〈 きつねの葉っぱのお金⑦〜幻の宴〜 〉
その後、また企業神社のお稲荷さんの所に戻った。そこではさっきのお店で買い物していたお客さんたちがお互いにファッションを見せ合って自慢したり、お喋りをしたりして、寛(くつろ)いでいた。
僕は屋上を見回す。
「何かすごく賑わってるね。」
「今日はお稲荷さんのお祭りよ。」
それによく見たらお祭りの屋台が沢山出ていた。
「さっきまで屋台なんて全然なかったのに。」
このはちゃんがやってきた。
「あっ、このはちゃん!」
「こんばんは。今日はお祭りって聞いて見に来たの。」
さっき別荘にいた夜子(やこ)ちゃんと九尾(きゅうび)ちゃんがやってきた。
「ヤッホー。来たよ。」
2人は手を振った。
「2人も来てくれたね。」
さらに2人ふうあさんの友だちがやってきた。
「コン太くんに陽子さん。」
ふうあさんは紹介してくれた。
「コン太くんはきつね村の若い衆のリーダー。陽子さんは人間だけど、きつねと人間が仲良くなるきっかけになった人だよ。」
会場にはステージはなく観客が中央を丸く取り囲んで中央で歌いたい人が歌うというスタイルだった。
九尾ちゃんが歌い出した。
「♪今宵も集まるきつねたち 妖しい宴にみなが酔う♪」
僕は驚いた。
「うわぁ、九尾ちゃんって歌はあんなに上手かったんだね。」
「そう。きつねの応援を受けたアイドルは化けるよ。」
さらに社長さんも現れた。
「お祭り盛り上がってるね。」
「うん。お祭りって楽しいね。」
アンジュちゃんが一番楽しそうだった。
社長は言った。
「このビルは渡り廊下が沢山あって、もし火事になった時に逃げる通路が充分に確保できてるんだよ。」
「さすが社長、目の付け所が違いますね。」
僕は社長を褒めた。
「私、ラクシタの会社のやり方に感動しちゃった。食料保存のやり方学びたいなぁ。」
そういうアンジュちゃんにふうあさんは、
「食料保存なんてどうでもいいから歌おうよ。」
と言ってアンジュちゃんを歌に誘った。
「えっ、食料保存はどうでもいいの?」
「そんなに一生懸命に働かなくてもいいんじゃない?」
「私は大きくなったら働きたいな。」
アンジュちゃんは歌い出した。
「♪大きくなったら何になる? 素敵な大人になりたいな
看護師さんにメイドさん ケーキ屋さんに花屋さん♪」
ふうあさんは質問した。
「ねぇ、どうしてそこまでして定業するの?」
「定業?」
「定業するっていうのは目的もなく働くっていうことよ。きつねは必要ない時は働くのを辞めるし、意味なく働くことはないのよ。」
ふうあさんは歌い出した。
「♪目的もなく働いて 何のために生きてるの?♪」
「♪お金がいっぱい稼げれば 仕事は何でもいいんだよ♪」
アンジュちゃんは歌で答える。
それにまたふうあさんは歌って返す。
「♪人がお金を稼ぐのは 仲良く助け合ったお蔭
人と仲良くしないなら 仕事したって無駄なのよ
歌って踊って絵を描いて お話作って夢を見る
食べて眠ってまた起きて 遊んで暮らせばいいじゃない♪」
いつの間にかふうあさんの周りには観客が集まっていて歓声が響いていた。
「ふうあさんってこんなに人気あったんだ。ちょっとしたアイドルだな。」
僕は感心した。
するとアンジュちゃんは、
「分かった。遊んで暮らすことが大切だね。これからは遊んで暮らそ。」
あっさりと意見を変えた。
「おい、おい。アンジュちゃん。そんなに簡単に意見を変えていいの? どんな意見を持っても自由だけど、自分の意見をしっかり持った方がいいんじゃない?」
僕がつっこむ。そこへまほろちゃんが話に入ってきた。
「じゃあ冷静に考えてみようよ。アンジュちゃんは何のために働きたいの?」
「何のためってそりゃあ、何だろ?」
アンジュちゃんは答えに詰まった。
するとそこへ社長さんが加わる。
「そりゃあ食べていくために決まっとろうもん。
これからは災害多発の時代。毎日食べていけるだけでもありがたいと思わんばいかん。災害になったらカップ麺とトイレットペーパーが世界を救うたい。」
ふうあさんはそれに反論する。
「違うわ。災害になったらアタシの歌が人の心を救うのよ。」
社長とふうあさんは言い合う。
「人間は美味しく食べるとか無駄なこと言うけど、食事は栄養さえ取れればいいんだよ。味はどうでもいい。」
「それは違うわ。栄養なんてどうでもいいから味が大切なのよ。」
それを聴いたまほろちゃんは、
「どっちもどっちね。」
と肩をすくめた。
社長は歌い出した。
「♪街のはずれの小さな会社 オフィスの上にはお稲荷さん
僕らは街の人気者 あなたの仕事はなんですか?
