〈 きつねの葉っぱのお金④〜きつねが都会に遊びに行く〜 〉
ふうあさんの携帯がなり、ふうあさんは電話を取った。
「うん。そうなの? 行く。行く。」
ふうあさんは電話を切ってこう言った。
「今、天神(てんじん)できつねの葉っぱのお金の為替相場(かわせそうば)が上がってるんだって。買い物しに行こうよ。」
「為替相場?」
アンジュちゃんは疑問に思った。
僕は説明した。
「為替相場っていうのはお金とお金を交換する時の値段だよね。例えば円と$(ドル)とか、でもこの場合……。」
「そう。きつねのお金と円の交換よ。」
ふうあさんは人差し指を1本立てて答えた。まほろちゃんは質問した。
「きつねのお金の単位は何なの?」
「K(コン)よ。大体1コン1円位で値動きしてるの。
K(コン)と比べて円が安い時にK(コン)を円に替えて、円が高くなれば円をK(コン)に替える。そしてもし円を持ってる時、円が下がれば人間界に住んで買い物しに行くの。」
「そんなやりとりもしてるの?」
アンジュちゃんは興味深そうな顔をした。
「こういうやりとりすることを『為替(かわせ)する』っていうのよ。」
「私も為替したい。」
「いいよ。今日、為替しよっ。」
ということで今日は、ふうあさんと僕とアンジュちゃんとまほろちゃんの4人で福岡の天神に遊びに行くことになった。
ふうあさんは、コンという音と煙と共にきつねの姿から人間の姿に化けた。
祐徳稲荷神社から祐徳バスで佐賀駅バスセンターに行き、そこで若楠(わかくす)号に乗り換えて天神まで向かった。
バスの中で僕たちはいろいろお喋りした。僕はふうあさんにある悩みを話す。
「今日は少し眠いね。最近眠いのに眠れないこと多いんだ。」
するとふうあさんは、
「それはキツ寝付きね。」
と答えた。
「きつね憑(つ)き?」
「きつねが憑くという方じゃなくて、寝付き悪くてキツイからキツ寝付き。」
「そんな言葉があるの?」
「そんな時は『寝付きいいきつね』って唱えるといいよ。」
「何だか回文みたいだね。」
「面白い。」
まほろちゃんとアンジュちゃんは面白がった。
「そう。キツ寝付きも寝付きいいきつねも回文だから、ひっくり返すことができるのよ。」
それからもう1つ悩みを話す。
「便利屋の仕事をしてて、庭の草むしりが大変なんだけど、何か楽にする方法ない?」
するとふうあさんは、
「それなら庭を葉っぱで覆(おお)ってしまえばいいじゃない?」
「なるほど。それなら草が生えにくくなるね。」
「そうでしょ。」
「でも逆に葉っぱを拾ってほしいって依頼されることもあるの。」
「それじゃあ、飆(つむじかぜ)を起こしたらいいよ。」
「飆(つむじかぜ)?」
「そう。飆(つむじかぜ)っていうのは犬やきつねの群れが疾走した時に起こるの。つまりきつねに頼めば飆(つむじかぜ)を起こしてもらえる。そしたらその風で葉っぱを一ヶ所に集めればいいのよ。」
「へぇ。きつねってそういうこともできるの?」
「私もやってみたい。」
「そういう願いならいつでも叶えてあげられるわよ。」
「配達の仕事をしてる時に天気雨がよく降るの。今日は晴れると思ったら降る。」
「それはきつねの嫁入りね。」
「ホントにきつねが嫁入りしてるの?」
「そうよ。最近きつね村では結婚ラッシュだったからね。
それに隆弘くんがきつね好きだから配達の日に降らせてるんじゃない?ホントはもっと大雨になる所がきつねの嫁入りで済んでるんじゃない?」
僕はその後うとうと眠った。僕が寝てる間、まほろちゃんとアンジュちゃんはふうあさんに天神のことをいろいろ教えてもらってたみたい。
そして天神に着いた。
ふうあさんはまずきつねの仲間が住む別荘に連れて来てくれた。
「ここがきつねの別荘よ。」
きつねの別荘は植物で飾られ、地面は葉っぱで覆い尽くされていた。
「高級に見せるために葉っぱで飾ってるの。」
中に入ってみた。ちょっと生活感はあるけど快適そうな家だった。
「天神の真ん中でこんな快適な家があったら便利ね。」
まほろちゃんは感心した。
