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華僑心理学No.2 なぜ、中国人はモラルがないのか?

こんにちは、こうみくです。

第一回取り上げた「公平さ」に関するノートは、色々な方から感想をいただきました。皆さまからの感想はすべて、こちら↓から見れます。



第2回のテーマとして取り上げるのは、公平さと同等に大切な、モラルに対する価値観に関して。

一般的に、「中国人は、モラルがなっていない。ルールを守らない」といった印象を持つ方が多いと思うので、それに至った原因と考察を、解説していきたい。

1.伝統的思想の破壊によるモラル崩壊

中国人の価値観を理解する上で、儒教について触れずには、語れない。儒教は、2500年以上前に孔子が確立した思想であり、人生観、生活観、幸福感、世界観に加えて、生活の知恵といった、中国人の日常における価値観の基盤を形成している。この教えに従って、長い間、中国の一般市民は、非常に礼儀正しく、勤勉で温厚な国民性として認識されていた。

「いやいや、そんなことないでしょ。じぶんが抱いている中国人のイメージと、全然違うよ」

そう思われただろうが。その感覚も、全く間違っていない。

このような中国の伝統的な思想は、儒教に否定的だった毛沢東により、1966~1976年まで10年間続いた文化大革命のあいだに、木っ端みじんに破壊されたからである。

文化大革命が落ち着いたあとも、一度失った伝統を取り戻すのは難しく、社会的混乱は続き、人々はモラルを失った。「じぶんだけルールを守るのは、ばかばかしい。」、「礼儀よりも、秩序よりも、個人の利益を優先するべきだ」との考えが蔓延し、汚職や賄賂は悪化していく一方だった。


2.中国政府による爆速の巻き戻し

一般市民のモラルが崩壊し、ルールを守らない、自分の利益しか考えない、となると社会の秩序が乱れる上に、国の繁栄どころか、経済成長もままならない。この事態の深刻さに、中国政府がいつまでも、指を咥えて見過ごすわけがなく、15年前ほどから、強烈な巻き戻しをはじめたのである。

2.1 伝統文化の復興

まず着手したのは、とにもかくにも、儒教を中心とした中国の伝統的思想の復興。

著者の友人に、北京大学に留学している華僑のヨナちゃんという女性がいる。彼女のTwitterを覗いてみると、中国本土の大学で、如何に熱心に儒教教育が施されているか、その様子が垣間見れる。

同時に、中国政府は孔子学院と呼ばれる、中国語と中国文化を教える私塾を2004年から、世界中に開設しはじめた。その規模はなんと、2017年末時点で世界146カ国に1,638教室。現在絶賛紛争中のアフリカにあるマリ共和国にすら1校開設されているし、イグアナが元気なマダカスカル島に至っては3校設置されている。

(南アフリカにある孔子学院)

このように、一度やると決めたら、「中国国内の学生はもちろん、世界中の隅から隅まで、中国の伝統文化や思想を広めてやる」という気合の入った徹底っぷりが、実に中国政府らしい。

しかし、少々気合を入れ過ぎてしまったせいか、アメリカでは「孔子学院は、中国政府のスパイではないのか。」と怪しまれ、度々閉鎖に追い込まれている。それくらい、とにかく、伝統文化の復興に、気合が入りまくっているのである。

このように、中国政府の底知れぬ気合と強力な推進力により、若い世代 (30代以下)の中国人・華僑は、それ以前の世代とは全く異なる、伝統的な思想とモラルを取り戻した世代であるということを、心に留めて頂きたい。


2.2 徹底した反腐敗運動

2012年11月に、習近平氏が党総書記が就任してから、国を挙げての反腐敗運動が進められてきたことは、皆さんの記憶にも新しいだろう。あれから5年間、一体どれだけの成果を上げたのであろうか。

2017年に開かれた、中国共産党大会の記者会見で発表されたデータによると、


計約153万7000人の党員を処分し、うち約5万8000人を司法機関に送致したとのこと。

合計150万人越。中国広しと言えど、孔子も真っ青の、とんでもない数である。

「トラ(大物幹部)もハエ(末端官吏)も共に叩く」と習近平氏が提唱したスローガンの元、全国各地、一寸の容赦もヒイキもなく、叩いては、叩いては、叩きまくった5年間だった。

