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「夫婦は共に成長するからこそ面白い」31年間、幸せを体現する夫妻が大切にしていること
いつもお読みいただきありがとうございます。フタリノ編集部です。
「ふたりのA面B面」第9回は、ご夫婦で「幸福学」の研究者として活躍されている前野ご夫妻にお話を伺ってきました。( ▶︎ A面・マドカさんの記事はこちら)
「ふたりのA面B面」とは?
それぞれの視点から「ふたりの転機」について深掘りをするインタビュー企画。人生の重要な局面での喜びや葛藤、決断の背景にはどんな想いがあったのか、それぞれの視点から紐解いていきます。
B面では、夫の隆司さんにインタビュー。隆司さんは、幸福学の第一人者であり、妻のマドカさんを専業主婦から研究者の道へ導いた人でもあります。
マドカさんがキャリアを再スタートさせ、自分らしい人生を歩むようになるまで、隆司さんは何を思い、どのように支えたのでしょうか。
当時の思いや、マドカさんの仕事復帰後の夫婦の変化、ふたりで大切にしている価値観について伺いました。
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「妻を育てる」というひそかな思いを抱いていた
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ーーーマドカさんはふたりのお子さんが中学生になるまで専業主婦をされていたそうですね。隆司さんには、その姿はどのように映っていたのでしょうか?
ずっと幸せそうに見えていましたよ。マドカ本人が「子育てにしっかり時間をかけたい」と言って専業主婦になることを選びましたし、当時はまだ「男性が働き、女性が家庭に専念する」という考えが強い時代でしたからね。僕たちも、夫婦で仲良く役割を分担していました。
ただ、マドカはキャリアについてはずっと考えていたみたいです。専業主婦を楽しんではいましたが、社会参加していないことに少し悩んだり、「また働きたい」と言って、大学院進学や就職のための資格取得など、いろんな可能性を考えたりしていました。当時は「専業主婦になったら再就職できない」と言われていた時代で、考えても答えがなかなか出なかったのですが、よくふたりでマドカの将来のキャリアについて一緒に考えていましたね。
ーーーそんな中、お子さんが小学生の時にマドカさんはPTA会長を務めらたそうですね。後押ししたのは隆司さんだったと伺いました。
ちょうどその頃、マドカも「社会参加がしたい」と言っていましたから、それが叶えられると思ったんです。そして何より、成長できる絶好の機会だと思いました。
実は当時、ひそかに僕の中で「マドカを育てる」という任務のようなものがあって(笑) マドカは家族や身近な人を大切にするすごく優しい人なんですけど、当時はまだその愛が「世界の幸せを目指す」という社会に向く志にはなっていなかったと思うんですよ。世界の幸せに貢献する研究をしている僕には、それがとてももったいないことに思えたんですよね。
そんなマドカにとって、PTAはピュアな成長ができる最高の場だと思ったんです。会社で働いていると、お金のために働くような考えにもなると思いますが、PTAはノーギャラです。活動のすべてが社会や子どもたちのためになるんです。僕は教育者として、「社会貢献は利他の心を育て、幸福度を上げる」というメカニズムを知っていたので、「当然やった方がいいよ!」とマドカに伝えたわけです。
ーーー家事や育児に加えPTAの活動をされていたマドカさんと、研究者の隆司さん。どちらもご多忙だったと思います。すれ違いや不満が溜まるということはなかったのですか?
それがなかったんですよね。というのも、僕たち夫婦は話し合いが多い夫婦だったからだと思います。僕が仕事から帰ってくるのが深夜0時とかでも、それから2時間ほど子育ての話や、PTAの話、マドカのキャリアの話、僕の仕事の悩みを話していました。「またサンフランシスコに住みたいね」みたいな夢の話までしていましたね。
もちろん眠たいんですけど、それよりもマドカの話が面白くて。僕はその楽しさや癒しを求めていたから、夜更かししてまで、つい話を聞き続けてしまったのかもしれません。
僕は研究を一日頑張ってきて、マドカは一日子育てやPTAを頑張って、それを報告し合う。そして、「今日も頑張ったね、すごいじゃん」とお互いにエンカレッジする。そうすることでふたりとも、明日もまた頑張ろうと思えていたんだと思います。まさにチームのようでした。
週に一度しか会えない研究者夫婦。「大変」ではなく「面白い」と感じる理由
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ーーーお子さんが中学生になると、マドカさんは隆司さんと同じく研究者の道に進まれたそうですね。きっかけは隆司さんからのお誘いだと伺いましたが、何か理由があったのですか?
