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人の集まるところ

半年ほど前からその前を通りかかるたびに気になるお店があった。
それは古い住宅の居抜きのようで、窓からは小さな間接照明の灯りがもれていた。
ただ、外から見ただけでは一体何のお店なのかは分からず、その雰囲気から小さなバーなのか、喫茶店なのか、それともアンティークの家具を集めたなにかの事務所なのかなどいろいろ考えを巡らせその不思議さにだんだんと私は惹かれていった。
気になっていたのでGoogle MAPで調べたところ喫茶店ということが分かり訪れることにした。こういう時にインターネットのある時代でよかったと思う。

そのお店は絵本と珈琲をコンセプトにした喫茶店だった。
穏やかで丁寧な雰囲気の店主の方は、このお店を開業するまでは歌舞伎町の路上で珈琲と絵本を売っていてその界隈では有名だったらしい。
見た目に反してかなりハングリー精神と信念のある人でそれが魅力のひとつだった。
店内はアンティーク家具と間接照明が基調となっていて、静かなジャズが流れ落ち着いた雰囲気で満たされている。
絵本と珈琲の店と謳っているため店内には何箇所か本棚があり本や絵本が並べられていた。
お客さんは読書席と呼ばれる1人掛けの席で読書をしたり、テーブルの席で友人と談笑していたり、カウンター席でお客さん同士や店主の方と会話をしたりといつも穏やかな時間が流れている。
どの人もお店の雰囲気や店主さんの人柄に惹かれて集まってくるのだろう。
暖かいオレンジ色の小さな灯りで過ごす店内は深夜にひっそりと過ごすような心地があった。

店主さんに声をかけて読ませてもらうこともできる


メニューは珈琲、紅茶、ワインがメインとなっていて、食事はどら焼きやグラタンといった珈琲にもお酒にも合うメニューが何品かある。
手書きのメニュー表にはちょっとした解説も載っていてそれを読むのも楽しい。

ハンドドリップで淹れてくれる珈琲は苦味、酸味のバランスが良くどれを飲んでも美味しいし、珈琲を淹れている時の店主さんの丁寧な所作には見ていて惚れ惚れする。

金平糖が3つ添えられてくるのが嬉しい

どら焼きにはその季節に合ったソースやジャムが添えられており、その時々で違った美味しさが楽しめる。
生地は一枚一枚銅板で焼きあげていて、均一な焼き色と滑らかな表面は上等なシルクのような美しさがあった。
珈琲、お茶、お酒にも合う上品などら焼きだ。

酸味のある金柑のジャムとチョコソースとあんこがとてもよく合う
フランボワーズと赤ワインのソースが品があり美味しい

私もこのお店と店主さんの魅力に惹かれて通っているひとりとなった。
店主さんが話してくれる話や過去の体験は、今までの私の人生になかったものでとても刺激的だったし、美味しい珈琲を飲みなら自分の知らない世界の話を聞く時間がとても楽しかった。


店主さんが一生懸命作り上げてきたお店の世界観や雰囲気に見合うようなお客でありたいと考えると少し背筋が伸びる。
でも、そんな自分を少し好きだと思える。

そんなふうに思わせてくれるお店に出会えたことはとても幸運なことだ。
あの時少し怖いと思いながらも勇気を出してお店へ入って良かった。これからもたまに訪れては少し背伸びをした世界観に浸りたいと思う。

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