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デザインの定義は時代と共に変わりゆく。けれど変わらないものも|井登 友一さん

6月29日、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第7回の授業内にて、インフォバーンというデジタルエージェンシーの取締役を務めている井登友一さんのお話を聴講しました。

社会調査手法(エスノグラフィックリサーチ、参与観察等)に基づいたデザインをやりたいという想いで、デザインに携われていた井登さんですが、その後、時代の変化やデザインに求められる意義の変化に伴い、向き合い方を変え、現在は京都大学の博士課程で「イノベーション創出におけるエステティックの研究 ー批判精神(こだわり)がもたらす意味的価値の理解ー」の研究を進めておられ、精力的にデザインに向き合われている印象を受けました。

これまでデザインがどう変化したか?変化の兆しは4、5年前から遡りますが、消費者や顧客の視点に立って製品やサービスを構築することが主流だった時代(A)から、製品やサービスを提供する側がどのような価値を社会に与えていきたいかを考える時代(B)へとシフトしつつあることが言われている。この変化はいくつかの文献で語られており、ひとつは経験経済の新訳の本、ひとつはローランド・ベルガンディー著の「突破するデザイン」の本です。

経験経済の本では、(A)ユーザに着目して観察して答えを出すことを重要と捉えて語られてきた経験経済が最上位の時代から(B)経験自体はコモディティ化し、次は変身(トランスフォーム)が求められる時代へ。ベルガンディの本では、(A)問題を捉え解決するためにデザインを用いる時代から、(B)意味を問い直し問いを提起する時代へ、と。「この世界は問題の解決だけでは足りない」と述べられており、さらに「3人の自分の子供たちの課題を解決しニーズに答えていきたいのではなく、彼らの未来を創っていく父でありたい」と語っているそうで、この言葉は非常にわかりやすく感銘を受けました。デザインとは何かを一言で言うと、以下だそうです。

Design is ”Amore" デザインとは"愛"である

愛と言う表現は良いですね、愛を与える側・贈り物をする側の人間に必要なのは愛であるとすると、愛とは何か?相手がそれを受け取った際にどう言う感情を抱くのかの想像力が求められ、そこにこうあって欲しいと言う願いと強い想いが乗っていることが言えると思います。

ユーザの声を聞いて課題を解決していくという流れが正しいわけではないことを象徴としての具体例が印象的であったため紹介します。満足度の高いヒューストン空港のバゲージクレームのサービスについてです。顧客の満足度を向上させるためには、飛行機を降りてからバゲージクレームまでいく道を短くすることを考えます。答えは逆で、バゲージクレームまでの道・歩く距離を長くしたことで満足度が上がったと。それは、ちょうど荷物をとる場所に着いた瞬間に荷物が流れ始めてくることで、早めに着いて荷物が出てくるのをただひたすら待つよりも満足感が上がるとのこと。言われてみるとそうだな、と思えることを、見つけ出す力が求められることを意味します。

そこにどのような文脈があるのか、文脈があるとそこにどのような新たな価値を感じさせたいかということを意識することが重要であり、さらには、早い段階で形にしていき意味を与え、あらゆる視点による批判を繰り返して、もっと良いものをつくり出していくという姿勢が望まれます。

最後に、連続的な価値をつくるデザインの時代を終え、今後求められるデザインとして撹乱的な価値を生み出し未来をつくるデザインが重要と語られていたのが印象的であったので紹介します。撹乱的とは、英語のDisruptiveと同義で、破壊的と訳されることが多いが、語源としては新しすぎて混乱を巻き起こす様なというニュアンスが強いそうで撹乱的というネーミングにされたそう。Apple社のiPhoneのように、撹乱的になるほどの新しい議論を生むようなものを提示すること、これが今後求められるデザインのあり方であり、それを推進するためには、自社のデザインプリンシプルを再定義することが重要だということです。自社は誰に対して愛を贈るのか、どのような未来を提案したいのか、等です。

一方で、企業という無機質な法人格の存在から、愛を贈るという行為をどう実現していくのか、が非常に難しいと考えます。まだこの世にない未来の体験を作り出すためには、リサーチからは導けない部分が多くあり、手法がフレームワーク化されているものがありません。そのような土台がない中で、これが愛である、これが未来の消費者にとっての贈り物になるということを示し続けることの難しさが付き纏います。だからこそ、何度もあらゆるクリティークを受けながらも世に提案していく強さを持つことが重要だとベルガンディも語っているのだと思います。

果たして、何度も多面的な批判を受けながら、世にサービスを提案していく心意気を企業のみなさんが持ちえるでしょうか?



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