
神に出会った男
世界一高い塔。
先端で作業中の男。
「おい」
「……?」
「おい!
お前に話しかけとるんじゃ!」
「うえぇぇぇ!!
あっ、あぶなっ!!
脅かすなよ、ジイさん!!
いま片足踏み外したぞ!!」
「安全帯があるから大丈夫じゃろ」
「まあそうだけどさ…
って、ジイさん誰だよ!
何で浮いてんだよ!!」
「わしか?わしわ…」
「こちら入間!!
ここに変なジイさんがいる!!
どうぞ!!」
「おい。
まずは、わしの話を聞かんか…」
「ほんとだって!!
上下紫のニッカポッカで!!
俺、ヘルプ頼んでないよね?!」
「もしも~し。
おぬし少し落ち着いて…」
「え?!
下から見たけど…
俺以外の人影は確認できない?!
いや、目の前にいるって!!
ん?俺が大丈夫かって?!
朝の健康チェック、クリアしたろ?!
交代?しないよ。
ここ地上1000mだぞ。
いいよ、大丈夫だから。
今の話は忘れてくれ。
作業に戻る」
「話は済んだか?」
「…あんた誰だ?
作業員の幽霊か?」
「お主にはひと昔前の、
作業員に見えとるんじゃろ?
わしのこの姿はお主のイメージじゃ。
それがお主が思い描いた、
神の姿ということじゃ」
「あんた神様なのか?!」
「まず、浮いとるじゃろ?」
「まあ、まあな」
「さっきニッカポッカとか言っとたが、
最近はもっとオシャレじゃろ?
お主のようにカジュアルなのが、
今の流行りじゃろうが?」
「これの流行り知ってんの?
でもここ高いから、今日のこれは冬用」
「去年のモデルだな」
「よく知ってんな」
「神じゃからな」
「……わかったよ。
あんたは神様。
で、何で俺に声掛けてきたの?」
「そうじゃそうじゃ。
一作業員のお前に言っても、
仕方ないことじゃが敢えて言おう。
この塔は高すぎ。
ようは、契約違反じゃ」
「契約違反?
そんなのわけないだろ!
こっちはちゃんと、
建築基準に則って、
全ての条件をクリアして着工したんだよ!
役所がGoを出したからやってんの!
違反って何違反だよ!」
「そうじゃな。
あれは紀元前550年…
今からざっと2578年前だな。
人間風情が調子に乗りおって、
神に近づこうとこれと同じように、
高い塔を建てたのじゃ。
知っとるか、バベルの塔?」
「バベルの塔?
ああ~名前だけは。
それが?」
「そこも説明せにゃいかんのか。
ようするにだ。
神の領域まで人間が侵出してきて、
わしらの怒りを買ったという話じゃ!
棲み分けは大事じゃろ?」
「ま、まあな」
「その時、
二度とそんな気を起こさぬように、
人間に罰を与えたんじゃ。
あらゆる人間の言葉を、
メチャクチャにしての。
今では国を渡れば、
言語が違うじゃろ?」
「確かに…え?!
そん時のことで、
言葉が違うようになったの?!
俺、初めて知ったんだけど!
じゃあ、何?!
あんたが一声かければ、
みんな同じ言語になんの?!」
「そういうことじゃ!」
「神、すっげえ~!!
まさに神じゃん!!」
「まあな。
能力のごく一部じゃけどな」
「じゃあ、
俺が英語を喋るようにもできんの?」
「無論、可能じゃ」
「かっけえ~!!
神、マジでかっけえ~!!」
「そんなに褒めんでも…
仕方ないのう…ほれ!」
「おお、何だ何だ!
急に何か頭に入ってきたぞ!
Hey!What't Up?」
「Same as usual!」
「やべえ~!!
マジでやべえ~!!
俺、英語しゃべれんじゃん!!
英語なんて勉強もしたことないのに!」
「これが神の力じゃ」
「あんたマジで神なんだな!
今、ものすげえ感動してる、俺!
ロッテの逆転勝利ぐらい!
野球よく知らないけど!」
「そうかそうか。
それは何よりじゃ…
って、おい!
すっかり乗せられて、
本筋を見失っとったわ!
何て危険な男だ…
まるで大天使様みたいなやつじゃな」
「誰それ?」
「わしの上司みたいなものじゃ」
「あ~現場監督ね」
「お前に言わせればな。
ミカエル様と言って、
日頃はふざけておるのに、
妙に細かいところがあるんじゃ」
「ああ~はいはい!
うちの監督もそんな感じ。
ミカエルって、
大阪の阿倍野のビルと同じ名前だな」
「それはハルカスじゃ!
ミカエルとハルカス、
全然似とらんじゃないか!」
「あれも俺が建てたんだぜ!」
「ほう~それは凄いなあ…
って、おい!
さっきから話が進んどらん!」
「何か話してたっけ?」
「バベルの塔の話じゃ!」
「ああ、思い出した…で?」
「その言葉を乱した時に一緒に、
もうひとつ約束をしたのじゃ」
「どんな?」
「神の領域を侵す意図がない、
建築物は許す。
ただし1000mまで…と」
「じゃあ、これダメじゃん」
「ダメだな。
だからわしが出てきたんじゃ」
「どうすんの?」
「それは知らん。
わしはまた人間が約束を破ったから、
罰を与えるために、ここに来たんじゃ」
「ちょっと待ってよ、神!
それはあんまりじゃん!
俺はあんたを尊敬してるんだぜ!
そんな昔のことみんな忘れてるって。
それに地上1000mが神の領域って、
今聞いた俺しか知らないと思うぜ!」
「それはそっちの問題で、
わしには関係ないことじゃ。
約束を破ったものには天罰。
これは天地がひっくり返ろうと、
曲げられんことじゃ」
「わかったわかった。
じゃあ、ここは俺に任せてくれ!
悪いようにはしないから!」
「ただの作業員が、
この世界的危機を、
どうにかできると言うのか?」
「大丈夫!
さっきの英語のお礼もあるしな!」
「いいだろう。
そこまで言うならやってみるがよい。
ところでお主、名前は?」
「入間って言うんだ。
変わった名前だろ?
でも仲間からはマイケルって呼ばれてる」
「ほんと…変わった男じゃな」
超高層タワー完成。
「ご覧下さい。
地上1000m!
世界一高い建造物、
見晴タワーです!
なんと、スカイツリーの高さを、
366mも大幅更新!
名実ともに歴史に残る名建造物…
すいません。
いま情報が入りました。
西武ミハルタワー株式会社からの
発表によりますと、
見晴タワーの正式な高さは、
999.99mとのことです。
繰り返します。
ただいま、修正が入りました。
見晴タワーの高さは、
999.99mとの発表がありました」
上空。
「あの小僧、やりおる。
世界の命運を背負ってるプレッシャーなど、
微塵も見せず、
飄々と先端1cm削っていきおった。
確か名前は…入間…。
あだ名はマイケルと言ったかのう。
…マイケル?
ん?
マイケル?!
まさか!!
……Michael!!
まさか大天使様?!
そ、そういうことか…。
あの人は本当に…人間に甘い」
高所作業中の男。
「God's Capriciousness!」
このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。
いいなと思ったら応援しよう!
