前インドネシア監督、高橋健介が挑むインドネシア代表戦「明日は勝たないといけないと思っている」
フットサル日本代表は、10月4日に行われるAFCフットサルアジアカップの準々決勝で、フットサルインドネシア代表と対戦する。この試合を前に、これ以上、話をうかがうのに打ってつけの人物はいないだろう。前インドネシアフットサル代表の高橋健介氏だ。
2018年にフットサルインドネシア代表の総監督に就任した高橋氏は、まだ国内リーグ戦が整備されていない当時からフル代表、U-20代表の指揮を任され、各地で行われる大会を視察。選手を発掘すると同時に、最先端のフットサルの手本となる動画を教えるなど、育成面でも大きな足跡を残してきた。U-20インドネシアフットサル代表を率いて臨んだ大会では、同国の全カテゴリーのなかで初めてイラン代表を破るという偉業も成し遂げた。
2020年に開催される予定だったAFCアジアカップが予定通り開催されていれば、高橋監督はインドネシアを率いて大会ベスト4、そしてその先にあるW杯初出場という夢を、インドネシアの選手たちと目指しているはずだった。しかし、新型コロナウイルスの影響で、大会は延期に。W杯の出場権は、過去の実績ある上位5カ国に渡された。
その後、高橋監督はインドネシア監督を退任。現在はフットサル日本代表のコーチとして、木暮賢一郎監督をサポートしている。
今回のインドネシア代表選手たちの14名中13名を知るという高橋コーチに、今の思い、そしてインドネシアの警戒ポイントなどを伺った。
以下、高橋健介コーチの一問一答
――準々決勝の相手がインドネシアになりました。このアジアカップの舞台でベスト8で戦うことに対する率直な思いを聞かせてください。
高橋 正直、このタイミングでは当たりたくなかったなという気持ちと、当たれて嬉しいなという本当に複雑な気持ちです。なぜかというと、僕が2018年にインドネシアに行った時から1年前まで、自分自身も掲げていた目標が、アジアカップでベスト4に入り、W杯へ行くというものでした。選手がその目標、夢に向かって努力している姿を一緒に見てきましたし、一緒に努力してきた子たちの目標を今回、打ち破らなければいけない部分では、すごく言葉にしづらい感情があるのは、正直なところです。
――イラン、レバノン、チャイニーズ台北のいるグループを2位で通過しました。予選の戦いぶりを見てどのような印象ですか?
高橋 東南アジアの予選は、すごくレベルが高いと思います。その経験が、このアジアカップでのグループステージにもしっかり出ていたと思います。年齢はすごく若いのですが、東南アジア選手権で活躍した、何回もプレーした経験がある選手が多くいます。クラブでも今、リカルジーニョが来て、注目を浴びていますが、外国人選手や監督が入って来て、すごくベースが上がっている状況にあります。何か初めてグループステージ突破という結果ではあるのですが、そこにいることが当たり前のような、ベスト8に入る力があることは当たり前だと証明する戦いぶりだったと思います。
――1次ラウンド突破後、インドネシアの選手とのやり取りはありましたか?
高橋 今、食事会場がすぐ横なので、毎回、会ったら話をしています。コーチングスタッフは僕の時とアシスタントコーチからキットマンまで同じ人がやっているんです。気心知れた仲間として『おめでとう』という話をしました。
――高橋監督が退任してから、イラン代表のレジェンドが監督に就任。変わったことは感じましたか?
高橋 選手の構成も変わっていますし、実際に自分が連れて行っていた14名という枠でいうと、そこは少し変わってきています。大きな候補、合宿などにはほとんどの選手を呼んだことがあります。ラージリストでいえば、一人を除いて全員が、どういうプレーするか視察しています。実際に長く大会、合宿をやったメンバーからは少し変わっています。次のフェイズに入ろうとしているメンバー構成で、戦術的な部分でも若干の変更が感じられるかなと思います。
――細かい戦術の話は今、できないと思いますが、インドネシアの選手たちの特徴は?
