直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN(2019/3/7)/佐宗邦威【読書ノート】
プロジェクト成功の要因: 妄想の有無
プロジェクトが成功するかどうかの分かれ道は、その中に「妄想」を持っている人が存在するかにかかっている。これは多くのイノベーション経験から著者が感じ取った結論である。「真の価値のあるアイデアは、妄想の中からしか現れない」という。ところで、この「妄想」や「ビジョン」とは何か?著者の定義によれば、それは未来を想像するが、実際に達成されるか不明な考えのことを指す。
そのような「妄想」は特定の才能者だけが持つものではなく、私たち一般人の99%も、それを実現する力を持っている。さらに、著者はその「妄想」を単なる思いつきの段階からビジネスの「戦略」として具体化することが可能だと主張する。そして、その核心は「ビジョン思考」という独特な思考法にある。
ビジョン思考というのは、特権的な能力を持った人だけが行えるものではない。具体的な「手法」が背後に存在している。「行動を通して考える」「五感を最大限に活かす」原則を基盤として、「魔法のような問い」を用いて、妄想を拡張し、それを知覚、再構築、表現のプロセスに取り込む。
著者によれば、「何か新しいものを創造する行為自体が幸福を生む」という。このビジョン思考を身につけることで、ビジネスの中でありながらも、創造の喜びに触れることが可能になる。この考えは、読者への著者の最も価値ある贈り物と言えるだろう。
本書の核心
成功への鍵は、根拠の乏しい「直感」や定義し難い「妄想」にある。これは、個人だけでなく組織にも当てはまる。そして、この連続的な創造のサイクルを「ビジョン思考」と称している。これを深堀すると、しばしばそれは社会的な問題解決へとつながる。この考え方は、新しい時代に必要とされる確かなアプローチである。
自分中心の思考とは
日常の忙しさに追われる中で、私たちは他人の期待に応えようとする「他人モード」に囚われがちで、自らの欲求や感覚を忘れがちだ。ビジネスの世界でも似たような現象が見受けられ、組織の真の目的を見失いがちになる。しかし、成功している企業やチームに共通するのは、強い熱意を持つメンバーの存在であり、その根底にはロジックを超えた「直感」と「妄想」がある。
ビジョン主導の思考
「ビジョン思考」は、「直感」と「論理」の橋渡しをし、「妄想」を「戦略」に結びつける考え方だ。現代ビジネスの主流は、PDCAや効率的な「カイゼン思考」、市場を対象とした「戦略思考」だ。しかし、ビジョン思考は内発的な妄想から始まり、「イシュー中心」と「ビジョン中心」のアプローチが存在する。
ビジョン思考のテクニック: 余白の作成
ビジョン思考を習慣として取り入れるには、適切な「スペース」と「方法論」が不可欠だ。ここでの「スペース」とは、脳が「自分モード」に切り替わるための場と時を意味する。具体的には、毎日特定の時間を設けて自分の考えや感じたことを記録する「ジャーナリング」が有効だ。
妄想のテクニック
ビジョン思考の手法は、妄想、知覚、組替、表現の順に進むサイクルから成る。大切なのは、このサイクルが連続的であること。目標を10倍にすることで、新しいアプローチや資源の活用が促進される。問題解決を中心に考えるアプローチは「どうすれば…」と問うが、ビジョン思考は「もし…ならば?」という仮定ベースのアプローチを採用する。このような仮定を立てることで、新しい可能性や視点が生まれるのだ。
知覚の手法
ビジョン的な思考は、単に言語的な側面だけではなく、視覚的な側面も取り入れたハイブリッドな思考です。このため、「物事を直接感じて解釈する能力」の向上が鍵です。私たちは普段、言語的側面を重視しているため、視覚的な側面を活用するトレーニングや言語的側面を一時オフにするトレーニングが有効です。
最初は五感をフルに活用し、物事を直感的に「スキャン」することが大切。例えば「今日のカラー」として一日を過ごす「カラーハンティング」を行うことで、感受性を活性化できます。
続くステップは「解読」。入手した情報を自分の枠組みで整理します。ここでは、言葉を避け、全体の像として情報を整理する「ビジョン・ドローイング」が効果的です。
最後は、視覚的な側面から言語的な側面に切り替え、考えたことに意味を付与する「実行」の段階です。
アイディアの組み替え法
妄想の中で、初めからパーフェクトなアイディアを思いつく「センス」より、段階的にアイディアを洗練する「テクニック」が必要です。その方法が「組み替え」です。「組み替え」とは、アイディアを細分化し、再組織すること。イノベーション理論の「新しい結合」と似ています。
ここまで「ビジョン・ドローイング」などで形にしてきたアイディアを、細かな部分に分けて考察しましょう。そして、各要素の違った視点や反対の意味で考えることで、新たなバリエーションを生み出します。この時、他者の視点を取り入れることがポイントです。最終的には「アイディア・ドローイング」にまとめ、時間を設けて集中的にアイディアを再組織する方法もオススメです。
表現の技術
基本的な表現の手法として、「実際に作りながら考える」方法があります。「表現」とは最終的な成果物だけを指すわけではありません。表現は結果ではなく、それを通じて得られる意見や気付きを次の段階へと活かすための手段です。具体的には、「プロトタイピング」を用いてアイディアを進化させながら具現化していく方法があります。
始めに実物に近いものを作りましょう。完成度は二の次です。そして、そのアウトプットを基に検討し、更に洗練されたプロトタイプを作成します。
大事なのは、限られた時間内で「形にする→フィードバックを得る→再度形にする」というサイクルをどれだけ回せるかです。この繰り返しは「イテレーション」とも呼ばれます。
プロトタイピングの利点は「早期の失敗」ですが、最終的にはそのプロセスが成果物の質を向上させます。
他者を巻き込む方法
プロトタイピングの「究極の目的」を忘れてはなりません。それは「他者を関与させること」です。ただ「面白いね」と言われるだけでは不十分です。プロトタイプを見た人が、「私も参加したい!」と思わせるレベルを目指す必要があります。そのためには、シンプルかつ伝わりやすくまとめる技術が求められます。ストーリーテリングは、他者に影響を与えるための強力なツールとなります。
ビジョン思考の重要性とは
過去の時代には、直線的な成長や戦略的な思考だけで十分でした。しかし、現代の不確実性や変動性を持つVUCAの世界では、従来の方法だけでは対応が難しい。VUCAの特性の中で、継続的なトライ&エラーのサイクルや長期的なイテレーションがより信頼性のある方法となります。こうした環境下では、「ビジョン思考」の持つ多様な視点や柔軟性が、一つのキーとなると言えます。