影響があったのは、官僚だけではない。

2017年の冬、著者が西安市にある病院へお婆ちゃんのお見舞いをむかった際、担当医に日本土産を渡そうとしたところ、丁重に辞退をされて、とても驚いた。今までならば、モノより商品券、現金をよこせと言わんばかりの態度だったのに。

アグレッシブな推進により、経済効果に対するマイナス効果も観測されたりと、賛否両論はあるものの、たった5年そこらで、過去数十年間、中国社会に根深く浸透していた腐敗が根絶されようとしている事実は、認めざるを得ない。


3.技術発展による自浄効果

近年において、中国人のモラルや価値観に一番インパクトを与えたのは、実のところ、儒教復興でも汚職撲滅活動でもなく、アリペイおよび芝麻信用(セサミクレジット)といった技術革新だと、筆者は考えている。

セサミクレジットは、ジャックマー率いるアリババグループが提供する、個人または法人の信用力を350点~950点の間で数値化してくれるサービスである。

スコア算出の基準は、「個人特性」「支払い能力」「返済履歴」「人脈」「素行」の総合点で評価され、スコアの数値が高ければ高いほど、信頼度が高いと評価され、さまざまな特典が享受できる。

支払能力及び支払い履歴は、アリババ社が提供する様々なサービスの利用履歴にひも付けられている。これに加えて、顧客自身から提出された個人情報(勤め先証明、収入証明など)とともに、AIが自動で点数をつけていく仕組みである。

スコアが高ければ、ホテルをはじめとする様々なサービスのデポジットの免除、賃貸の敷金免除、高スコア者専用サービスへのアクセスなど、ありとあらゆるジャンルの特典が享受できるようになる。反対に、支払の遅延や滞納など、社会的不義理を果たせばスコアが下がり、自分自身に不利益が跳ね返ってくる仕組みなのだ。

そして、このサービスが社会に浸透すればするほど、スコアが低いとさまざまな場面で差別されるようになり、ゆくゆくは社会的な死を意味するようになる。すると、皆、点数向上に向けて、熱を上げざるを得なくなり、その結果、税金や公共料金をきちんと納付する、支出を計画的に行う、品行方正にふるまう等、社会全体において、強烈な自浄効果が成させるのだ。

そして、セサミクレジットは今、中国で爆発的な普及を見せている。

最近では、企業提携による特典ではなく、高スコア者へのシンガポールの観光ビザ免除、といった対国家との提携も出てきた。中国都市部では、就職活動時にスコアを求められることもある。それほど、人々の日常に、セサミクレジットの影響力が、急速に、そして確実に、拡大しているのである。


4.相乗効果による急速な変化

政府による儒教教育の強化は、若年層のモラル形成に大きな影響を及ぼした。反腐敗運動では、官僚を起点とした既得権益層に大きくメスを入れた。

そして、セサミクレジットをはじめとする技術革新は、全国民に対して、「悪いことをしたら、じぶんに不利益が返ってきますよ。品行方正に生きていれば、得しますよ。」という概念を、強烈に叩き込んだ。

よって、「中国人はルールを守らないのか?」といった冒頭の問いに対する筆者の答えはこのようになる。

歴史的背景により、近数十年はそうだった。しかし、儒教・反腐敗運動・技術革新の相乗効果により、変化している。しかも、驚くほど、急速に。

個人レベルのモラル向上はもちろん、社会レベルで、中国はいずれ、世界中が驚くほどの品性良好かつクリーンな社会になるだろう。

そのときに。

「中国人はアグレッシブだけど、礼儀がなっていないから付き合いにくい。対して、日本人は規律正しく信頼できるから、取引したい」と他国から評価され、そこに自らの価値を置いている日本人/日本企業がいるとしたら。

近いうちに必ず訪れる未来に対して、自らのバリューの出し方、差別化の仕方を、今からもう一度、しっかりと棚卸することを、強くお勧めする。

<今日の華僑的価値観のまとめ>

①中国人が過去数十年間、モラルがないとみなされてきた。その理由は、伝統的思想・文化が途絶えていたから。

②20年前から、中国政府は、儒教をはじめとする伝統的思想の復興に全力を注いでいる。

③政府は腐敗根絶に関しても全力コミットをしており、成果を出ている。

④技術革新により、全国民及び社会全体に自浄効果が起きている。この動きは、今後どんどん加速する。

⑤中国では近い将来、個人レベルでは規律正しい国民性を取り戻し、社会レベルでは急速にクリーンになっていく。



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