目指すは2023ワールドカップダブル優勝。藤井・山本コンビの新たな挑戦(1)
2020年6月20日(土)、フットサル界に『ビッグニュース』が駆け巡った。
一般社団法人日本ろう者サッカー協会『JDFA』より、デフフットサル男子日本代表新監督に、元フットサル日本代表キャプテンの、藤井 健太氏が就任が決定。
6月11日(木)に、『続投』が発表されていた、デフフットサル女子日本代表監督の山本 典城氏とは、『ASPA』『BORDON』などでチームメイト。フットサルの『黎明期』を駆け抜けた旧知だ。
今回、Futsal Media Noteでは、男子監督の藤井 健太氏と、女子代表監督の山本 典城氏への『ダブル取材』に成功。2人同時に話を聞くことができたので、ここに紹介します。
『言うのはタダ』ダメもとの覚悟で・・・。興味はあった。『早く言え』という感じ
藤井 健太監督就任のキッカケは、山本 典城からの『声掛け』だった。
山本 典城「僕自身は前回大会、スイスのワールドカップの前に、協会との話の中で、大会後の話も少しさせていただいていて、その中で、『次は男子を』という話もあったんです。
ただ、僕は、続けるのであれば、もう1回、やっぱり『女子を見みたい』という想いがありました。スイス大会に関しても、世界一を目指した上で、5位という結果で、さらにその上に行く可能性も感じて帰ってきました。
さらに言うと、女子がまだまだマイナーな状態から、約8年見てきてた中で、成長した選手たちが、さらにまた『4年を改めて頑張りたい!』という選手が多かったところで、続けるのであれば、やっぱり自分は女子かな、と。
とはいえ、男子の選手たちの頑張りもずっと見てきていた中で、今まで川元さんやトレーナーの橋本さんたちが、自分と同じぐらい、それ以上の時間をかけてデフフットサルを今まで積み上げてきて・・・。
今回のスイス大会で、男子スタッフがもう終わりというところで、今まで築いてきたものがリセットされてしまうんじゃないかという心配はあり、そういう部分で、良い人材・・・、また続けて積み上げられるような人を、協会からも『誰かが居ないですか?』と言われていました。
そこで、たまたま3月ぐらいに奈良に帰るときがあって、健太と対面で話をしている中で、ちょっとまぁ僕の中では、『とりあえず言うのはタダだから、一回健太に言っとくか』みたいな感じで話を切り出しました。(笑)」
―山本さんからの話を聞いた第一印象は?
藤井 健太「聞いたときは、ダメ元で喋ってるな・・・。こっちが『もっと細かく話を教えて』とか言う前に、『そんな無理やわ、ワハハ、頑張れよ』で終わるイメージやったと思う。
でも、それと同時に、山本監督が女子の監督をやっているところで、自分自身はそこ(デフ)に関心を持っていたし、1回、合宿を観に行った時に、想像以上に、彼女たちの真剣さや、ヤマのデフに懸ける想いと、そこに対して(選手たちが)ついてこう、何かやってやろうって言う彼女たちの"想い"というのは・・・
なんやろ、自分たちの昔のフットサルをやってる時の環境に似ていて・・・・。それは、何かこう・・・今の自分にないものを気づかせてもらったような感じがしていた。
そこからまた(山本監督のデフフットサル女子日本代表が)"ワールドカップに行く"という話の時に、 "世界と戦う"というのは自分にとって、なんかこう、久しぶりに自分の知り合いのところで熱くなるものがあるなぁ、応援したいものがあるなぁと思っていた」
デフフットサルを取り巻く環境
―その場での反応、返事はどんな感じでしたか?
山本 典城「個人的には、思ったより食いついてきてくれたな、という感じでしたね。(笑)」
藤井 健太「お!ええやん。今の環境とか、条件を詳しく聞かせて・・・みたいな感じ。やるからには『4年』という長期の環境でやらないといけないので、本当に自分がやれるかどうかを真剣に考えたいから。最初から、『やる方向』での進み方をしていた」
ーそこから山本さんから伝えた情報は?
山本 典城「改めてというよりは、(それまでにも)会って話してきていたので、新しい情報というよりは、今の状況も含めて、選手たちの環境だったり、取り組み方だったり、そこが昔から考えても変化しているところだったり・・・。
後はやっぱり、そこ(デフ)に携わる意味というのは、フットサルの指導者としての価値以外に、社会的な部分だったり、社会貢献という言い方はあまりしたくはないんですけど、そういう部分でも自分自身も人として成長させてもらってきているので。健太がそこに携わってくれたら、そういう部分でも健太にとってもプラスになる部分はあると思っていました。
環境の変化の部分で言うと、昔は本当に正直『代表』なんていうのはもう名前がついているだけの状態のところから、今は本当に選手たちの頑張りが全てというか、僕自身も、選手が頑張らなければ自分がやっている意味も大きくはならないですし・・・。
とはいえ、一番大きな部分で言えば"金銭的な負担"というのは一番大きくモロに選手たちに乗っかかってきているので・・・。そういう部分では、今は本当に、お金の負担とかそういう部分も含めて、それを犠牲にしてでもこのグループ、代表に選ばれて世界で戦いたいという代表としての責任だったり、取り組み方のベースがようやく備わってきているのかなと・・・。
"日本代表"がどういうものかという話で言えば、実際僕自身も選手の時に日本代表になっているわけでもなく、Fリーガーになったわけでもありませんが、僕の場合は幸せのことに、フットサルを始めて"ASPA"に始まり、健太と一緒にやってきた中で、フットサルに対する捉え方だったりは大きな影響を受けました。
健太自身が、まだまだマイナーなフットサル、競技を背負って日本代表として世界に出て行っていたのを身近で感じてきたので。
僕の中では"日本代表選手はこうあるべき"とかそういうベースは、健太や当時代表で頑張っていた選手たちとの交流から影響を受け、それを自分なりにアウトプットし続けてきました」
―藤井監督は、そういう話を聞きながら、どういう風に決意が固まっていったのでしょう?
