〈40.お金持ちの秘密〉
僕たちはニューヨークにあるお城・ハースト城の門の前までやってきた。僕たちを乗せた車はお城の中に入っていた。僕たちは執事さんによって客室に案内された。
「こちらでお待ちください」
そこにアンジュちゃんやロリータちゃんもいた。
「アンジュちゃん、無事だったのね」
まほろちゃんは再会を喜んだ。
「うん、ロリータちゃんと仲良くなったの」
そこへ誕生日席にウラジミールさんがやってきた。
アーサーくんは訴えた。
「父上、外国人の女の子をお城に連れるのはおやめください」
「私は実力ある女性にチャンスを与えようとしてるだけだよ。まあ、とにかく今日はせっかくアーサーの友だちが来てくれたんだ。今日はおもてなしをしようじゃないか」
メイドさんはウラジミールさんに言った。
「ウラジミール様、今日も服装がよく似合ってらっしゃいますね」
「世辞(せじ)は良い。馳走(ちそう)を持て」
ウラジミールさんの声が部屋に響いた。ダイアナさんは疑問に思った。
「ここって声がよく響くのね。音響設備があるのかしら?」
アンジュちゃんは疑問に思ってアーサーくんに聞いた。
「アーサーくん、ウラジミールさんは今何て言ったの?」
「世辞はお世辞(せじ)、馳走はご馳走(ちそう)のことだよ」
「つまり、お世辞はいいからご馳走を持ってきなさいって言ったのね」
アンジュちゃんは納得した。
そこへメイドさんが品物を持って運んできた。僕たち一人一人の前で蓋がされたお皿がテーブルに乗せられた。みんなが蓋を開けるとそこにあったのはうさぎのぬいぐるみだった。
「何これ? うさぎのぬいぐるみじゃない?」
アンさんは不思議がった。
「父上、これはどういうことですか?」
アーサーくんは聞いた。
「はっはっはっ、いやだなぁ、これは冗談なんだから、今、笑うとこだよ」
「えっ!?」
アーサーくんは怪訝に思った。みんなはどう反応すればいいかわからず戸惑っていた。
「ほら、見てごらん。テーブルの下のスイッチを押すとエコーがかかるようになってるんだよ。馳走を持て、なんちゃって(笑)」
ウラジミールさんは冗談を言った。みんなは笑い出した。アーサーくんはがっくりうなだれて、ダイアナさんは目が点になっていた。
「道理でいつもと様子が変だと思ったよ」
アーサーくんはそうこぼした。
「面白い。私もやりたい!」
アンジュちゃんはエコーの声をやりたがった。
「全部の席にボタンがついてるよ」
アンジュちゃんの席にもボタンがついていた。
「馳走を持て」
アンジュちゃんはお金持ちらしい威厳のある声でそういった後、笑った。本物のご馳走が用意されて、みんなは楽しく食事した。
アンジュちゃんは聞いた。
「ウラジミールさん、お金持ちは普段どんな生活してるの?」
「毎日遊んで、美味しいものを食べて、友達と仲良くして、豪華な家に住んで、部屋には高級品を飾って、世界中に別荘を持って、自家用ジェットも持って、世界中を飛び回ってるよ」
「へぇ、素敵。でもお金はどうしてるの?」
「お金持ちは毎日お金を消費したりしない。転売価値のあるものや稼ぐチャンスが手に入るものを買う。だからますますお金持ちになるのだ。
沢山の会社を持ってるし、お金の管理は自分の銀行でしている。病気になったら自分の病院に行くことができる。生活費の支払いはなくて、逆にもらうばかりなんだよ。それに私の会社の従業員はみんな真面目でいい人ばかりだよ」
「スゴイですね」
僕は感心した。ダイアナさんは訴えた。
「そうやってお金持ちが面白おかしく生きてる間に私たち庶民は大変な思いをしてるのよ。アメリカでは格差が広がってるの。格差社会を作るのはやめてほしいわ」
「私は格差社会には反対だよ。お金持ちがお金儲けすれば、そのお金が庶民にも回る仕組みを作っているよ」
アーサーくんも訴えた。
「私も植民地支配には反対である。私が父の仕事を受け継いだら、イギリス人全員が豊かになる社会のために尽力したいと思う」
ウラジミールさんはこう言った。
