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【エンタメサービスのUI/UX分析】 TikTok Lite編

株式会社FuturizeでUIデザイナーをしているもなみです。
社内のデザインチームで、「様々なエンタメサービスのUI/UX分析をする記事を書こう」プロジェクトの第四弾の記事を担当します!それではどうぞ!

はじめに

TikTok Liteは動画共有アプリ「TikTok」の軽量版で、低スペックのデバイスやネット接続が遅い環境でも快適に使用できるよう再設計されたアプリです。
また、ポイ活アプリとしての側面もあり、友達を招待すると5,000円分のポイントがもらえることで話題になっています。
視聴・いいね・検索などが報酬となり、そのポイントを電子マネーやギフトカードなどに交換可能。動画を楽しみながら、ゲーム感覚でアプリを楽しむことができます。
従来のコンテンツを楽しみながらそれが報酬に変わることは、どのような体験となるのでしょうか?
UIUXの側面から分析していきましょう。

ここがすごい 〜UI編〜

1.トレンドをおさえた遊び心あるデザイン

TikTok LiteがTikTokと大きく異なる部分は、コンテンツ制作機能を制限し、ポイ活としての機能を全面に押し出しているところです。

出典:TikTok Lite

ポイントページはキャンペーン期間ごとにリニューアルされ、季節感やインフルエンサーとのコラボなどが取り入れられており、飽きさせない工夫が施されています。

2Dテイストの動きのあるイラスト、抽象的なモチーフやステッカー的な装飾は、最近のデザイントレンドを押さえており、カジュアルで活気のある印象を感じます。
タスクの進捗グラフは遊び心のあるデザインで、アイコンをタッチするとシェア画面に遷移することもできます。

抽象的モチーフやステッカーを使ったデザイン 出典:
札幌PARCO Go scramble So ramble

アクセントカラーは賑やかですが、強調された文字やボタンの色は統一されており、重要なアクションの妨げにはなっていません。

2.エンゲージメントを促進する情報整理

このページには覚えきれないくらいのタスクがあります。
最大10人の招待報酬、いいねやシェア、検索、動画の視聴時間、毎日の広告やボーナス、その進捗を把握させアクションに繋げる、様々な工夫が伺えます。

特に重要な招待キャンペーンは、ページの上部に大きなイラストで目立つ位置に配置されています。
このキャンペーンでは、最大10人まで招待可能ですが、報酬のロック解除は「3人/3人/4人」の段階を踏んで行われるよう設計されています。
まずは短期的なゴールを設定し、ユーザーに「あと一人誘ってみようかな」とアクションを促しています。

「動画をシェアして最大5,000をGET」の項目では、動画のカルーセルを横にスライドした時、詳細ページが読み込まれる仕様になっています。
あえて「詳しく見る」リンクを設置せず、ユーザーの興味に応じて情報量を調節しており、見やすくなっています。

ボタンの文言は実行すべきアクションが明確になっており、この画面から動画を視聴するときは「いいね」をしようという気持ちで動画を見るので、自然といいねをしたい動画を探してしまいます。

次に「ボーナス報酬をGET!」では、次の報酬の受取時間がリアルタイムでカウントダウンされています。このページに訪れる度、動く数字が目に止まり「もうすぐ報酬がもらえるな」と記憶に残ることでユーザーのリテンション(再訪問)を促進できるのではないかと思います。
そして「動画を見て最大P2,400GET」で得られる報酬は、プログレスバーを使用して現在の進捗状況を表示することで、「20分までもう少し見てみよう」「時間を気にせずまだ見ててもいいか」とモチベーションを保たせ、視聴時間を伸ばすことに寄与しています。

このようにライト層のユーザーのエンゲージメントを高め、アプリを頻繁に使用させることで、TikTokに愛着を持たせることがこのキャンペーンの狙いであると考えます。

ここがすごい 〜UX編〜

1.報酬×報酬がもたらす魔法

気の向くままにスクロールしていると、あっという間に時間が過ぎてしまうTikTokですが、ポイ活機能を体験してみると、「報酬のためにあと10分見てみよう」「いつもはあまりしないけど、ちょっと検索してみよう」といった普段はしない行動をとっていることに気づきました。

もちろん、自分の興味のあるコンテンツを探しているため、「ポイントのため」という義務感はなく、楽しみながらタスクをこなせます。
タスクが完了すると「ポイントを獲得しました」というモーダルが表示され、達成感を味わえます。(下記画像1枚目)

この行動を繰り返していくうちに、「いいね」や「検索」なども無意識に行うようになると思います。
私たちはコンテンツを消費した結果、「時間を無駄にしてしまった…」と罪悪感を感じることもあるかもしれませんが、このコンテンツ×ポイ活機能には、コンテンツ消費が単なる娯楽から、消費した時間もメリットに変える魔法のような効果をもたらします。

