うつ病と診断された方々が医師に伝えていたこと
こんにちは。
名古屋で社会保障制度の調査代行をしている社会福祉士の稲山です。
好きな言葉は「地味な仕事」です。
プロローグ
社会福祉士が立ち会った「診察」の記録
「うつ病」と診断された方は
①心を病んだ原因について思い当たることがあった。
②原因となったことが消えても症状は消えなかった。
①心を病んだ原因について思い当たることがあった。
うつ病は「発病のきっかけが明らかでないことが多い」「発症の引き金がないことが多い」と言われています。これは、うつ病には原因がない場合もあるし、原因がある場合もある、ということです。私の経験からお伝えできることは、うつ病と診断されたほとんどの方が「心を病んだ原因について思い当たることがある」と医師に伝えていました。
②原因となったことが消えても症状は消えなかった。
ゴムボールで例えてみます。ゴムボールを握ると形が変わり、手を離すとゴムボールは元に戻ります。ゴムボールがあなたで、握る力がストレスだとすると、ストレスが加わって形が歪んでいる状態が「適応障害」です。適応障害であれば、手を離せばゴムボールが元の形に戻るように、ストレスが消えることで健康な状態に戻ります。うつ病の場合は、手を離したとしてもゴムボールは元の丸い形にならずに歪んだまま、ストレスがなくなったとしても健康な状態には戻らないということです。
AさんとBさんのケース
Aさんのケース
Aさんは会社でのストレスを抱えていて、不眠や焦燥感などの症状がありました。診療内科を受診すると「適応障害」と診断されました。そのことが原因で退職しましたが、退職後も不眠や焦燥感などの症状はなくならず、診断名は適応障害から「うつ病」に変わりました。現在は、うつ病の治療を続けながら就職活動をしています。
Bさんのケース
BさんのケースもAさんのケースとほぼ同じです。しかし、大きく違う所が一つありました。それは、在職中に「うつ病」と診断されたことです。
AさんとBさんは利用できる社会保障制度に大きな差があります。
・失業保険の所定給付日数
・給付を受けた場合の再就職手当
・国民健康保険の減免制度etc
詳細は割愛しますがBさんの方が保障が手厚いです。症状はほぼ同じでも診断名が違うことで、今後の自立に向けた保障内容がまったく違ってきます。
「保障の差」が生まれた理由
なぜ、Bさんは在職中に「うつ病」と診断されたのでしょう。
前述した、「うつ病」と診断された方は
①心を病んだ原因について思い当たることがあった。
②原因となったことが消えても症状は消えなかった。
で言えば、AさんもBさんも①心を病んだ原因について思い当たることがあった、に当てはまります。
②原因となったことが消えても症状は消えなかった、については、Aさんは退職をすることで原因となっていた会社でのストレスから解放されましたが、症状は消えなかったので適応障害からうつ病に診断名が変わりました。これも納得できます。
ではBさんは退職をしていないにもかかわらず、なぜうつ病と診断されたのでしょうか。
それはBさんが退職する前に、会社内でストレス対策を行っていたからです。
会社でのストレス(業務量が多い、特定の人との人間関係に悩んでいるなど)について上司に相談し、会社が対策をとってくれたおかげでストレスは軽減しましたが、不眠や焦燥感などの症状は消えませんでした。こうしたエピソードは、②原因となったことが消えても症状は消えなかった、に当てはまります。
「原因となったことが消えても」とは、Aさんの場合は「退職」でした、Bさんの場合は「在職中に会社が行ってくれたストレス対策」でした。
もしかしたら、Aさんも在職中になんらかのストレス対策をとっていたのかもしれません。そのことを医師に伝えていたら診断名が変わっていたのかもしれません。
もしBさんが自己判断で会社が行ってくれたストレス対策について、医師に話をしていなかったら診断名が変わっていたのかもしれません。
さいごにもう一度
心を病んだ時は、正しい診断と治療と保障を受けることが大切です。その前提となるのは、病気について正確に医師に伝えるということです。
「うつ病」と診断された方は
①心を病んだ原因について思い当たることがあった。
②原因となったことが消えても症状は消えなかった。
心を病んだ原因について思い当たることがあったり、その原因が消えても症状が消えない場合は、そのことを医師に伝えてください。そうしたことがなければ伝える必要はありません。
これから病気と付き合い、どのようにして回復、自立を目指していくかを考えていきましょう。誰にとっても険しい道のりで、最大限の支援が必要になると思われます。情報不足によって間違った診断、治療、そして社会保障制度の利用に制限がかかってしまうことは、とても残念なことだと考えています。