藤井 健太「決意はもう半分固まっていました。決意いうか、何かやっと来たかっという感じ、『早く俺に声かけろよ』という感じです」
山本 典城「言うなぁ・・・。(笑)
僕の中では、どこか少し離れた場所にいるというか・・・。もっと携わらないといけない人間だし、そうなって欲しいという想いもずっとあった中で、ではデフに巻き込むことがいいのか?という部分と、デフを良い意味でステップアップにして、この後、より経験をつなげてくれるキッカケにもなるかな・・・という思いも半々で、様子を伺っていました」
藤井 健太「興味がなければ、ヤマが監督をしていても、その合宿に顔を出したりしないですし・・・。
あとは、『この環境は当たり前ではない』ですし、先代がつくってきた想いや魂がある。そういったものを大事にしたいし、その上でさらに強い代表、新たな自分たちの道をつくっていきたい。
そこに『チャレンジする価値がある』『自分はできる!』といったことが決意を固めていった部分ですかね。
歴史的な積み重ねがあるからこそ、日の丸を背負う重みはありますが、責任や自覚を持ってチャレンジしたいですね」
―デフは、今、世界的にどこが強いのでしょうか?女子はいかがでしょう?
山本 典城「女子はスイス大会(2019)で優勝したのがブラジルです。2015年のタイのワールドカップで僕が1回目の時に、ブラジルも出ていて、その時はブラジルは準優勝だったんですが、『このまま行ったら、次はきっとブラジルが世界のトップに上がって来るだろう』という予想がぴったり当たりました。
欧州のロシアがそこまで2連覇していましたが、『このまま行くときっと、ロシアは勝てなくなるんじゃないか』と感じていました。
ブラジルがなぜ強くなったかというと、やはり競技としてサッカーじゃなくフットサルというところで、ピッチ、ルール、プレーモデルの違いは必ず勝敗を分けるというところで影響はしてくる中で、ブラジルはそこに対し、しっかり向き合っている。
指導者にしろ、試合前のアップの仕方も結構僕は見ているですが、どういう準備、戦い方をしているのかというところで、一番、ブラジルが"フットサルをやろう"としていたかなぁと。
このスイス大会で、日本とブラジルがデフ女子フットサルの図式を変えたと思います。これまでの世界大会の中では今まで女子の中ではなかったような展開、試合内容だったというか・・・。
ヨーロッパ同士がやると、フィジカルありきで、取ったり取られたりの中で、最後、取り切った方が勝つみたいな、そういう試合がヨーロッパ予選を見ても多いので。
その中で、日本とブラジルは、もちろん戦術的なレベルは健常な女子のレベルと比べるとまだまだですけど・・・、組織的なものをすごく考えていて・・・。
ブラジルはパルメイラのコーチが入っていたり、今回のワールドカップのトレーニングも最先端で、アップでもヨーロッパは昔と変わらないストレッチをしている所を、ブラジルはチューブを使ったり、色んなことを取り入れている。
選手も、ワールドカップ終わってからも、カスカヴェウの女子に2人入ったり、サッカーでパルメイラスのプロ契約した選手がいたり。ブラジルが結果を出す理由はたくさんあったと思います。
ヨーロッパ、ポーランドやドイツは個々のパワーだったり、サッカースキルは高いのですが、ワールドカップは、何試合もする中で、最後まで良いパフォーマンスを出すチームっていうところでは、今はブラジルなのかな、と思います」
山本 典城「男子は(スイス大会優勝は)スペインです。ただ、スイス大会はイランが出ていない。今まではイランが飛び抜けて強かったんですが、今大会はアジア予選は出ましたが、本大会は政治的な理由で出ませんでした。その前のタイ大会とスウェーデン大会は、イランが2連覇していました。
イランは個の能力が飛びぬけていて、おそらくイラン代表の選手の中で3人くらいは普通にFリーグで活躍できるレベル。
ただ、やることはすごくサッカーに近い。ピヴォ当てで、前プレしたらにピヴォ当てて、そのピヴォがしっかりキープできる。
日本も(アジア予選では)、前から(プレスに)行ったけどピヴォに当てられる。引いたら後ろの3枚で回されながら、ピヴォに当てられて個の能力でやられる・・・という感じでした。
そのイランが出てないところで、スペインとやったら・・・という話はありますが、今回優勝したのがスペインなので、今はトップがスペインという図式はあると思います。?
実際スペインのやってるフットサルって言うのは、普通に健常のフットサルとしてもレベルが高いというか。デフのフットサルでも"クワトロ"を普通にやっていますし、デフのスペイン代表は普通にリーガ(スペインリーグ)でやっていて、リカルジーニョとマッチアップしたりしています。
まずは健太もある程度"イラン"が物差しになるかと思います。今まで、アジアの男子はイランとタイがワンツーやったんです、ずっと。
でもタイは健常のフットサルと同じ感じで、"世代交代"がうまくいってないところで、ちょっとずつ落ちてきている。でも環境が良いので、きっとまた盛り返してくると思います」
取材・文=北谷 仁治
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