21世紀の大発明
司会者。
「あ、あ、あ。
え~お時間になりましたので、
始めさせて頂きます。
本日、司会進行を務めさせて頂く、
東京三王大学助教授の飯坂です。
今日は角野教授の
世紀の大発明発表会に
ようこそおいで下さいました。
新聞テレビ等、
報道各社様にはお忙しい中、
お集まり頂きありがとうございます」
「お話中、すいません。
日本新聞の豊田です。
私たちこの発表会の内容、
知らされてないんですけど、
一体、角野教授は、
何を発明されたんですか?」
「そのご質問はごもっともです。
ですが、申し訳ありません。
助手である私も…助手なのに…
助手には知らせるべきなのに…
も関わらず内容は一切、知りません!
私も皆様と同じ立場なんです、
すいません。
え~皆様のハードルをこれ以上あげても、
仕方ないのでさっさと教授…紹介します。
角野教授どうぞ」
歩いてきた男性。
すれ違い様に、
助教授の脇腹を小突く。
「え~東京三王大学教授の角野です。
この度、私事でお集まり頂いたのは、
この世紀の大発明を多くの方に、
広めて頂きたいからです。
内容を事前告知しなかったことで、
訝られた方もおられたようですが、
どうしても皆様の驚く顔が見たくて、
サプライズという形をとらせてもらいました。
お待たせしてもいけませんね。
では、発表します!
以前から世に名は知られていたが、
実現不可能と言われていたあの道具!
竹とんぼ型飛行道具です!!」
「…」 「…」 「…」 「…」
「みなさん!どうですか~!!
……
あれ?みなさん…驚かないの?
ねえ、ちょっと凄くない?これ?
見て!ちゃんと見て!ねえ。
これ頭につけると飛べるんだよ。ほら。
自分が回ったり、
空中で外れたりしないんだよ…
ちょっと~え?!みんな何?
マイクと三脚片付けて~。
帰っちゃうの?
これスクープ!今世紀最大の!
世界初!初だよ。ここが初出し!
おっかしいなあ。どうしたのみんな~」
「角野さん」
「飯坂助教授。
みんな帰り始めちゃってるんだけど」
「角野さん。
あなた、わからないんですか?」
「え?!何が?」
「こんなヤバいもの作って、
誰にも相談なしで発表すれば、
当然こうなりますよ!」
「え~何々、何で怒られてんの?
凄いもの開発して何で、
私が怒られなきゃいけないんですか?
助教授に!!」
「はあ?!あんたね。
あんたの研究の詳細も知らされず、
今まで黙ってあんたの実験、
手伝ってきましたけど、
こんなくだらないもののために、
私は5年も費やしたのかと思うと、
怒りしか湧きませんよ!」
「何で怒りなの?
便利じゃん!これ!
誰でも簡単に……
空を自由に~飛べるんだぜ~♪
は~い♪」
「言いませんよ!
その名前は絶対言いません!
そもそもあなた自分の立場、
わかってないでしょ?」
「東京三王大学教授ですけど」
「あ゛~言い方、ムカつく~!
言っときますけどね、
来年は私も教授になりますから!
あと1ヶ月だけですよ。
そうやって偉そうに出来るのは!」
「僕はあなたを推薦しませ~ん」
「クソッ!チキショウ!」
「自分の立場わかってないね飯坂くん」
「わかってないのはあんたもだ!
みんなが帰った理由、
本当にわからないんですか?」
「わかりましぇん」
「こんな道具、
世の中に出せないって、
報道陣はわかったんですよ。
それだけヤバいものを
あなたは作ってしまった。
これどうするんです?
みんなが頭につけて飛び始めたら?
いいですよ、ご近所なら。
でもこれを頭につけた大量の人間が、
海を渡ってきたらどうします?
渡り鳥のように」
「それは……
想像もしなかった!」
「それですよ、いっつも!
あなたは研究開発に純粋な気持ちで、
取り組んでるんでしょうよ。
でも私からすれば、
純粋というより幼稚なんですよ!
今回のもどうせ、
僕も空を飛びたいなあ~
とかそういうのでしょ?」
「何で分かるの?」
「幼稚だからだよ!
こんなもの国…いや世界にとって、
脅威でしかないんですよ!
そして開発者あなた自身も、
危険に晒されるってことです」
「そんなヤバいことになるの?
……どうする?
どうしよう~!どうしよう~!!」
「うっさいなあ!
もうこうなったら、
この道具はなかったことにしましょう!
報道陣も呆れて帰ってくれたことだし、
世に出さなければいいことです」
「そんなあ~。
せっかく作ったのに~」
記者席の男性が立ち上がる。
「その通りです!!
この大発明を世界に発表しないなんて、
愚かなことです!」
「あなたは…」
「日本新聞の豊田です。
私も子供の頃、
あの青いタヌキはよくテレビで見ました」
「ネコね。猫型ロボットね」
「これは画期的な発明です!
便利だし使い方によっては、
障害者支援や災害救助にも利用できます。
世に出して多くの人に、
知ってもらうべきです!」
「同調するバカが増えたよ」
「話がわかるね~トヨダく~ん」
「あのメガネの子を呼ぶような言い方、
止めて下さい教授」
「こうやって支持してくれる人が、
世の中にはいるんだよ。
だからやっぱりこれを…」
ガシャーーーン!!
「飯坂くん…きみ…」
「すいません教授。
やっぱりこれは危険です。
何より先生の身の安全が第一です。
私はいくら責められても構いません。
でも大事なのは教授の命です!」
「飯坂くん……ありがとう。
僕も目が覚めたよ。
僕は夢ばかり追いかけて、
世の中が見えてなかった。
心配かけて本当に済まなかった」
「教授…」
「豊田さんもありがとう。
これは日の目を見なかったけど、
あなたのおかげで、
また新たな開発意欲が湧いてきたよ」
「教授…
今回の件は残念でした。
でもあなたの発明は素晴らしい!
何より夢がある!
これからも応援させて下さい!」
「そう?
じゃあ…特別に見てく?
風呂場にだけ繋がる不思議な扉」
「そういうところだからな!!」