このキャンペーンで利益を得るには、TikTokを毎日10回開く→ギフトアイコンをクリック→画面中央にあるチェックインをクリックするという少しの手間が必要です。

チェックインが完了すると、同じ画面に「1クリックで受け取れる報酬」「3回のいいね」などのハードルの低いタスクが提示されており、ポイ活から入ったライトユーザーが自然に動画を視聴する流れを作るのが非常にうまいと感じました。(上記画像2.3枚目)

この報酬×報酬の掛け算により、従来のアクティブユーザーは他のショート動画アプリよりTikTokでの視聴を選ぶかもしれませんし、ポイ活からのユーザーも新たな娯楽の選択肢として考えるようになるでしょう。
しかし、いくら報酬がもらえるとしても、コンテンツが楽しくなければユーザーは定着しません。
ここで、TikTokになぜ中毒性があるのかについて触れていきたいと思います。

2.デジタル依存を防ぐためのアプリ設計

TikTokの動画は通常15秒〜60秒と短く、無限スクロールで次々と動画を探索できるアプリです。
アプリを開くと同時に動画が自動再生され、ユーザーの視線は強制的にその動画にフォーカスされます。

別の動画を見たい場合は、上にスワイプすると紙芝居的に次の動画に入れ替わり、”見ながら探す”という設計をしていないことから、一つ一つの動画に高い集中力を発揮しやすくなっています。
このように、短時間で新しい刺激を得られる仕組みはその動画を楽しむだけでなく、「次はどんな面白い動画がでてくるのか?」という期待を生み出す、フィードバックループが起きています。これが、TikTokに中毒性がある理由の一つと考えられます。
一部の国では、道徳的な懸念や若年層への依存性の利用を理由にTikTokの使用が制限されています。

欧州委員会のティエリー・ブルトン委員は「TikTokは、短くテンポの速い動画を延々と流すことで、楽しさと、自分の周囲を超えたつながりの感覚を提供している」と語った。

出典:TikTok meets EU deadline over reward-to-watch feature

TikTokのセーフティーセンターは、多くの人がデジタル健康を守りながら楽しく利用するためのさまざまな提案を行っています。
2022年には、視聴時間制限モードスクリーンタイムダッシュボードペレンタルコントロールを導入しています。
ダッシュボードでは、1日のTikTokの使用状況やアプリの起動回数を確認でき、データが可視化されることで、自分の使用時間を意識的に管理できます。
また、休憩を取るタイミングの設定ができたり、こどもの安全を守るコンテンツフィルタリング機能就寝時刻の通知機能なども使用することができます。
さらに、13歳から17歳の人が1日に100分以上視聴した場合、次にアプリを開いた時に視聴時間の制限をリマインドするデジタルウェルビーイング・ポップアップを導入しており、健康的な使用習慣をサポートしています。

オンラインとオフラインの両方におけるあなたの幸せは、TikTokにとって優先事項です。TikTokでは、あなたがTikTok上での体験を自分でコントロールできていると感じてほしいと願っています。また、自分に合った方法でテクノロジーと交流することを望んでいます。

出典:TikTok セーフティーセンターウェルビーイングガイド

2010年代後半からの急速なスマホやソーシャルメディアの普及により、精神的・身体的健康の懸念が高まり、アプリを提供する企業側はユーザーの心の健康を守るため、デジタルウェルビーイングを促進する動きが広がっています。

  • 2018年にはiOSの「スクリーンタイム」、Androidの「Digital Wellbeing」がリリース。

  • YouTubeは「休憩リマインダー」を他社エンタメサービスの中でいち早く導入。

  • Instagramでは精神的な負担に繋がる「いいね」数を非表示に。

最近の「いいね」は、投稿が人気であるというステータスよりもユーザーの関心が高いものをレコメンドするための機能へとシフトチェンジしています。
このように、多くのユーザーを獲得し社会全体に影響を及ぼすアプリでは、利益の追求だけでなくユーザーの健康を考慮した設計が非常に重要になるでしょう。

まとめ

TikTok Liteのように、利用するほどポイントが貯まるメリットの多いアプリは、ユーザーの定着を促進させるUXであるべき一方で、健康的なバランスを取れるよう設計をすることが、良いサービス作りにつながると感じました。
ひとつの機能がユーザーにどのような心理的効果をもたらすのか、常に想像しながら設計することも重要だと感じます。
そしてユーザー自身もサポート機能を活用し、使用時間を意識することが大切です。
この記事がデザイナーをしている人たちにとって、UI/UX設計の理解に繋がれば幸いです。

Futurizeについて

Futurizeは、エンタメ領域のプロダクト開発スタジオです。
これまでに多様なエンタメプロダクトを手掛けてきた経験を持ち、エンタメへの情熱を持つメンバーが揃っています。

特にデジタルネイティブ世代をターゲットにしたプロダクト開発を得意としており、
グループ会社である株式会社Mintoと連携して、プロダクト開発だけなく、コンテンツ制作から流通まで一貫してサポートが可能です。

エンタメプラットフォームの立ち上げや、次世代のエンタメプロダクトの開発をお考えの企業様はぜひご相談ください。


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