高橋 文化的には、ワンデー大会のようなところで培ってきている選手が多い。そういう意味では、ゴールに直結するようなプレー選択が多く、そこに持っているスキルが高い選手が多い。そこが大きな特徴、長所であると思っています。そこは逆に言えば気を付けないといけないところです。
――フィジカルの能力も高い印象があって、初戦のサウジアラビアに近いのかなと思うのですが。
高橋 多分、同じような顔とか、選手の見分けが付きにくいかもしれませんが、僕は全員がもうはっきり分かるので。その選手によって、この選手は速い、この選手は強いというのが、はっきりしています。日本も(金澤)空が速い、ヴィニシウスはシュートがうまいという特徴と一緒で、それぞれに特徴があると思います。総合的にみると、「速い」というのがあると思います。
――選手個々の特徴までチームに落とし込めている?
高橋 監督からミーティングをするうえで、ビデオで監督に伝えたり、選手個々の特徴、この人とこの人の関係性で、どういうことが起こるかは、自分が中にいたからこそ分かるものはすべて伝え、勝つためにできることは今、全力でやっているところです。
――明日の試合、行ける!っていう気持ちになってきました。
高橋 そうですね。明日は、僕は勝たないといけないと思っています。勝った後の感情は、複雑なものがあるかもしれませんが、今、勝てることは全部やって、準決勝と決勝に、進んでカップを持って帰りたいと思っています。
――代表チームだけでなく、国としてのフットサル力で、やはり日本はインドネシアに負けてはいけないと感じますか?
高橋 今、インドネシアはリーグを含め、どんどん発展してきているところです。もちろん日本という国は、アジアでは負けてはいけない国だと僕は思っています。インドネシアだから負けてはいけないではなく、アジアの国には、どのチームにもそういうポジションにあると認識しています。
――インドネシアの人たちの国民性はどういうものですか。
高橋 いろいろな人種の方々がいるので、一概にインドネシア全体というのは難しいのですが、フットボールへの熱は本当に高い。今回のグループステージ突破に関しても、すごくSNSで盛り上がっていると思います。国民性で言えるのは、本番の(力の)発揮度が高いですね。カオスな局面への対応が高い。一つひとつプランを立ててやっていくのではなく、目の前のものにドンと力を発揮する。それは日本とは逆のものかなと思います。
――サッカー場の暴動で、多くの死者が出る悲劇が起きました。この件についてはどう感じていますか。
高橋 インドネシアでいろんなサポーターの方々に応援してもらって、フットボール界全体でサポートしてもらったので、非常に悲しいものです。自分たちはフットサル日本代表コーチの立場ですが、インドネシアと関わりが強かったので、哀悼の意を示しながら、少しでも明日の試合で勇気とかを与えられる試合が、お互いにできればいいなと思います。
――アジアの勢力図の変化が出ていると思うのですが、予兆というのはありましたか。
高橋 サウジアラビアに関しては、ずっとガルプカップなどをやってきているのを見ています。実際にUAE遠征でも対戦していて、どういうプロセスを歩んでいることはチェックしていました。それはもう自分自身、インドネシアにいたことを含めてですが、今までトップで走ったイラン、タイ、ウズベキスタンだけじゃなくて、それ以外の国が強化して、順調にプロセスを歩んでいることは理解していました。決してポット1、2、3、4のこれだけでは見ていませんでした。予想していたように、アジアで勝つのはそんなに簡単じゃないというのは、今回、証明している大会になっているかなと思います。
――最後に言い残したことはありますか?
高橋 一緒にやっていた仲間と、夢を描いていた子たちと戦う運命みたいなものを感じる。初戦で負けて、それが当たれるか分からない状況からこういうふうに1位で突破してやるっていうのは、運命を感じます。グレさんにも『オマエの引きが強ければ、オレたちは1位で行ける』と言われていていたのですが、いろいろな恩を受けてきました。今回、日本代表の力を示して、恩返しをして帰ってきたい。応援していただけたらなと思います。
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