ホラー日記『洗濯機』
娘がひどく怯えている。洗濯機が怖いらしい。
「バタバタ暴れてるの、怖いの」
洗濯機はドラム式のもので、乾燥時は中で洗濯物が回るから機体は激しく揺れる。それも中古ショップで買った古いものだから、動作音は確かにうるさいし蓋の締まりもなんだか悪い。でも、それだけだった。
「お願いだからお風呂の時に回さないで」
娘に懇願されたが、それでは洗濯が間に合わない。だから私は娘の入浴中だけそばにいると約束して洗濯機を回した。
(大袈裟なんだから)
何気なく、黒い半透明の蓋から中を見つめる。ザブンザブンと洗濯物が回っている。ふと映り込んだ自分の顔と目が合った。
──目玉が落ちてる。ポロンポロンとドラム式で跳ね回り、歯が抜け落ちてカタカタと音を立てた。
「え」
バラバラの手足。ゴロゴロと転がる黒い毛の塊。内臓、骨、たくさんの顔、顔、顔。
それらが回りながらだんだんと一つにまとまって、バンバンと蓋を叩いた。洗濯機が激しく揺れ、爆発しそうに音を立てる。赤い水の中を回り転げながら、生まれてこようと蓋を押していた。
あのドラム式はもうここには無い。中古ショップに売った。誰か、私の代わりに引き受けて欲しい。