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不適切報道大賞2024 報道加害部門番外 被害者の写真や実名を報道することは公益か?

 12月14日、北九州市のファストフード店で中学生2人が刃物で刺されて15歳の女子生徒が殺害され、男子生徒がけがをした事件が発生しました。
そして5日後の12月19日、警察は近くに住んでいた43歳の男性・平原政徳容疑者を殺人未遂の疑いで逮捕しました。

 この事件では、容疑者を護送したとされる警察車両の後部座席にカーテンが閉められていた様子が報道されたことから、精神障碍者ではないか?との憶測が広がっています。

 この事件では、被害者となった女子生徒の顔写真や氏名が大々的に報道され晒されることに違和感を覚えるとの意見があります。

 *ただし被害者の写真については、事件から3日目に、遺族から警察に対して公表した写真だとの報道されていることに留意が必要です。


被害者のプライバシー晒す、マスコミの前科

 マスコミによる被害者の実名やプライバシーの報道が問題になった契機のひとつが、2019年7月18日に起きた京都アニメーション放火殺人事件です。

 当初、この事件で亡くなった35人の身元について、京都アニメーションは
「とりわけ、インターネットにより、誰もが容易に個人情報や時には誤った情報等を容易に又は恣意的に発信できる現代社会において、ひとたび被害者の実名が発表され、報道機関により報道された場合、被害者やご遺族のプライバシーが侵害され、ご遺族が甚大な被害を受ける可能性」
があるとして、京都府警に犠牲者の氏名の公表を控えるよう要請しました。8月2日に、遺族に了承を得た10人についてのみ氏名が発表されました。
しかし、8月20日に、報道12社でつくる「在洛新聞放送編集責任者会議」が全員の実名公表を強要したことにより、8月27日に残り25名の氏名を公表するに至りました。
 しかし、残る25名の遺族のうち、20名は依然として公表を拒否している状況での公表でありました。
 京アニ代理人の桶田大介弁護士も、「弊社の度重なる要請及び一部ご遺族の意向に関わらず、本日被害者の実名が公表、一部報道されたことは大変遺憾です。弊社は、京都府警及び関連報道機関に対し、改めて故人及びご家族のプライバシーとご意向の尊重につき、お願い申し上げます」と遺憾の意を表明しました。

 なぜマスコミは京アニ事件の実名報道にこだわったのか。
Webライター・石動竜仁氏が執筆されたこちらの記事では、各社マスコミが実名公開を求めた「根拠」について、リストアップしています。しかし、社によって、公営性を強調するものや情緒に訴えかけるものなど、その論理や姿勢がばらついており、一貫性は読み取れません。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c4c9434b4b546858e8113e093082b8f284dee58d

情緒的な主張として、8月3日の毎日新聞は「遺族の悲しみを伝えるため」としているが、遺族の大半が望んでいないにもかかわらず、遺族の悲しみを持ち出す主張は理解に苦しむ。また、毎日新聞はアルジェリア人質事件での犠牲者の実名報道についても、2013年1月26日付の社説で「犠牲者がどんな方々か分かったことで、社会として事件を記憶し、今後の教訓もくみとっていくことができる」としており、京アニ事件のそれとは主張が異なっており、社としても一貫性がない。

 ここでは毎日新聞を例にしたが、社としての一貫性のなさは他社にもみられるものだ。情緒的な主張の多さからも、記者個人の心情に左右されており、一貫した論理をマスコミは持っていないと考えられる。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c4c9434b4b546858e8113e093082b8f284dee58d

 こうしたマスコミの事件報道・実名公表に対しての首尾一貫性のなさ、論理や倫理のぶれはなぜ起きるのか。
 『すべてがFになる』などの作品で知られる、作家の森博嗣氏が、こうしたマスコミ報道の問題について考察を行い、話題となっていました。
森博嗣氏の記事は現在はリンク切れとなっていますが、ウェブメディアの『Grape』の記事を通して、その論旨を伺うことができます。

無差別、大量と見出しにつくような悲惨な殺人事件が起こったときに、マスコミは被害者の名前や写真を公開し、その人生を描こうとします。ほとんど、被害者を晒し者にしている様相です。「見たい」「知りたい」というだけの野次馬根性の極みというか、非常に下品に感じられます。加害者でさえ、限度を超えた情報公開は控えている現代において、被害者の情報は、よりいっそうコントロールをするべきではないでしょうか。

https://grapee.jp/726590

そういった感情的なドラマに飛びつきたいのは、マスコミの古くからの習性です。「見たい人、知りたい人がいる。それを伝えるのが報道の使命」という綺麗な言い訳で、商売繁盛の名目を隠しています。涙を誘う報道がほしいから、被害者のことを探る、という「感動作り」にほかなりません。

https://grapee.jp/726590

多くの異常な加害者は、被害者がどれくらい悲惨になり、どんなふうに可哀想になるかを知りたい。どれくらい社会が嘆き悲しむのかを見たい。それが、彼らの手応えなのです。その手応えのために卑劣な犯行を発想し、実行します。したがって、被害者を晒しものにするのは、犯罪者には願ったり叶ったりの行為といえ、まさに犯行の最後の仕上げを幇助しているようなものです。また、それらを見た潜在的な加害者を刺激し、将来同様の事件の再発につながる結果を導くと思われます。

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12月6日の女優・中山美穂さんの関係者に張り込みを行い、遺族に突撃取材するマスコミの姿が見られました。12月14日に起きた北九州の事件でも、告別式の様子を取材し、被害者のプライバシーを報道する様子が見られました。

私達一般人は、マスコミが配信するニュースをもとに、世の中の出来事を知るほかありません。だからこそ、そのマスコミの報道の裏には商売の論理があることを意識しながら、情報社会を生きる必要があると言えます。
 この記事は、北九州のマクドナルドで起きた事件を、不適切報道大賞2024 報道加害部門の視点で捉えた内容ではあります。
しかしなにより、亡くなった被害者の方のご冥福をお祈りするとともに、加害者が法により裁かれることを願っています。

感情的なドラマに飛びつきたいのは、マスコミの古くからの習性です。「見たい人、知りたい人がいる。それを伝えるのが報道の使命」という綺麗な言い訳で、商売繁盛の名目を隠しています。涙を誘う報道がほしいから、被害者のことを探る、という「感動作り」にほかなりません。

多くの異常な加害者は、被害者がどれくらい悲惨になり、どんなふうに可哀想になるかを知りたい。どれくらい社会が嘆き悲しむのかを見たい。それが、彼らの手応えなのです。

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