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私が私でよかった

 35歳となった今、ぼんやりと5年後を見据えるようになった。
というのも「小説の出版を叶えたい」そう決意した2年前に、漠然とこう思ったからだ。

「35歳……。それが無理なら、せめて40歳までには1冊出せるように頑張ろう」、と。

最初に決めたリミットまで、あと5年。そう考えると、異様に短い気がするのは、自信のなさからくるものなのだろうかーーー。

 大好きだった案件を、卒業する決心をした。

私は約2年前に、副業でシナリオライターの仕事を始めた。
ライターを始めたのも、もちろん、小説の出版を叶えるためだ。「まずは文章の勉強をしよう、文章力を上げよう」。そんな安易な気持ちがきっかけだったため、「稼ごう」とか「ライターとしてスケールアップしよう」なんて、そんな考えは微塵もなかった。そうしてそれからすぐ、自分にはもったいないくらい大きな案件を獲得することができた。

ライターの仕事は、本当に本当に楽しかった。案件そのものは難しくて苦戦することもあったけれど、クライアントやその上にいる代表が心から尊敬できる人達だったこともあり、毎日がわくわくした気持ちだった。
だからだろうか。いつの間にか私自身、「ライターとしてスケールアップしたい!」と、当初とはまったく違う気持ちが芽生えるようになっていったのだ。

けれど、私は思うように伸びなかった。

数ヶ月、悩んで迷って、このままじゃダメだと確信した結果、私はその案件から離れる選択をとった。
「逃げた」と言われればそれまでだ。ただ、2年間やってこのレベルかと自覚した今、同じ場所にいくらしがみついたところで、これ以上の成長を自分に見出すことができなかったのだ。

クライアントには「自分の責任だから、もう少し待ってほしい」と引き留められたが、違う。ものすごく学びの多い場だった。その環境を活かせなかったのは私自身の問題だ。ライターを続けるなら、続けたいのなら、今よりもっと成長しなければならない。けれど、がむしゃらにやったところで、私はまた空回りをするだけ。それなら、やり方を変えるより他はない。そう思った。
ただ、そう思えたことはせめてもの救いだったのかもしれない。

今回、ものすごく落ち込んだ反面、ライターまでやめようと自暴自棄にはならなかった。むしろ、大好きな案件から離れる決心をしたのも、ライターを続けたいからこそだ。

それなら、次はどうしよう。できることなら楽しみながら成長したい。そう考えた時、脳裏を過ったのが『漫画の原作』だった。

実は数ヶ月前に、ライター仲間のひとりと話をしたことがきっかけで、最近はWebtoon(縦読み漫画)や電子コミックの原作を受注しているシナリオライターも多いことを知った。それからというもの「自分もやってみたい!」とずっとうずうずしていたのだ。漫画原作なら、YouTube動画のシナリオとはまた違ったストーリー構成を学ぶこともできるだろうし、何より楽しそう。

そう考え、すぐに何件か応募してみたが、結果は全滅。というか、返事自体もらえなかった。
やっぱり、実績がないと難しいだろうか……。そう思っていろいろ調べた結果、実績うんぬんの前に(必須ではないものの)漫画原作の応募には企画書なるものが必要だということを知った。というか、そんなことすら知らず私は猪突猛進に直営業に踏み切っていたのだ。

甘い……。やっぱり私は、ライターとして考えが甘いのだろう。知らないことも、足りないものもまだまだたくさんある。
改めてそう自覚したことをきっかけに、ここらで一度、立ち止まってみる決心をした。
これまで公開NGの案件ばかりやってきたことで、目に見える実績も少ない。まずはシナリオのサンプル品や企画書を作成して、ポートフォリオも一新させよう。そして準備万端に整えてから、また直営業に挑めばいい。そう、初心に立ち返る判断を自分に下したのだ。



 ……とまぁ、こんな感じで今、私は右往左往している。副業とはいえ、2年も経って今さら何をやっているのだろうと、自分にツッコみを入れずにはいられない。それでも、今回の件があったからこそ見えるものもあった。
きっと、以前までの私なら、継続案件がなくなるこの状況にものすごく焦り、すぐにでも獲得できそうな案件に飛びついていたはずだ。もしくは、伸びないと分かりつつ、今の案件をだらだら続けていただろう。

けれど今回、それをせず一度立ち止まることができたのは、自分を信用していたからだ。今回の件は、確かにものすごく落ち込んだ。ただその反面「それでも、ここに至るまで努力してきた自分のことは認めたい」。初めて、そう思うことができた。
これは恐らく『自分を信用する』といった意味で、自信がついたからなのだろう。

もしかすると、今後狙っている案件も獲得できないかもしれない。ライターとしてのスキルも上がらないかもしれないし、究極、小説の出版も叶えられないかもしれない。

けれど、たとえそうだったとしても、私は書くことは絶対にやめない。欲しい案件を手に入れるまで粘るし、スキルが上がるまで努力する。小説だって、出版が叶うまで書き続けてみせる。
自分ならそれができるという意味で、私は自分を信用している。そして、そういった意味での自信こそがこの2年、ライターを続けて得た副産物だった。

きっと、これから先も何回、何十回と自分の能力のなさに項垂れる日が来るだろう。正しい努力ばかりを選べるほど、私は器用じゃない。だから毎回、不安にもなるし迷う。その度に、自分のことが嫌になる。

それでも「書くことはやめない」という自分への信用がある限り、私は何度だって立ち上がることができる。立ち上がってみせる。
私は、そんな私で良かったと、今は心からそう思う。


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