〈  きつねの葉っぱのお金⑧〜あっちもこっちもきつねだらけ〜  〉

 次の日、僕たちはきつねの別荘で目覚めた。

 僕たち4人と夜子ちゃんと九尾ちゃんが居間に集まる。

「じゃあ今日は何しようか?」

 アンジュちゃんが訊くと、ふうあさんは訊き返す。

「天神に来た目的は憶えてる?」

「確か……かわせ?」

 アンジュちゃんは思い出した。

「そう。きつねのお金を円に替えようって言ってたよね。つまり買い物するってこと。」

「そういえばまだ買い物してなかったね。」

「一緒に行こうよ。」

 夜子ちゃんが行きたがった。

「もしかして為替相場が上がってるって電話したのは夜子ちゃん?」

 まほろちゃんが気付いた。

「そうだよ。」


 アンジュちゃんは訊いた。

「為替ってどうするの?」

「普段からきつねの仲間に、きつねのお金が通じる街で買い物や商売をしてもらってるの。それで相場が分かったら、貯金しておいたお金をきつねの仲間と交換するだけだよ。」

「普段の買い物が相場を知るための調査なの?」

「そう。」

「じゃあ僕、きつねのお金欲しいから交換しようよ。」

 僕のお金をふうあさんのきつねのお金と交換した。


 というわけでみんなで一緒に出掛けることにした。


 まず雑貨屋さんでまほろちゃんがきつねのキーホルダーを買った。アンジュちゃんはコスプレショップできつねの耳と尻尾を買った。アンジュちゃんはきつねのカッコがすごく気に入ってその場で付けた。ふうあさんはオタク向けの同人グッズを売るお店に入る。ふうあちゃんが長年探していたきつねのコスプレをするコスプレイヤーの写真を買った。

「これ、これ。SNSで人気のコスプレイヤーよ。」

 きつねの男の子2人が出て来る同人誌も買った。

「よく見れば人間界にもきつねって大勢いるのね。」

 まほろちゃんは感心する。


 その後夜子ちゃんと九尾ちゃんはバイトがあるとのことで別れた。


 お昼は大衆食堂で食べた。ふうあさんはきつねうどん、僕はたぬきそば、アンジュちゃんは稲荷寿司、まほろちゃんはかしわ飯を食べた。

 お店は大勢のお客さんで賑わっていた。ふうあさんは、

「このお店の店主さんはきつねだね。」

 と言った。


 コンカフェというお店に入る。おもちゃやお菓子、キャラクターグッズなどが所狭しと並べられていた。

「このお店は流行の最先端よ。このお店からきつねのVチューバ―が生まれてるよ。」

 きつねのVチューバ―の映像が店内で流れていた。

「それからこのお店には重要人物がいるの。それがこの2人。」

 ふうあさんが指したのは店員さんだけど、アンジュちゃんは店員さんを見て驚いた。

「あっ、夜子ちゃんと九尾ちゃんだ。カワイイ。」

 2人はこのお店の店員になってすごくオシャレな制服を着ていた。

「いらっしゃいませ。」

 笑顔で接客してくれた。


 ふうあさんは説明してくれた。

「実は人間界には大勢のきつねやその仲間が入ってるの。アタシたちきつねがこうやって街に出て買い物するのはそんな仲間を見つけるためでもあるの。」

「へぇ。」

「きつねが働いてるお店では急にお客さんが増えたりするのよ。それはきつねがお客さんとして来るからなの。」

「知らなかった。人間が知らない内にきつねがそんなコミュニティを作ってたなんて。」

 アンジュちゃんはまた驚く。


 店内のモニターにはVR(バーチャルリアリティ)の世界が映し出されていた。

「VRの世界できつねと会ったり、買い物したりできるの。そこでは仮想通貨が使われてる。そのお金もきつねが作ってるのよ。」

「VRとか仮想通貨ってどういうものなの?」

 まほろちゃんの質問にアンジュちゃんが答えた。

「私は知ってるよ。VRっていうのは絵の中に入れる仕組みでしょ? そして仮想通貨っていうのは絵の中で使うお金よね。」

「アンジュちゃんは50年後から来た未来人だからね。」

 僕は言った。


「じゃあ入ってみようか?」

 ふうあさんに誘われて、僕たちはゴーグルをかけてVRの世界に入った。そこは宇宙空間が広がっていた。

 まほろちゃんは宇宙空間に浮かぶ星を時間内にいくつ採れるか試すゲームをした。アンジュちゃんは風船を割るゲームをした。ふうあさんはきつねに変身してクルっと宙返りして葉っぱをお金に変えるゲームをした。

