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あだち充『タッチ』を一気読みしていたら、頭のなかに大瀧詠一が流れてきた
あだち充の全作品がデジタル版解禁になり、『タッチ』全257話が8月10日から17日に無料開放になったということで、一気読みした。
『タッチ』は昔、夏に再放送するアニメの定番で、毎夏、なんとなく見はじめて、なんとなく見なくなった記憶がある。つまり、何回か見ているのにも関わらず、はじめと終わりを見ていなかった気がするのだ。そんなこともあり、今回あらためて、全話を読んでみようと思ったわけだ。
3日ほどかけて読んだ感想は、え?こんなアッサリなの?という感じ。なんというか締まりがない。
ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで…。
この有名なセリフは『タッチ』だったのか!と、遅ればせながら知った。割とはじめの方に出てきた。それと、終わりの方に出てくるこのセリフも有名だろう。
上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中のだれよりも。
このあたりが山場といえば山場だけれど、ストーリーはひたすらダラダラ展開していく。これが本当に人気マンガ、人気アニメだったのだろうか、とすら思った。
しかし、それと同時に、ダラダラと過ごした夏をジワジワ思い出した。再放送を見ていたのは、90年前後だろうか。
検索してみると、アニメは85年〜87年に全101話が放映されている。マンガの連載は『週刊少年サンデー』で81年〜86年。つまり『タッチ』は、80年代のマンガなのである。
それでだんだん思い出してきた。80年代は、そういうのが新しいというか、かっこいいというか、オシャレというか、そんな時代だった。スポ根がはやらない時代になっていた。
スポ根少年マンガ、甲子園ものでは『男どアホウ甲子園』が70年〜75年、『ドカベン』が72〜81年、少女マンガのテニスもの『エースをねらえ!』が73年〜75年。
そうしたスポ根マンガに比べ、80年代の『タッチ』には、そもそも野球のシーンの描写が少ない。どちらかといえば、描かれているのは青春の甘酸っぱさだ。
と、だんだん80年代の記憶がよみがえってきたところで、頭の中に音楽が流れてきた。
大滝詠一の大ヒット作、『A LONG VACATION』(81年)である。「カナリア諸島にて 」が流れてきた。『A LONG VACATION』も、夏にダラダラ聴くのが最高のアルバムだ。『A LONG VACATION』を聴きながら、『タッチ』を読む。そんな夏。
次のアルバム『EACH TIME 』は84年。『タッチ』が連載された、81年〜86年と、ほぼ重なっているのである。
80年代の夏の匂いを思い出してきたら、締まりがないアッサリ感が、とても魅力的に思えてきた。
一気読みを終えたら、じつはマンガの『タッチ』も読んだことがあるような気がした。アニメも最後まで見たことがあったのかもしれない。しかし、そういうのが記憶に残らないようなストーリーなのだ。何回も何回も聴いた『A LONG VACATION』の最後の曲を、すぐに思い出せないように(ほんとは思い出せるけど)。
さて、とはいえ、ジェンダー的に『タッチ』は問題だらけでしょう。ということは、たぶん『A LONG VACATION』の恋愛観も問題だらけに違いない。その話は、機会があれば、またいずれ。