ふたりのヒーローがともに戦うまで ~スパイダーマン編~
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ふうふやカップルの本音をシェアするコミュニティ「フタリノ」です。
「ふたりのA面B面」第8回は、元消防士と元警察官の同性カップル、KANE&KOTFEさん。LGBTQ+をはじめとした、さまざまな人権問題解決のために、Youtube「カネコフェ (KANE and KOTFE)」での発信や企業・学校での講演、メディア出演など、精力的に活動をするおふたりです。
A面の「スーパーマン編」に続き、B面では、スパイダーマンと例えられていたKANEさんへインタビュー。正義感の背景にあるもの、ふたりで戦い始めてからの変化、戦い続けられる理由について語っていただきました。
ぜひ最後までご覧ください。
KOTFEは、僕を肯定し続けてくれる優しい人
ーーーおふたりの馴れ初めについて教えてください。KANEさんもKOTFEさん同様、会って間もなくして相手のことを好きになったのですか?
それが当時の僕は、KOTFEを好きになるのは不幸な道だと思っていたんですよ。
僕は19歳くらいの時に同性に惹かれることに気づいたのですが、自分を同性愛者だと受け入れられたわけじゃなかったんですよね。KOTFEを失うのが怖くて同棲を始めたものの、本当に好きになっていい、一緒にいてもいいと心から思えるようになるまで時間がかかりました。
それでもKOTFEは、優しく愛を与え続けてくれて。一緒に住み始めて1~2年くらいかけて、少しずつKOTFEの愛に応えられるようになりました。
ーーーKOTFEさんはKANEさんから見るとどんな方ですか?
正義感が強い人です。
今の活動も、いつもKOTFEがやろうと言ってきてくれますし、僕が目をつむるようなことも彼は進んで関わっていくんです。たまに体が壊れないか心配になりますが、本人のやりたいことなので尊重するようにしています。
あと、とにかく優しいですね。そもそも、僕が自分のことを認められるようになったのも、出会ってから今までの13年間、KOTFEが僕のことを肯定し続けてくれているからです。
僕は自分のことを、対人関係が苦手な人間だと思ってきたのですが、それも素晴らしいことだと言い続けてくれるんですよ。人に合わせないことや人前で怒ったり泣いたりすること、思っていることをぐちゃぐちゃなまま喋ることも、全部素晴らしい!って。
そうやって、優しく受け入れてくれるところが彼の好きなところです。
劣等感を抱き続けた幼少期。だから人の役に立ちたかった
ーーーKOTFEさんはKANEさんのことをスパイダーマンと例えていましたが、幼少期からヒーローの気質はあったのでしょうか?
僕にヒーローらしさがあるかはわかりませんけど...(笑)子どもの頃から悲しんでいる子に強く共感したり、役に立ちたいと思ったりすることはよくありました。
子どもの頃、家が貧乏ですごく劣等感を持っていたんですよね。同級生の話題についていけなかったし、大人しい性格ということもあってワイワイするようなタイプじゃありませんでした。
きっと、自分も救ってほしいと思っていたから、クラスで輪に入れていない子に共感していたんでしょうね。実際、そういう子たちに「他の子とは違って安心感があった」と言われたこともあります。
ーーー消防士になろうと思ったのは、そのように人の役に立ちたいという思いがあったからですか?
そうですね。中学生の頃から、人の役に立ちたいと過剰に思っていました。当時の僕が見ていた世界で、身近で想像しやすいヒーローが消防士だったんですよね。
純粋に人を救いたいという気持ちもありましたけど、人を救うことで劣等感を持つ自分に自信をつけられるとも思っていました。きっと、人の役に立つことで自分の存在価値を見出していたところがあったんでしょうね。
このままじゃ心がなくなってしまう…。消防士を辞め、新しい世界へ
ーーーその後、消防士の仕事は11年間続けられたそうですね。長い期間働いた末に辞めようと思ったのはなぜですか?
消防士として拝命されてちょうど10年目の年に、たまたまプライベートで心理学の講座を受け始めたのがきっかけです。もともと、消防士を辞めるつもりはなかったのですが、自分の心に問いかける作業を繰り返すうちに、新しいことにチャレンジしたいと思うようになったんです。
消防士の仕事は、すべて法令にもとづいているので、個人に決定権がありません。それに階級社会であり、95%以上は男性という同質性の高い組織でもあります。上の言うことが絶対で、業務に疑問を持っていても心を無にしてやらないといけないことがよくあったんですよね。
当時はそれが当たり前で、それが組織力に繋がっているとさえ思っていました。でも、心理学を勉強してみて、自分で考える力や心がどんどんなくなってしまっていると気づいたんです。それに、ひとつの組織でずっと決められたことをしていると、視野が狭くなっていくのではないかと危機感を持つようにもなりました。
これからは新しい世界を見ようと思い、2021年の3月、11年間続けた消防士を辞めることにしました。
ーーー同じ時期に、KOTFEさんは適応障害で警察官の仕事を休職されていたそうですね。その時KANEさんはどんな気持ちでしたか?
頑張り屋のKOTFEが40歳を前にやっと休んでくれたので、素直に嬉しかったです。
KOTFEは本当に休むことを知らない人なんですよ。子どもの頃から家族のために柔道を頑張り続けてきたし、心身の不調で体重が10キロ落ちても、倒れるまで出勤し続けていました。
また元気になったら何でもやっていける人だと信じていたし、どんな選択をしてもKOTFEなら大丈夫だと思っていたので、先のことは何も心配していませんでした。とにかく、ゆっくり休んでほしいと思っていましたね。
偏見を持つ側だった人間が、人のために声を上げるヒーローになるまで
ーーーそのままKOTFEさんも警察を辞め、ふたりで新しい人生を歩み始めたわけですね。そのひとつにYoutubeがありますが、始めた頃はどんな気持ちだったのでしょうか?
