金欲制
居酒屋。
タレントと制作会社社員。
少しお酒が入り盛り上がってます。
「久しぶりだね~」
「何年ぶりですか?」
「2年……かな?
あの番組以来だろ?
あれ終わったのが、
ちょうど2年前の3月…な!
元気してた、いっちゃん?」
「元気でした。
仕事もボチボチと」
「見てるよ~あの番組。
あれいいよ!凄く良い!
ターゲット層も幅広くてさ。
その手があったか~って。
見た時はちょっと嫉妬した。
なんで声掛けてくれなかったんだよ」
「メインのタレントさん決め打ちで。
その人たちに合わせた企画だったので」
「それは仕方ないな…それは無理だ…。
でもゲスト枠とかさ、
レポーターとかあるじゃん?」
「岡本さん外好きでしたっけ?」
「嫌い。大っ嫌い!
雨とか虫とかダメ!
だから俺、外ロケ全部NG!」
「じゃあ、やっぱりダメじゃないですか」
「そだな…さすが、いっちゃん。
俺のことわかってるぅ。
伊達に付き合い長くないね」
「そうですね。
お互い上京も同時期でしたね」
「あの頃はお互い貧乏だったなあ。
生活するのがやっとで。
できもしない料理とかしてさ」
「岡本さんのは、
特にワイルドで酷かったですよ。
覚えてます?袋麺?」
「袋麺なんかしたっけ?」
「岡本さん作り方知らないのに、
説明も読まずに作ったんですよ」
「俺?そんなことした?」
「しましたよ~。
今でもたま~に夢に出ます」
「それ余程だね!」
「覚えてます?
食器棚の袋麺見つけて、
ラーメン食いたい~って、
岡本さん作り始めたの」
「そうだっけ?」
「それで岡本さん。
何となくはわかってたんでしょうね…
袋麺をお湯で温めるの…薄い情報で。
でも結局、どうしたと思います?
ポットで袋麺茹でたんですよ!
そしてテーブル中央にドンって置いて、
食うぞ!って」
「ああ~!ちょっと思い出した」
「でしょ。
そこまでなら、まだよかったんですよ」
「まだなんかあんの?」
「ここまで言っても思い出さないんですか?
岡本さんその後。
何を思ったか給湯ボタン押したんですよ!
そしたら、ゲフッゲフッて
スープが吹き出てきて、
止まった~と思ったらチョロッと、
麺が2本出てきて……
それで壊れたんですよ、僕のポット!」
「ああ、全然覚えてねえ~。
そうだっけ?わりぃわりぃ」
「岡本さん昔から都合悪いこと、
すぐ忘れるの変わってないですね~」
「そうかもな。
でもそんな細かいこと気にしてたらさ、
この業界では生き残れないよ」
「いや、気にして下さい!
わりと岡本さんのエピソード、
各局で聞きますよ」
「そうなの?初めて聞いた」
「岡本さん自分のSNSとか見ます?」
「全然見ねえな。
全部マネージャーだから」
「だと思いましたよ。
岡本さん、周囲の声。
ちょっとは気にした方がいいですよ」
「わかった。気をつけるよ。
でも気にしろって言うなら、
俺もさっきから気になってることあんだけど」
「何ですか?気になることって」
「その、いっちゃんの時計」
「時計?これが何か?」
「止まってるじゃん。
しかもガラスも割れてるし」
「ああ、これですか?
これはちょっと奥さんに無理言って、
買ったんですけど壊れちゃって。
でも気に入ってるから外すのも、
どうかなって…」
「出せよ!修理!
もしくば買えよ!新品!」
「いや~何ていうか、
最近、節約癖がついちゃって」
「節約癖?」
「欲しい物はすぐ買わない。
調べても買わないって方法です」
「それ節約じゃなくて、
不買運動じゃねえか!」
「でも物欲は凄いんです!
欲しいと思った瞬間、
ボタンに手がかかってるんです」
「じゃあ、押せばいいじゃねえか」
「いえ。ここで節約スキルを発動させます」
「スキルって何だよ!」
「まずショッピングサイトで商品を見ます。
するともう気持ちがドンドン高まります」
「そうなるな」
「そして購入者のコメントを見ます」
「レビューな。
あれは参考になるからな」
「購入者の自慢がバッ~と目に入ってきます。
でも私はそれをちょっと薄目の横目で見ます」
「なんでだよ!
ちゃんと見ろよ!
なんで流し目なんだよ!」
「そして流れるコメントから、
お目当てのコメントを見つけます」
「お、おお~。参考になるやつな」
「そして読みます。
……
●全くダメでした。
●交換を頼んだら断られました。
●酷いです。起動もしません。
●これはそもそも商品ですか?
●床燃えました。だからここも燃やします。
●取手が折れて、心も折れました。
どうですか?」
「いや、酷いな!
特に最後のふたつ」
「でしょ?
これを見た私の購買意欲は急降下。
あの番組の最終回視聴率ぐらい」
「1.8%じゃねえか!
ほぼゼロだろ、それ!」
「そうです。もうほとんど意欲は残ってません。
そうやって僕は節約してきたんです」
「なんでそこまでやるんだ…いっちゃん」
「お金のためです、岡本さん。
お金もったいないじゃないですか」
「まあ確かにお金を大切にするのは
良いことだけど、やり過ぎじゃねえか?」
「だって何にだってお金かかるじゃないですか!
生活に子供たち…。
それに趣味や人付き合いだって…。
何にでも必要なんですよお金は!」
「そうだけど。
そこまで我慢して楽しいか?
俺ら長年の付き合いだけど、
金のこと考えて飲んだことあるか?」
「ないです」
「こうやって会って飲んでると、楽しいだろ?」
「はい。楽しいです」
「だろ?節約は大事。
でも、するべきところと、
そうじゃないところは分けないと…
と、俺は思う!」
「はい。そうですね…その通りだと思います。
岡本さん…僕、気をつけます」
「2人で盛り上がれば、
そりゃ飲み代は掛かかるよ?
でも美味い酒と肴で、
昔話に花を咲かせれば、
それはプライスレスじゃないの?
この時間は金に代えられないじゃん!
だから今回は2年ぶりだったけど、
また俺に会いたいなあって思ったら、
すぐ連絡して!
いっちゃんなら、すぐ飛んでくから!」
「いえ。それは大丈夫です」
「えっ?なんでっ?!」
「岡本さんのことが気なったら、
いつものように、
岡本さんのSNS見ますから」
「?……
……もしかして…
俺のSNS炎上してんの?!」