ホラー日記『布団』
僕のお兄ちゃんはここ数ヶ月寝袋で眠っている。どんなに寒くても布団で寝ない。着こんでで、パンパンになって寝袋で寝る。
「芋虫みたい」
揶揄って笑っても、お兄ちゃんは怒らない。なんで布団で寝ないんだろう。
「なんで?」
聞いたら、お兄ちゃんは話した。
「実は、布団に入ると夢を見るんだ。すごく綺麗な野原で、温かくて気持ちいい所なんだ。しばらくすると遠くからおーい、て声がして、誰かが俺を探してるんだ」
「そんな夢が続いてたんだけど、遠くに人影が見えて、それがおじいちゃんだったから返事をしたんだ。そしたらおじいちゃんがにっこり笑ってこっちにくるんだ」
「夢を見るたびにおじいちゃんがだんだん近づいてくるんだけど、よくみたらおじいちゃんじゃないんだ。顔が違うし、裸だし」
「それで、誰って聞いても答えないし、笑って歩いてくるだけだし。最近は、息の音が聞こえるくらい近くて、目をギラギラさせた知らない人が口を開けてる」
「怖くて、家で眠れなくて学校で休み時間寝てたんだけど、そうしたら夢を見ないんだ。布団をかけなきゃ出ないんだ」
「だから、寝袋で寝てる」
なんだそりゃ。僕はお兄ちゃんのお昼寝中にこっそり布団をかけてやった。起きたらびっくりするだろうと僕はワクワク待った。
でもいくら待っても反応がない。つまらなくなって布団をとったら、お兄ちゃんはいなかった。抜け殻みたいに寝袋があるだけだ。
大変な騒ぎになって、お母さんもお父さんも探しに行った。お留守番の僕は怖くて、お兄ちゃんの寝袋を何度も覗いた。
ごめん。お兄ちゃんごめん。
僕は泣きながらベッドにはいった。
綺麗な野原の夢を見た。
おーいって、誰かの声がする。