新興産業 成長産業 雑用下請け何でもします
人情経営 信用第一 景気回復 大繁盛
もらえる物は何でももらえ~ぃ
人に頭を下げまくれ~ぃ
食料難に備えよ~っ♪」
「おお。」
きつねたちはこぶしをあげて応えた。
「この歌はラクスルの社歌なんだよ。」
社長は教えてくれた。
そこへ石松先生が現れた。
「石松先生、どうしてここに来たんですか?」
「あっ、石松先生だ。」
アンジュちゃんは喜んだ。
「いやぁ、ここに来れば只飯食えると聞いて来たったい。お金は楽して儲けるのが一番たい。やっぱきつねといえばうどん、うどんといえばきつねたい。」
「先生、こないだ言ってたのと違いますよ。」
僕がつっこむと社長が、
「あんたはふうあちゃんが化けてるんだろう!」
社長のつっこみで石松先生はふうあちゃんに戻った。ふうあさんが石松先生に化けてたみたいだった。けど社長はヴィジュアル系アーティスト風のイケメンホストに変身した。
アンジュちゃんは驚く。
「社長の正体ってイケメンホストだったの?」
「そんな訳ないでしょ!」
ふうあちゃんがつっこんでホストを社長の姿に戻した。
「え~ん。もう誰を信じていいか分かんなくなっちゃったぁ。」
アンジュちゃんは泣き出した。
そこへさらにすごく貫禄あるきつねが現われた。
「なんだね、この騒ぎは。せっかく今日はきつねのお祭りだと聞いて遊びに来たのに、争いごとかね。」
その姿を見た他のきつねたちは一堂に驚く。
「きつね神様(がみさま)!」
よく分からないけどきつねの世界で偉い人らしい。ふうあさんは解説する。
「きつね神の沖常(おきつね)様よ。
きつね神様といえばきつねの世界で最高のお方よ。人間の中で一番長生きな人よりもっと長生きの大長老よ。私たちきつねにお金を作るのを許可してるの。」
社長は揉み手で挨拶した。
「まさかきつね神様が直々にいらっしゃるとは。」
きつね神様は優しく諭すように言った。
「栄養も大切、味も大切、カップ麺も大切、歌も大切。どっちの生き方でもいいから仲良くしなさい。アンジュちゃんを泣かしちゃ駄目ですよ。」
「ははぁ。」
きつねたちはひれ伏した。きつね神様はアンジュちゃんの頭を撫でて慰めた。アンジュちゃんは涙を拭いて笑顔になった。
「アンジュちゃんのことをご存じで?」
ふうあさんは訊いた。
「私は何でも知っている。」
そしてきつね神様は歌い出した。
「♪きつねときつねの化かし合い いつか正体明かしたら
きつねと人が手を取って みんな仲良く手を振ろう
ああ~きつねの未来は~どこにあるの~?
ああ~いつかみんなで~歌おうよ~♪」
きつね神様が空に向かって手を差し伸べて熱唱してたかと思うと、
「♪いつも近くで見ているよ 今度一緒に遊ぼうね♪」
きつね神様は肘(ひじ)を曲げてクネクネと腰をくねらせて踊り出した。
「あれっ!? きつね神様が段々女の子に見えてきた。」
僕が違和感を感じて見ていると、きつね神様はまほろちゃんになった。
「まほろちゃん! きつね神様の正体はまほろちゃんだったんだ。」
まほろちゃんはみんなから歓声を受けて、
「ありがとう!」
と感謝を述べて手を振っていた。
それを見たふうあさんは愕然とした。
「騙された!
まさかまほろちゃんがきつねも騙すほどの術の使い手だったとは。主役もかっさらっていくし。」
まほろちゃんは、
「えへっ。」
と笑った。
僕たち4人は外の夜景を眺めた。
「よく見ればここって夜景が綺麗ね。」
まほろちゃんの言葉にふうあさんは、
「ここは天神の中でもはずれの方で低いビルが多い辺りだからね。」
「スカイラインがハッキリ見える。」
アンジュちゃんも夜景に見入っていた。アンジュちゃんは呟く。
「やっぱり他人が作った夢を買うだけより、自分の夢を思い描ける方が好き。」
「いつか夢が見つかるといいね。」
僕も共感した。
「いつまでも夢に浸っていたいな。今夜のお祭りみたいに。」
アンジュちゃんがそう言って振り返ると、
「あれっ!?」
屋上には僕たち4人以外誰もいなくなっていて、さっきまであったはずの屋台なども全くなかった。
「お祭りがなくなってる。」
驚く僕たちにふうあさんは、
「今日のお祭りは幻だったのよ。」
「え~っ、そうなの!?」
アンジュちゃんは驚いた。
「じゃあこのはちゃんとかがきてくれたのも幻?」
「このはちゃんはきつね村にいて、今日のお祭りに参加したような幻を見てると思うよ。」
「そっか。じゃあ幻としてちゃんとお祭りには来てたのね。」
「夜子ちゃんと九尾ちゃんは?」
「夜子ちゃんと九尾ちゃんは本物よ。社長さんも本物。石松先生は偽物よ(笑)。」
つづく