見つめるシミ
あれはなんなんだ…
やたらと大きな真っ黒なシミ。
みんな気にならないのだろうか…
あんなに目立つのに。
ひ!中に何か居る!
いや、ありえない。あれはシミだ。
壁のシミの中に…
シミじゃなくて穴なのか…
いや、あれはどう見てもシミだ。
でも、中に何かの目が動いていた。
一瞬だったけど間違いない。
そして、周りの人間だ。
なぜこんなにも皆んな気にならないのだろう。
こんな大きな真っ黒なシミを、まるで何も無いかのように無視している。
自分以外は、見慣れたシミなのか。
たとえ見慣れたシミだとしても、見ずにはいられない大きさだろうに。
今、気が付いた。
最初に見た時より、大きくなっていないだろうか。
さっき迄はこんなにも大きくなかった。
ジワリジワリと大きくなっている。
間違いない。
今まで全く気がつかなかった。
今思うと、倍ほどになっている気がする。
あっ!またあの目だ!
今もはっきりと見えた。
どうすればいい。
このシミが大きくなっていることも、中から何かが覗いていることも、自分しか気付いていない。
ちょっと待て。
これは幻覚なのか。
いや間違いなくこれは現実だ。
おれの意識はこんなにもはっきりしている。
このシミは、放っておけば必ず大変な事になる。
それだけは間違いない。
おれはここで大声をあげるべきなのだ。
今なら間に合う。
一言、「あのシミを見ろ」と。
なぜおれは大声をあげないのだ。
こうしている間も、シミはジワジワと広がっている。
ああ、おれはこんなにも弱いのか。
目の前に危機がせまっているのに、なにを躊躇っているのだ。
これは、自分が異質なものとなることへの恐怖なのか。
目の前の危機よりも、その恐怖がまさるのかよ。おれは。
今は、シミの中の目が静かにおれを見つめている。