〈鈴々ちゃんと人形の旅②〉
私は隆弘くんに自分のことを教えた。
「アタシ、今観光旅行中なの。」
「どこから来たの?」
「大分の日田(ひた)よ。すごく田舎でつまんないトコ。」
「えっ? 日田といえば僕の大好きな町だよ。」
隆弘くんは意外そうな顔をした。
「日田には僕以前行ったことあるけど、求来里(ククリ)川っていう川があって綺麗だったよ。」
「求来里川は何もない小川よ。」
私はさらに詳しく生い立ちを語る。
「学生の頃は日田にある食堂で働いてたけどすごく大変だったわ。」
「何が大変だった?」
「仕事自体はそんなに大変じゃなかったけど、私のクラスメートたちにバカにされたの。田舎っぽくて地味な仕事って。」
「だから嫌だったんだ。」
「その仕事は嫌じゃなかったわ。みんな優しかったし。ただバカにされるのが嫌だっただけ。あのクラスでは女の子同士常に見栄の張り合いがあってね。」
「バカにする人の言うことなんて無視してればいいじゃない?」
「それが無視するわけにはいかなかったの。いじめっ子たちにバカにされたらすぐ噂は広まって、アタシの大切な友だちにまで情報が知れ渡ってしまうの。
アタシハーモニーランドに行きたかったの。大好きな原宿ファッションをしてね。でもそのことがみんなに知られると、アタシが見栄を張るために無理して頑張ってると思われたの。」
「なるほどね。僕の学生の頃もそうだったから分かる。」
隆弘くんは共感してくれた。
「原宿やハーモニーランドには行けた?」
「行ったよ。楽しかったよ。
ただ原宿は1人で行ったからちょっと心細かったな。ああゆう街ではストリートを歩く人同士お互いにファッションをチェックし合うでしょ? だからアタシのファッションが変に思われてないか不安だったの。
それでやっぱりアタシは、都会は苦手だなって思って、今度は田舎に行こうと思った。それで佐賀に来たって訳。」
つづく