「いつもきつねが交代で住んで家の管理をするの。そして人間に貸したり、人間を泊めたりもする。その時は家賃や宿代を取るの。」
「いい商売だね。」
僕も感心した。
「人間に家を貸した代わりに、水道代や光熱費、ガソリン代を払ってもらったり、車を借りたりして、旅して、旅先でいい家を見つけて人間に泊めてもらったり、家具家電を人間に借りたりもする。」
「貸した代わりに自分も借りるってこと?」
アンジュちゃんは訊いた。
「そう。貸し借りのやりとりをすれば、もう何にも所有する必要ないし、働く必要もないよ。
家って買えば1000万円するけど、友だちの家に住めば0円でしょ?」
「でも0円で泊めてくれるような都合のいい人いるの?」
「貸し借りの相手を見つけるコツは自分より貧しい人、自分より孤独な人、自分より無名な人と付き合うこと。
人は誰もが自分より豊かな人と付き合いたいというのが人情だけど、あえてそれと逆のことするの。そうすると付き合ってもらったり、貸し借りのやりとりに応じてもらいやすいの。
過疎の田舎に住んで新しいきつね村を作ることもできるし、それにお金に困ってる人がいたら泊めてあげることもあるし、貧しい人に食べ物をご馳走(ちそう)することもあるのよ。」
それを聴いて僕は意外に思った。
「へぇ。僕、誤解してたよ。きつねってお金儲けのことばかり考えてると思ってたけど、そんないいこともしてたんだ。」
「お腹空いてる時とかよっぽど疲れた時とかに食べ物を食べると、普通ならそんなに美味しいと感じない食べ物でも、異様に美味しく感じたりするでしょ。
きつねはそういう人に食べさせることによって幻の味を出すための実験してるの。」
「ええっ!? 実験?」
アンジュちゃんは驚く。僕は納得した。
「やっぱりそういうことだと思った。きつねが何の得もないのに只でご馳走する訳ないと思ってた。(笑)」
僕の言葉を聴いてまほろちゃんも笑った。
きつねの別荘に人間の女の子が2人住んでるみたいなので話をしてみた。夜子(やこ)ちゃんと九尾(きゅうび)ちゃん。まほろちゃんが2人に、なんでここに住むことになったか訊いてみると、夜子ちゃんはこう答えた。
「アタシは素敵な男性に、美味しいケーキをご馳走してあげるって言われたからついていったら、豆腐だったの。」
僕たち3人はズッコケた。まほろちゃんは呆れ顔で笑った。
「きつねさんたちったら、女の子に豆腐を食べさせて何の得があるっていうのかしら?全くもう。(笑)」
九尾ちゃんはこう言った。
「アタシは、アイドルにしてあげるって言われたからついていったら、観客全員サクラだったの。」
みんな笑った。アンジュちゃんは疑問に思った。
「何でそんなコンサートを開く必要があるの?」
それに対してふうあさんは、
「理由はいろいろあるわ。
フラッシュモブっていって集団で仕掛けるドッキリみたいなことをしてたり、そのための練習をすることもある。」
するとまほろちゃんは嬉しそうに言った。
「フラッシュモブって知ってるわよ。プロポーズする人なんかが、最初別れ話をすると見せかけて、がっかりさせた後、実は周りにたまたま居合わせたと思ってた人がみんなサクラで歌い出したりするんでしょ。素敵ね。」
ふうあさんは説明を続けた。
「アイドルになった気分を味わわせるビジネスすることもあるし、それからきつねの世界では、食べ物をゲストにご馳走して逆にお金を払うっていう文化があるから、その延長で歌を聴かせることもあるよ。」
「なんでご馳走してその上お金まで払うの?」
アンジュちゃんがまた質問した。
「さっき言った、貧しい人とあえて付き合うっていうのと逆で、お金持ちや人気のある人、友だちの多い人と付き合う時はご馳走しても返って得になることもあるからよ。」
まほろちゃんは2人に聴いた。
「すっかりきつねに騙されたみたいだけどどう思う?」
そんなふうあさんの言葉に2人は、
「まぁ、ダイエットになるからいいわ。」
「アタシも練習になるからいいわ。」
2人とも今ではすっかりきつねとなかよしみたいだった。
つづく