ふたりの子どもが小学校を卒業し、マドカが就職活動を本気で考え出した頃、僕の研究室の人手が足りず困っていまして。ちょうどその頃、マドカに「隆司さんはそんな面白そうな研究をしていていいなあ」と言われ、それなら彼女に頼めばいいんだと気づいたんです。ずっとマドカのキャリアについてふたりで考えてきましたが、意外と答えは身近なところにあったんですよね。
研究内容は、関わる人の良さを見つけることで自己実現を促進していたコミュニティの人々にインタビューを行い、結果をまとめるというものでした。マドカも「やりたいことを見つけて自己実現をする」というフェーズにいたので、自身の学びにもなるだろうなと思ったんです。
マドカが研究をしてくれたら、人手不足も解消できるし、マドカの悩みも解決できる。成長もできるし、世の中も良くなっていく。しかも夫婦で幸せの研究をしていると聞くと、みなさんに興味を持っていただけそうじゃないですか(笑) 一石二鳥どころか、一石五鳥くらいですよね。そうやって、いろんなものがうまく重なり、マドカは研究者の道に進むことになったんです。
ーーー夫婦で研究者...たしかに面白いですよね。でも、ふたりともさらに忙しくなり、家庭と仕事のバランスを取るのが大変だったんじゃないですか?
最初は、マドカの仕事量はそこまで多くなかったので、研究をしながら子どものお弁当を作ったり、中学校や高校の送り迎えをしてもらったりしていました。
大変になったのは、最近になってからですね。10年ほどで、マドカは他の研究もするようになり、本も出版し、講演やコンサルもするようになり、今では会社のCEOにまでなりましたから。夫婦そろって予定がいっぱいで、顔を合わせるのが週に1回なんてことはざらにあります。ついに家事をやる人もいなくなって、家事代行を頼んだり、料理をしてくれる人を頼んだりと、新しいやり方を考えるフェーズになってきました。
でも大変というより、慣れていないことをやるから面白いという表現の方が正確ですね。
ーーーどうしてそんなに前向きでいられるのでしょうか。
ひとつは、マドカがものすごくポジティブだからです。マドカは、脳のネガティブな思考をする部分が欠けているんじゃないかと思うくらい本当に前向きなんですよ(笑)
たとえば、僕がイライラして「なんでこれやってくれなかったんだよ」と怒ったとしても、マドカは「あらそうね。ごめんなさい」とニコニコしてるんですよ。「そんなにイライラしなくてもいいんじゃない」と笑顔で返されると、僕はなんて人間が小さいんだろうって気づかされますし、こっちまで心が穏やかになるんです。
前向きでいられるもうひとつの理由は、自分の仕事に自信を持っているからです。僕は、幸せの研究のほかに、講演や会社の支援などもしていますが、どの活動も「必ず世界の人々を幸せにする」と信じているんです。
世の中の人が幸せになることを目指していると、多少大変なことがあってもめげてる場合じゃない、と元気が出るんです。そういう利他的な活動をすることが、人間の元気の源なんじゃないですかね。
育てられていたのは僕の方だった
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ーーーマドカさんが社会参加をどんどんされるようになって、マドカさんにどのような変化や成長が見られましたか?
マドカはもともと、「身近な人を幸せにする」という才能があったのですが、それをより一層開花させ、「社会や世界の人を幸せにすること」を本気で目指すようになったと思います。最初はひとつの研究をするので精一杯だったのが、今では「誰もが幸せに生きる社会を創りたい」と会社まで経営するようになりましたから。僕は、マドカの視野が徐々に広がっていく様子を見るのが楽しみでした。
また、これまで以上に自信に溢れているのも伝わってきますね。マドカの講演は、自信や愛に溢れていてすごく感動的なんです。いつも講演後には、お客さんから拍手喝采を浴びて、感謝の言葉をもらっているようです。
僕の講演はエビデンスベースで頭で理解してもらうものなので、どうすればマドカみたいに人を感動させられるのか研究しています(笑) それでも真似できないくらい、すごいんですよね。
ーーーマドカさんの影響で隆司さんが変わったことはありますか?
僕は、小学生の頃から「世界が平和になったらいいな」と妄想をする癖があり、社会人になってからも世界の幸せを本気で目指して仕事をしてきました。でも、仕事ばかりをしていて、妻や家族を幸せにするという行動は、具体的にはとれていなかったんですね。その足りていなかった部分をマドカに育ててもらったと思います。
妻は、家族といる瞬間を心から楽しんだり、家族を大切に思う気持ちを「大好きだよ」と言葉にして伝える人なんですね。僕は大切に思っていても恥ずかしいから口にしていなかったんですけど、妻のおかげで「気持ちを表現する」ということができるようになりました。
そういう愛情表現や優しさ、温かさ、相手を信じる心は、妻のおかげで育ったと思います。マドカを育てているつもりでしたけど、育てられていたのは僕の方だったかもしれませんね(笑)
ーーー素敵ですね。ちなみに、「相手を信じる心」が育てられたというのは、どういうことでしょうか?
