「暖簾ごしの日常。」について
2021年7月23日から8月8日にかけて「暖簾ごしの日常。」と題した個展を開催した。
展示内容は「今日の明るい未来」から「記念塔シリーズ(Monument series)」を16点、それらの写真を撮影している様子を収めた映像作品を一点、他に「明るい未来」の語の元ネタとなった「原子力 明るい未来の エネルギー」という標語を考案した大沼勇治氏に取材した際に提供していただいた映像を元に編集した映像作品(震災以前の家業の様子や、震災後の地元の変わり様を収めたモノ。映像の最後に大沼さんは自身が通っていた小学校へ行き母校の校歌を歌う)と、2021年7月23日の東京オリンピック開会式にてMISIAが歌った君が代の映像2本を、「みんなのうた」というタイトルで括って交互に見せるという映像インスタレーションだった。
展示会場にも掲げた以下のステートメント(一部)にも記した通り、私はこの展覧会で「日常」の脆さの表現を試みた。
我々がその中で過ごし生活していた風景は砂上の楼閣に過ぎなかったという陳腐な言い回しを思い付くくらいに、震災以降の「日常」が脆い足場の上に建てられている事を実感し始めていた。その足場の上に更に別の足場を組み上げて、オリンピックというレイヤーが「日常」に加わったのだと感じていた。「今日の明るい未来」という写真シリーズでは、そうした「日常」に「明るい未来」のキャプションを貼付する事でヴェールの裏に隠れた足場を晒そうと考えていたのだった。
また「記念塔シリーズ」に於いて、私は祝祭の空間を演出した。「日常」に「明るい未来」の文字を貼り付けるというプロセスは変わらないものの、東京やオリンピックを連想させる建物やオブジェクトと、プラカードにも模した「明るい未来」を組み合わせることで、至る所で東京オリンピックのための祝祭の場を出現させたのだった。
展覧会最終日には楠見清氏と福住廉氏を迎えてトークイベントを開催した。どちらもこのプロジェクトに深い理解を示していただいており、両氏の目線からこのプロジェクトを改めて読み直し、それに私が応えるといった遣り取りがなされた。
この時の遣り取りは私個人として大変刺激的であり、今まで気がつかなかった視点を提示していただいた様に思う。いずれ記録しておいたデータを編集してアーカイブを公開できればと思う。