「実は私はイギリス人ではない。アーサーはすっかり英国貴族のつもりみたいだが、私にとってイギリスは一時滞在の土地に過ぎない。私は生まれはドイツ、そしてロシア人の血が入っているロシア系ドイツ人なのだ」
「ウラジミールさんはロシア人だったの?」
僕は驚いた。ダイアナさんは指摘した。
「ロシアといえば、今世界を相手取って戦争をしてる国よ」
「みんな、ちょっとこっちに来てみなさい」
ウラジミールさんは本棚にある本を1つ動かした。すると本棚が動き出し隠し扉が現れた。
「隠し扉だ」
僕は驚いた。
「忍者のからくり屋敷みたい」
ダイアナさんも驚いた。
奥の部屋に入ると金銀財宝がたくさん置いてあった。
「すごい! 秘密の宝物の隠し部屋ね」
アンジュちゃんは感激した。
「もしかして、この金(きん)と引き換えに私の差別反対運動の密告者になれって言うんじゃないでしょうね?」
ダイアナさんは疑った。
「はっはっはっ、そんなことは言わないよ。でも君、発想が面白いね。スパイごっこなんて楽しそうじゃないか?」
そしてウラジミールさんはこう言った。
「ロシアは働く国、作る国だ」
「作るって何を?」
アンジュちゃんは聞いた。
「布の材料の綿花畑を作り、小麦畑を作り、牧場で牛乳を作り、ワインを作り、それを外国と取引して金(きん)と交換している。だから金がたくさん手に入る。ダーチャと呼ばれる別荘では畑を作って自給自足し、森でキノコを採っている。そして、それらは不動産価格を上げるためでもある。最近では金(きん)がお金としても価値があるとされている。金(きん)を直接品物と交換してもらえるのだ。さらに地面からも金銀財宝がザクザクと採れる。地下資源の豊富な肥沃な大地なのだ。
唯一大変なのが運搬だ。雪が多いので運ぶのが大変だし、港は冬には凍ってしまう。ただし、寒いから食料保存には向いている」
僕たちは一旦最初の部屋に戻り、そこからまた廊下を歩いて、衣装部屋でドレスに着替えた。そしてまた歩いて広い部屋に出た。執事さんが大きな扉を開くと、そこでは舞踏会が行われていた。セレブやアラブの王様や宗教家、芸術家、政治家、環境活動家、舞妓さんもいた。
ロリータちゃんが紹介した。
「ほら、これが舞踏会よ」
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「わぁ、素敵! お姫様になった気分」
「あそこでワインを乾杯してるのはロシア人とウクライナ人だよ」
「どうしてロシア人とウクライナ人が乾杯するんですか?」
僕の質問にダイアナさんも同じ疑問を持った。
「そうよ。ロシアとウクライナは今戦争中よ。そんな国の国民同士が仲良くするなんておかしな話だわ」
するとウラジミールさんは答えた。
「たとえ戦争中の国同士であっても経済交流は続いている。国民同士は政治問題に関係なく仲良くしているのだよ」
ダイアナさんは反論した。
「ロシアは世界に戦争を仕掛けてる国よ。そんな国に利益を与えるべきじゃないわ。軍資金に使われるわ。ロシアに対して全世界の人が抗議すべきよ」
そしてダイアナさんは舞踏会のみんなに言った。
「あんたたち全員、戦争屋よ!死の商人よ!」
「ちょっとダイアナさん、落ち着きたまえ」
アーサーくんはたしなめた。キングくんはこう言った。
「コンゴだって戦争が行われているけど、なんで全世界の人が抗議しないんだ?」
するとダイアナさんは、
「コンゴの戦争にも抗議すべきよ」
と言った。
キングくんはダイアナさんにこう諭した。
「ダイアナさん、人が差別をするのは抗議、犯罪を犯すのも抗議、ラップを歌うのも抗議、差別反対するのも抗議。社会問題は全て抗議する人によって起こされてんだよ。一部のキリスト教徒の間ではこう言われてる。
『神よ、あなたの信者から私を守りたまえ』」
「まるで信者が一番危険って言ってるみたいね」
まほろちゃんは笑った。
「そう、抗議運動なんてやめてみんな仲良くするべきなんだよ」
つづく