マドカは、僕のことを100%信じてくれているんですよ。どんなときもその姿勢を貫いてくれるから、マドカに信じてもらえる人間になろうと思うし、僕もマドカを信じようと思うようになったんです。
ある日、妻とちょっとした口喧嘩になった時に、僕がマドカに「そんなことを言うなんて、もうマドカを信じられなくなったよ」と言ってしまったことがあったんです。そしたら妻は、「あなたがそんな風に暴言を吐いたとしても、私はその言葉じゃなくて、あなた自身を信じてるから、そんなことではブレない」って言ってくれて。
その言葉を聞いて、なんて愛のある人なんだと感動してしまいました。だって、言葉じゃなくて、存在を信じてくれているんですよ。いざという時の人間の大きさは、愛なんだと気づかされました。
結婚して31年目になりますけど、信じることの大切さを何度も教えてくれた妻のことを、僕は本当に尊敬しています。今の自分があるのも妻のおかげです。いや〜、妻と出会えて本当によかったですよ。
夫婦は、ふたりで成長するからこそ面白い
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ーーー夫婦それぞれが良い影響を与えあってきたのですね。
そうですね。ふたりが成長することで、マドカの強みである「身近な人を幸せにすること」と、僕のビジョンである「世界を幸せにすること」が、互いに補い合って、共に育ったと自負しています。
それも、僕たちふたりのタイプが違ったからでしょうね。タイプが違うからうまくいく夫婦と、すれちがう夫婦がいると思いますが、実はその差は紙一重なんです。
僕たちは、違いを尊重し合えていたから、良い補い合いができて、お互いがうまく育ったんだと思います。
ーーーお話を聞いていると、おふたりは「成長」をとても大切にされていることが伝わってきました。
夫婦というのは、ふたりで成長するからこそ、どんどん変化してずっと面白くいられると思うんですよね。片方だけが成長するだけでは、どちらかが物足りなさを感じたり、価値観に違いが出てきたりしてしまう。妻も新婚の頃以来、「結婚生活で大事にしたいことは、尊敬と成長とユーモア」と言っています。
僕たち夫婦が「成長」を大事にするのは、きっと出会いがアメリカだったからだと思います。僕たちは、若い頃、留学をしていた時に出会った仲間なんですが、ふたりとも「ありのままに、自分を磨いて成長していく」というアメリカの良さを身に染みて感じていた時だったんですよ。もちろん、アメリカの良いところだけでなく、尊重や信頼という日本の強みも同時に実感していました。
「自分らしさ」や「成長」といったアメリカの良さと、「尊重」「信頼」という日本の良さを強く自覚した時に僕らは出会い、その共通する価値観をきっかけにお付き合いすることになったんです。結婚して31年目の今も、それが夫婦のコアであり、僕たちの生き方であることに変わりありません。
日々、ふたりで一日の出来事を報告し合って、お互いの成長を感じられると、それだけで幸せだなと思います。
ーーー「成長」が夫婦のコアな価値観のひとつだったのですね。今年で結婚31周年を迎えられたとのことですが、長年人生を共にされてきた今、隆司さんにとってマドカさんはどんな存在なのでしょうか?
結婚当初から、マドカのことは最高に好きだし、一緒にいられて幸せだと思ってきましたけど、やっぱり質が充実してきたなと思います。
若い頃は、顔が好きだとか、この優しさが好きだとか、「部分的」な愛情だったんですよね。それが、子育てや研究を一緒に乗り越えてきたことで、パートナーや家族、同僚という範疇を超えた「複合的」な存在になり、より深い愛情になったと感じます。
同時に、マドカは僕の一番身近な「世界」だと思っていて。僕のビジョンは、世界の人々を幸せにすることですが、妻を幸せにできない人は世界を幸せにできません。だけど、マドカへの愛情と同じくらいの愛を世界中の人々に向けられたら、必ずおだやかで安心できる世界になると思うんです。
僕のやりたいことは、自分やマドカ、世界との境界線をつくらずに、みんなを愛し、幸せな社会をつくること。マドカを愛するように、世界の人類を愛しているし、これからも愛し続けていきたいです。
ーーー隆司さん、ありがとうございました!
夫と妻、父と母でありながらも、それぞれに自分の人生を幸せに生きる前野ご夫妻。
家庭に専念していたマドカさんが研究者の道に一歩踏み出す選択ができたり、はたから見ると夫婦共に多忙な状態であっても前向きでいられたりするのは、ふたりの中に「成長を大切にする」という共通意識があったから。
「夫婦は、ふたりで成長するからこそ変化があって面白い」
その言葉通り、隆司さんのお話からは、ふたりがお互いの違いや強みを尊重し成長することで、それぞれの人生の可能性を広げ合っている様子が伺えました。
前野ご夫妻が、結婚31年経った今も深い信頼と愛情で結ばれているのは、共に成長することを止めず、常に人生の面白さを更新してきたからなのでしょう。
おふたりのように「成長」を夫婦のキーワードにしてみると、しだいに夫婦の見る景色は広がっていき、それぞれの「自分らしい人生」が見えてくるかもしれません。
▼A面・マドカさんのインタビューはこちら
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