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忘れられない犬との思い出

薄汚れた白い毛並み、 骨が浮き出るほど痩せこけた体。
私がまだ幼かった頃、いつもの公園で出会ったその犬は、
まさに「捨て犬」という言葉がぴったりの姿をしていました。

怖がる私に気づくと、犬は申し訳なさそうに尻尾を振りました。
でもその目は、寂しさと不安でいっぱいでした。

「おいで」

勇気を出してそう言うと、
犬は恐る恐る近づいてきました。
汚れた体を震わせながら、私の手を舐める。
その温かさに触れた時、なぜか涙が溢れてきました。

それから毎日、こっそりとおやつを持って公園に通うようになったのです。
団地に住んでいた私は、もちろん両親には内緒にしていました。
捨て犬に餌をやらないように、と厳しく言われていたのです。

犬はいつも、私を待ちわびていたかのように
嬉しそうに尻尾を振ったものです。
人なつこい犬だったので、もしかしたら自分で家の外に出てしまって
帰れなくなったのかもしれません。

私はその犬に「ちょり」という名前をつけました。
名前を付けると、私が所有する犬になったような気持になりました。
その犬と過ごす時間は、子供心に特別であり、
かけがえのないものでした。

ある日、いつものように公園に行くと、ちょりの姿がありませんでした。
あたりを探し回ったが見つからず、私は不安と寂しさでいっぱいになりました。

「もう、会えないのかな・・・」

そう思った次の日でした、
公園の入り口に、一匹の白い犬を連れたおじさんが立っていたのです。
見覚えのある、あの優しい目をした私のちょりでした。

ちょりを連れたおじさんは言いました。
「この子がね、毎日お嬢ちゃんのことを話していたよ。
おやつをくれたり、一緒に遊んでくれたりした優しい子がいたんだよってね。」

おじさんは、犬猫の保護活動をしている人でした。
ちょりは、私が来るのを信じて、毎日毎日公園で待っていたらしいのです。

これからちょりは、ちょりを飼ってくれる人の所へもらわれるそうでした。
うんと可愛がってくれる家だといいな、と私は思いました。
これで良かったんだという安堵の気持ちと、
もうちょりと会えなくなるという寂しい気持ちとで複雑でした。

「ちょり、今までありがとう!」

そう言って、私は精一杯の笑顔でちょりにさよならを告げました。

おじさんは私を見て
「お嬢ちゃんがこの子にちょりっていう名前を付けたんだね。
じゃあこの子はずっとちょりでいてもらおうね」と言いました。
ちょりはおじさんに連れられて行きました。

ちょりは、後ろを振り返り、振り返り、
「なんで一緒に来ないの?」と言っているような顔をしていました。
私は別れがつらくてその場で長いこと泣き続けていました。

あれから数年が経ちましたが、
今でもあの時のちょりのぬくもりを鮮明に覚えています。
あの出会いは、小さな命の大切さ、そして、言葉を超えた動物との絆を
教えてくれた、かけがえのない思い出です。

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