おぞましい箱
箱を見つけてしまった。
そうだ。忘れていた。
この箱の存在を。
いや、心のどこかでは知っていたのだ。
いつのことだったろう。
偶然にこの箱を見つけたのだ。
一見、なんの変哲もない箱…
なんの気なしに、その蓋を開けてみたのだ。
中には、何ともいえないおぞまいし光景が。
慌てて蓋をしたので、隅から隅まで見たわけではない。ただ、そこに蠢くおぞましいモノ達の残像は残っている。
二度と開くまいと誓い、この存在を記憶から抹殺することにしたのだ。
どこにどの様に葬り去ったのかさえ覚えていなかった。
それなのに、その箱は、再びおれの前に姿を現したのだ。
そう、また出会ってしまった。
記憶が、絶対に蓋を開けるなと警告している。
それなのに、心はあのおぞましい光景を確かめたいと疼く。
今でも、記憶の残像を辿れば、悪寒が這い上がってくるというのに、その残像は本物なのかと別のおれが問い掛けてくる。
こんど開けたら、その中身は間違いなく溢れて来るに違いない。
そしておれは、その蠢くおぞましいモノ達にのみ込まれてしまうだろう。
それでもおれの手は、ゆっくりとその蓋に伸びて行く。
まるでスローモーションでも見ているようだ。
今にも叫びそうなのに。