて、自分が何故そう思ったのか逐一自問自答してみましょう。最初は感情の上澄みを掬うだけだったのが、やがて心の根幹へと下っていく大切なプロセスへと変化します。4ハウスは天底に接するサインでもあるように、とにかく掘る作業が大事です。対抗する10ハウスでは社会の中でいかに行動するかにも焦点が向きますが、4ハウスでは自分という土壌を掘り続けることで個人の中にある最小単位と向き合うことができるようになります。
上記で述べましたが、太陽は異質なものを取り入れることで成長しようとする天体です。自分と向き合うという作業には多かれ少なかれストレスが伴いますし、それはひどく閉鎖的でもあるので、他者にも目を向けるといいでしょう。「私には優先すべき自分の視点や価値観が存在するけれど、それは相手も同じである」ということを受け入れられれば、大きな成長へとつながります。
<キーワード>
・無意識との接点を通して自己を確立する
・人間の奥底に流れる感情や心理を追求する
・自分の持つ価値観が本当に正しいのか自問自答する
・帰る場所、安心できる場所を探求し確立する
<関連する職種>
作家、芸術家、現代アーティスト、デザイナー、音楽家、心理学者、精神科医、
カウンセラー、占い師、宗教家、民俗学者、旅人、旅行関係の仕事、ホテルマン、民宿経営者、警察官、自衛官、インテリアコーディネーター、建築家
まとめ
4ハウスはホッとする環境を示すため、太陽と意識的に向き合う場合は自分が安心できる環境で行うのがよいです。また上記でもお話ししましたが、太陽が欲する事柄は外部から与えられたものをそのまま受け入れただけでは実現せず、主体的に行動し自分の劣った部分を受け入れることで新しく作り直す必要があります。しかしこれに関しては功を急ぐ必要はありません。太陽はあくまで自己実現や理想の実現のための方向性であり、生まれ持っての才能を示しているわけではありません。
太陽を表現するためには、絶え間ない努力が必要です。リズ・グリーンは『占星学』の中で、人生の最初の30年間が終わるまでは滅多に達成されることがない、と述べていました。太陽と向き合うということは、生涯をかけて取り組む問題なのです。
次回は4ハウスの月について解説します。
参考文献
リズ・グリーン 土星の心理占星学 青土社,2022
リズ・グリーン 占星学 青土社,1994
初心者が最初に巡り会いたい「深楽しい」西洋占星術講座 https://lani.co.jp/horoscope-32211