秋田柴子さんの「雨を知るもの」の読書感想文という名のファンレター
「雨を知るもの」 秋田 柴子
ネタバレ含む感想なので、ネタバレ嫌な方は逃げてください!
下に続きます。
雨の匂いや音。湿り気を纏う風の感触。そういった雨の気配を感じさせる語りが全体にあって、とても好きな物語でした!
主人公が出会った友人との大切な時間と、親や周囲、自分に対する葛藤や後悔の対比が、まるで雨の光と陰のようなイメージです。
私も高校生の頃は桃子のように、将来のことは漠然としか思い描けない子だったので、なんだかとても感情移入してしまいました。さやかとの秘密めいた二人の友情には子どもの頃に感じた特別なもの(変な意味でなく!)を、くすぐったさと懐かしむ気持ちを感じました。
子どもは色々と無力で、環境には逆らえない。ましてや同調圧力や無理解、偏見への疑問があっても、逆らうことや押し通すことは、大抵の人間にはできないことだと思っています。真実を知る桃子がさやかを守りたいと思っていても、彼女自身がそれを貫けないという気持ちが伝わって、痛いくらいでした。
そんな中、さやかのどこか達観した態度と諦めとも違う前向きな足取りがとても眩しく、これこそ雨の中の強い光の印象でした。さやか自身の「異質なものを受け入れる」という言葉は、孤独を知っているからこそ「共存している」ことも感じ取れるのかな、と思います。
最後、ちゃんとしたお別れができなかった二人でしたが、さやかは恨んでなんていなかったと思っています。
桃子の視点の物語なので、さやかにも描かれなかった苦悩があったのだと思いますが、なんとなくさやかは、異質なものを排除したくなる人間の気持ちもわかっていたんじゃないかって思っています。自分が異質だと遠ざけられてるのを感じながら、でも自分の向く方向やスピードは変わらない。雨が降るのを止められないように、適度に避けながらある時は受け入れる。そうやって周りを俯瞰するなかで、桃子の存在はやっぱり温かかったし、距離間に悩んでいる心中も理解できたんじゃないかと。
だから最後に話した時も、距離ができる以前と変わらないで自分自身の話をしたんだろうなと妄想しています。
ラストも、再会を匂わせつつ読者の判断に委ねるような終わり方が余韻があって、心の中にいつまでも残ります。
雨と親しむようなさやかの足取り。そして狭い世界と日常の中で生まれた、二人の不思議な交流と友情は尊いと思いました。
最後まで読んでくれてありがとうございました。個人の主観なので、読み落としや解釈間違いがあるかもしれませんが、ご容赦ください…!
あとペトリコール。初めて聞きました。このふわっとした匂いとても好きです。雨が来そうな時の匂いも好き。
そして琴美。眩しいです。たくましい。友だちになって欲しい(笑)