 するとみんなはお金を稼いだ。


「ねっ、こういう風にしてお金を稼ぐことができるの。」

 そういうアンジュちゃんにまほろちゃんは訊いた。

「でも星を採るだけでなんでお金がもらえるの?」

「それは星を売ったりしてる人がいるからじゃない?」

「じゃあ風船割ってお金がもらえるのはなんで?」

「誰かが風船が邪魔だから割ってほしいってお願いしたのかも。」

 するとふうあさんは笑って、

「もちろんホントはそうじゃないわよ。ゲームの賞金はゲームをプレイした人の参加費からと、もう1つは見物料から出るの。ゲームの上手い人のプレイを見たいっていう人からお金を取ってゲームに勝った人に賞金を払うの。」

 と解説した。

 ふうあさんはVRの中のお店に連れていった。僕たちがさっき採った星やハート、きつねの人形やお面などが売られていた。

「さっき稼いだお金を使ってこういったお店で買うことができるのよ。VRの中でしか聴けない歌が聴けたり、絵が見れたり、アニメが見れたりもする。そしてそれを売ることも出来る。それから、ゲームで勝った人はそれらを売る時にも有利な条件で売ることができる。

 実はゲーム会社がゲームしてる人に賞金を払う理由がもう1つあって、それがゲームしてる人が買い物するからなの。ゲームで稼いだお金はゲームで買い物に使われるそうやってゲーム会社にまたお金が戻ってくるの。

 これからは働いた人にお金を払う時代じゃなくて、買ってくれる人にお金を払う時代よ」

 そういうふうあさんに対してまほろちゃんは笑って言った。

「絵に描いたお金で絵に描いた商品を買うわけだからどうとでもなるわよね。」

「VRの中では、ゲームの攻略とかパズルを解いたりなんかしてお金を稼いで、買い物もできるから、そこでいくらでもお金持ち気分を味わうことができんだけど、実際には幻のお金で幻の商品を買ってるみたいなものなの。だからVRを作った会社はいくらでもお金を作ることができる。

 だけど、VRを楽しんでる人にとってはホントのお金。それが現実のお金と交換されてるし、為替相場もできてる。」

 僕は意外だった。

「きつねって庶民的なことしかしないと思ってたけど、そんなハイテクを使ったお金作りもしてたんだ。」

「すごいでしょ? ゲームの中でお金を稼げばもう現実で働く必要はないのよ。」

 ふうあさんは自慢げな顔した。けど僕は言った。

「でもゲームの中で稼ぐって言うのは本物じゃない気がする。長時間電波を浴びるのも体に悪いって聞くし、あんまりエコにはよくない気がするな。」

 それに対してふうあさんはこう反論する。

「物質の品物を売買する仕事は、地球の資源を採ったり作ったり運んだりしなきゃいけないから大変よ。ゲームの中で生活できればもうそんなことする必要ないでしょ?」

「確かにそういう仕事はすごく重労働だし、それを誰にもさせなくて済むとしたらエコにいいね。」

 僕は納得した。


 僕は質問した。

「きつねは株も買うって言ってたけどもしかしてこういう会社の株?」

 ふうあさんは言った。

「きつねが買うのはラクシタとかコンカフェとかきつねの会社の株なの。人間の売る株はあんまり買わない。きつねの買う株は、人間のホントの法律上の株じゃなくて、きつねが遊びで作った架空の株なの。例えば「天神の街はきつねの物だ。」って勝手に言って、そこで商売する権利を売買してる。」

「人間の知らない所で天神が株として売買されてるの?」

 僕は驚いた。

「人間が売買する土地だって元々自然のものだったでしょ?」

「そうだよね。人間が株や土地を売買するのも、勝手に自分たちのものにしただけだよね。」

「きつねは人間のお店や街を勝手に「自分たちの物だ。」と主張して、株や土地を売買して、勝手にお店を流行らせたりしてるけど……。」

「えっ!? じゃあきつねは人間界を支配してるの?」

 アンジュちゃんも驚いた。

「子どもの遊びみたいなものよ。実際にはきつね同士の間でお金がグルグル回ってるだけだから、きつねの株は人間の株より確実に儲かるし、きつねが株を買った街やお店は栄えるの。」

「確かにきつねなら経済的に自立してるからできるだろうね。」

 僕は感心した。

「結局、街が栄えるのは誰のお蔭か考えて、感謝してお金を払うのが投資よ。きつねの投資はお賽銭みたいなものよ。

 きつねは人間が自分の力でお金を稼いでるように見せかけながら、さりげなくみんなにお金が行き渡るように誘導してるのよ。」

「人間はきつねに守られてたんだね。」

 アンジュちゃんも笑顔になった。


 よく見ればコンカフェのお店の中の少し広い空間にお客さんの女の子が集まってきた。女の子はみんなきつねの耳と尻尾を付けていた。

 お店の外に出ると周辺の道にもきつねのカッコした女の子たちが大勢歩いてた。町中あちこちきつねのカッコした人だらけになった。

「見て、見て。きつねが天神をジャックしたよ。」

 ふうあさんは嬉しそうに言った。アンジュちゃんも喜んだ。


 つづく

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