〈19.アーユーレディトゥゴートゥブランドニューワールド?〉

 僕はその夜、夢を見た。佐賀の田んぼ道を歩きながら悩んでいた。

「日本人と黒人は仲良くできないのかな?」

 するとそこにジェームズブラウンが現れ、

「日本人と黒人の相互理解が大切だ」

 と言ってすぐ消えた。


 次の日、参加者がいなくなったハーバー大学のカフェのカウンターで僕とまほろちゃんとアンジュちゃんはくつろいでいた。これからのことを考える。

「ニューヨークで観光でもしようか? どこに行きたい?」

 するとアンジュちゃんは、

「舞踏会に行きたい!」

 と言った。

「そんな所に僕たちが簡単に行けるかな?」

 と笑っていた。まほろちゃんは浮かない顔をした。

「ちょっと気がかりなことがあるの。」

「何?」

「ダイアナさんのこと。ダイアナさんとケンカ別れになったことが残念ね。」

「そうだね」

 3人とも黙ってうつ向いた。


 すると僕の隣にある人が座ろうとした。

「ちょっと、椅子にバック置くの止めてくれない? 座れないじゃない。」

「あー、すいません。ってあれっ!? ダイアナさん!」

 そこにいたのはダイアナさんだった。

「あんたたち、まだいたのね。いつまでこの学校にいる気?」

 そう言ってダイアナさんはコーヒーを頼んだ。すると店員さんは、

「ダイアナさん、今日は歌うのかい?」

 と聞いた。

「ええ、練習再開よ」


 僕が戸惑っているとダイアナさんは僕たちに教えた。

「あんたたちがカフェクラブを開く前は、私はカフェで練習を兼ねて歌を歌ってたのよ。私は歌手を目指してるの。それでこのカフェで練習させてもらってたの。カフェクラブを開いたためにカフェで歌うことができなくなって個室で練習することになったのよ」

「それはごめんね。」

 僕は笑ってごまかす。そしてまた言った。

「ダイアナさん、僕たちがカフェクラブでディスカッションしてた時、お客さんに紛れて話を聴いてたでしょ? 僕、気づいてたよ」

「私たちの邪魔をしないように配慮してたのね」

 まほろちゃんは感謝した。

「配慮してたんじゃないわよ!」

 ダイアナさんは怒った。


 そして僕たちが頼んだサンドイッチが出てきた。アンジュちゃんは

「いただきま〜す。」

 と手を合わせて食べ始めた。それを見てダイアナさんは笑った。

「ふっ、日本人らしいわね。そういうとこがダメなのよ。アメリカ人はいただきますなんて言わないのよ」

 するとまほろちゃんは反論した。

「いただきますっていうのは日本では当たり前の礼儀よ」

「そんな考え、国際社会じゃ通用しないわよ。日本人はすぐ自分を否定して黒人を褒める」

 僕はそれに反論した。

「それは謙遜といって日本では当たり前の礼儀だよ」

 ダイアナさんはこう主張した。

「ニューヨークには世界中の人が集まるのよ。日本人みたいに黙ってても気持ちを分かってもらえるなんて考え、通用しないのよ。ニューヨークではもっと自分をアピールしないといけないのよ」

 僕はこう反論した。

「日本では謙遜するのは当たり前。自画自賛が一番恥とされるよ」

 ダイアナさんはまた主張した

「それから日本人は黒人と仲良くなると言いながら英語を教えてもらおうとする」

 するとアンジュちゃんが反論した。

「相手の国の言葉を学ぶのは人と仲良くなる上でちょうどいい理由だと思うよ」


 まほろちゃんは質問した。

「ダイアナさんは何でそんなに日本を嫌うの?」

 僕も疑問だった。

「それに、日本が嫌いって言いながらやけに日本のことに詳しいね」

 それにダイアナさんは答えた。

「日本に抗議するのは日本のためよ。相手の国の悪いところはお互いに批判し合って改善し合う」

「キリスト教の『敵を愛せ』という教えみたいに?」


「これを見て」

 ダイアナさんは腕を見せた。タトゥーで「愛」の字が掘られてた。僕は驚いた。

「漢字だ」

 まほろちゃんもアンジュちゃんも驚いた。僕はあることに気づいた。

「しかも普通アメリカ人がタトゥーで漢字を入れる時は中国語で書くことが多いのに、これは日本語風の愛になってるね」

 中国語風の愛は「爱」と書き、下には友の字が入っている。

「日本語風の愛では真ん中に心があるの。昔、日本人に教えてもらったの」

 まほろちゃんは質問した。

「なんでタトゥーを掘ったの?」

 ダイアナさんは答えた。

「私、高校生の頃、日本人と付き合ってて、タトゥーはその時掘ったの。永遠の愛の印として。だけど振られちゃった。肌の黒い女性は嫌いって。それで思ったの。やっぱり日本人も黒人は嫌いなのかなって。」

 僕はうなった。

「う〜ん。昔そんなことがあったんだ」

 まほろちゃんも考え込んだ。

「それは好みの問題だからしょうがないわね」

 ダイアナさんは続けた。

「でもそれがきっかけで私の高校で日本のマンガが流行り始めたの。私の高校ではみんな日本のことが大好きよ。私以外はね。

 でもあんたたちが私の高校に行けばみんな喜ぶと思うの。一度会いに来てくれない?」


 僕たち3人は笑顔になった。

「分かった。行きたい。ねぇ。」

「うん。私も」

「私も」

 3人とも行くことに同意した。

「連れて行ってくれる?」

 僕は頼んだ。だけどダイアナさんは訂正した。

「ダメよ。そんな言い方じゃ。」

「何? また何か礼儀が気になるわけ?」

 僕は怪訝に思った。

「そういう時は『連れて行ってくれる(Would you take us to the school.)』じゃなくて、『新しい世界に行く準備はいいかい?(Are you ready to go to the brand new world?)』って聞くの。そして相手は『Yeah!』って答えるのよ」

「へぇ、言葉遣い1つでカッコよくなるね」

 僕は感心した。アンジュちゃんも、

「映画のセリフみたい」

 と言った。ダイアナさんは聞いた。

「Are you ready to go to the brand new world?」

「Yeah!」

 僕たちは3人声を揃えた。


 というわけで僕たちの新しい世界への旅が始まった。


つづく

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