〈29.日本人の素朴な青春〉
アンさんはふとこう言った。
「アンジュちゃんとまほろちゃんはこれから青春ど真ん中よね。羨ましいな。」
それに対してまほろちゃんは、
「アンさんだって若いから青春できるでしょ?」
と聞き返す。
「日本風の青春を楽しめるのがいいの。
部活を頑張ったり体育祭で玉転がししたりパン食い競争したりね。
銀杏(イチョウ)並木の公園のベンチでベレー帽をかぶって読書する少女がいるの。その時、憧れの先輩が通り過ぎる。愛の告白する時はクラスの友達が後ろからコッソリ応援してて、初めてのデートは神社のお祭り屋台。そこで初めて手をつなぐの。川辺の土手で自転車で2人で走ったり、「先輩、お弁当作ってきました」って言ってお弁当を手渡すの。
他の国ではなかなか出来ない日本風の青春なのよ」
アンジュちゃんは言った。
「日本の昭和では、夏休みには田舎に帰って虫捕りしたり、秘密基地を作ったり、泥だらけになるまで遊んで、川で体を洗って、お父さんが採ってきた作物をお母さんが料理して、冬には雪合戦したり雪だるま作ったり」
まほろちゃんも語る。
「もっと昔の日本の子どもは、道端でメンコをしたり鞠(マリ)付きしたり、お手玉したり、ひなまつりにはひなあられを食べて、秋には月見団子を食べて」
ダイアナさんも語る。
「黒人社会では、子供の頃はママのヒップとリップに囲まれて育って、母親が忙しい時は代わりに面倒見てくれる近所の奥さんもいて、友達と遊んで悪いことしたらちゃん叱ってくれる大人もいて、そんな中で生き方を学んで大人になっていく」
またアンさんが語る。
「世界には治安が悪かったり貧しかったり宗教の戒律が厳しかったりして青春を楽しめない若者が多いよね」
僕は語った。
「今の日本の若者は青春の無駄遣いをしている人が多い気がする。今の時代、孤独が蔓延してるし、お金を払って疑似青春体験や疑似恋愛体験を買ってる。そんなことしなくても普通に青春を楽しめるはずなのにね」
つづく