〈16.魔力の源〉
ペルー人の女の子メルーカさんが興味深い話をしてくれた。
「ペルーはかつてインカ帝国があったことで有名ですが、インカ帝国は縄文文化と関わりが深いと思います。ペルーのマチュピチュの近くにあるチチカカ湖は縄文語で「父母」という意味です。もしかしたら当時の人々がインカ帝国と日本列島を船で行き来してたのかもしれません。
インカ帝国の文化と縄文文化は魔法を信じる文化ということで共通しています。インディアンの教え、アボリジニの教え、ハワイのホオポノポノなどのように魔法を信じる教えは各地にありますが、共通するのは環太平洋地域だということです。」
アンジュちゃんは興味を持った。
「じゃあ環太平洋の人々が船で行き来して文化を教え合ったってこと?」
「そうかもしれません。」
「へぇ、面白い」
アンジュちゃんは笑顔になった。
アメリカ人テキサス州出身のクリスさんはこう言った。
「アメリカにはフォーコーナーズという国があります。4つの州の境に位置していますが、アメリカの州の1つではありません。先住民の作った独立国家なんです。」
キングくんは語った。
「カリブにはラスタファリズムという教えがあるぜ。キリスト教の教えを古代のカリスマ的聖人の考え方に基づいて解釈し直したものだよ。これは素晴らしい教えだと思うよ。
それから西アフリカにはブードゥー教っていう教えもある。ゾンビを信じる教えだ。アフリカではゾンビが信じられててな、コンゴの南にザンビアって国があるけど、ザンビアの由来はゾンビから来てる。」
「へぇ、そうなんだ」
アンジュちゃんは面白がる。キングくんは続けた。
「ケニアのマサイ族は独自の文化を持った民族として有名だし、その近くの国のタンザニアには「ウジャンジャ」っていう価値観があるよ」
「ウジャンジャって何?」
「ストリートで服などを売る行商人の知恵で、直訳するとズル賢いという意味なんだけど行商人の間では褒め言葉なんだ。」
「どんな価値観なの?」
アンジュちゃんはさらに聞いた。
「近くで事故とかあると野次馬が集まるから野次馬に売ったり、冷やかしが来たとしてもギャグを言って笑わせて買いたいと思わせる。時にはズルいことするけどそれでも許される程度の軽いズルをする。そういう知恵なんだ。
タンザニアには他にもポレポレ精神というのもあるぜ。コーヒー農園とかする人が持ってるのんびり生きていこうという価値観だよ。」
トーマスさんが聞いた。
「アフリカには植民地主義が支配する前からお金で売買する文化があったのかい?」
「もちろんあったぜ。東アフリカを中心に商売の文化があって商売人に使われて広まったのがスワヒリ語。
アフリカには「ンブントゥ」っていって只でやり取りをして助け合うって文化もある。
人類最初に物々交換したのも只でもののやり取りをしたのも、人類がアフリカにしかいなかった頃のアフリカ人だぜ」
「ノルウェーにはフィーヨルディーという言い伝えがあるよ。フィヨルドに住む妖精で、男は黙って狩りに出る。女は黙って待つだけ。めしいた婆やが夢に見た理想郷を語り続け、いつかそこに行けると信じる。そして狩りに出た男が疲れ果てて行き倒れたとしても誰の名も呼ばない。それが自然の掟。」
会場はシーンとした。その沈黙を破ったのはアーサーくん。
「私ならそんな民族には生産性の低い労働はやめさせて近代的な教育を受けさせるがね。」
僕は言った。
「今現在貧しい民族も昔は魔法を信じてた時代もあった。僕はそんな民族には魔法を信じる文化を思い出させるべきだと思う」
クリスさんがまた発言した。
「メキシコにあるアステカ文明は、その昔生活に困窮して難民となった民族が、蛇を咥えた鷲のいるところで文明を作れば栄えると信じて旅して、実際に蛇を咥えた鷲を見つけて、そこで文明を作ったと言われてる」
それに対してアーサーくんは言った。
「そんな妄想で作った国がたまたまうまくいったら返って危険だ。支配者が妄想を信じて何をしでかすかわからないではないか?
もっと知性を大切にするべきだ」
アンさんは反論した。
「でも魔法を信じる方が知性が高いと思うわ。昔から魔女は知性を重んじる。キリスト教は知性を重んじない。
ディズニープリンセスのジゼルみたいなお姫様はニューヨークの真ん中で歌を歌い出して鳥たちに話しかけて鳥たちに協力してもらってお掃除するの。
まず動植物と話ができる能力を身につけたらそれ以外の知識は動植物に教わるの。」
「バカバカしい。魔法なんて迷信だ」
アーサーくんは否定した。
つづく