始めた理由はいっぱいあるんですが、そのひとつに家族の記録を残したいというのがありました。
日本ではまだ同性カップルは結婚できず、法律上家族として認められていません。だから、パートナーにもしものことがあったとしても、家族扱いされず、そばで見守ることもできないかもしれないんです。
そういうときに、家族と証明できる動画が残っていれば、僕たちを守ってくれるかもしれない。そう思って、Youtubeを始めました。
でもその頃は、社会を変えたいという気持ちはなくて。どちらかというと偏見を持つ側の人間だったんです。
ーーーKANEさんが偏見を持つ側の人間...!?
たとえば、同性のパートナーがいる当事者でありながらも、LGBTQ+という言葉自体にいい印象を持っていませんでした。
シスジェンダー(※1)の異性愛者が当たり前。トランスジェンダー(※2)や同性愛者は特殊な人たち。同性同士が結婚できないのも当然で、いわゆる「同性婚訴訟」のニュースを見ても他人事だと思っていたんです。今考えると本当に怖いことですけど、そのくらい頭が固かったんですよね。
そういう考え方になっていたのは、生まれ育った時代や前職の職場の環境もあると思います。でも一番は、自分のことを受け入れられていなかったからだと思いますね。
ーーー今は社会を変えるために精力的に活動をされていますよね。前は偏見を持っていたのに、そこからどうやって変わっていったのでしょう?
変わったきっかけはいっぱいあります。企業研修や講演会でKOTFEや他のLGBTQ+の当事者の話を聞いたこと、自分もそういう場で喋るようになったこと、全国各地のプライドイベントに行ってみたこと、怖いという印象を持っていたデモ(※3)に実際に行って登壇したこと...。
KOTFEについていくような形でいろんな活動に参加するたびに、「今まで自分がやってきたことは差別に加担するのと同じことだったんだ」、「自分も差別されているひとりだったんだ」と気づきました。僕たちが目を背けてきた結果が今の日本社会だということに、ようやく気づいたんですよね。
そうやって、活動を始めてから2年ほどかけて、自分がLGBTQ+当事者であるということや、日本が抱えるLGBTQ+の社会問題に向き合っていきました。
ーーー経験を重ねるたびに、考え方が変わってきたのですね。今はどんなことを思って活動をされているのですか?
「自分がまた同性愛者として生まれたい」と思える社会になってほしいと思っています。
今、僕はKOTFEと一緒にいれて幸せだし、男女格差のある今の社会に、男性として、さらに健康な体で生まれて、とっても恵まれていると思うんです。時代も少しずつ変わってきて、同性カップルが身近にいることも認知されつつありますしね。
ただ、自分の生きてきた時代や、本来受けなくてもいい不利益や差別、偏見を考えると「もう一度同性愛者で生まれたい」とは思えないんですよね。
いまだに日本では同性婚が認められていないし、実際、同性愛者やトランスジェンダーは差別や不利益を受けています。企業研修や講演会で話を聞いてくださった当事者からは「職場(学校)がしんどい」「差別的な発言があるから誰にも言えない」「親から否定的な言葉を言われた」などのメッセージをいただくこともあります。それが現状なんですよね。
それは、LGBTQ+当事者だけではなく、他の社会的マイノリティにも当てはまることだと思います。もちろん人によると思いますが、みんながみんな、同じ体や人種、性別でまた生まれてきたいと言えないと思うんですよね。
本来なら、どんな自分で生まれてきても、「私はこの人生でよかった」と思える社会であるべきなんです。そんな社会が実現するのは、僕が生きている間だけでは難しいかもしれません。でも、先人の方々がやってきてくれたように自分も声を上げ続けて、後世に繋いでいけたらなと思っています。
社会を相手に、戦い続けられる理由
ーーーKOTFEさんは、デモをきっかけにふたりが同じ方向を向くようになったとおっしゃっていました。KANEさんもそう思われますか?
もちろんデモで登壇したことは大きなきっかけですが、講演会や取材、プライドイベント、そのひとつひとつを経験するたびに、KOTFEと同じ方向を向けるようになってきていると思います。
こういう活動をいつもやろうと言ってくれるのはKOTFEで。僕はおじけづいたり、「なんで当事者が頑張らなあかんねん...」と苦しんじゃうんですよね。
でも最終的に自分で行くと決めてやってみたら、気持ちが軽くなったり、またひとつ学べたりするんです。終わった後はいつもふたりで「やってよかったね」と話し合って、また前を向くというか。そうやって、毎日更新していっている感じですね。
ーーーひとつひとつの経験がふたりの絆を強くしているのですね。ちなみに、KANEさんは挫けそうになったとき、どうやって立ち上がっているんですか?
今までの経験から学んだことや、活動を通して出会った方々の言葉を思い出します。
活動を始めた頃、何も変わらない社会に打ちのめされたり、声を上げる意味がわからなくなったりすることがあったんですよね。そんな時、僕たちより長く活動をされている方々の姿や言葉から、たくさんのことを学びました。
今、僕たちが「同性カップル」として表に出て話ができているのも、何十年も前から先人が戦ってきてくれたからなんですよね。もちろん、今すぐ変わってほしい現状や課題はたくさんあるけれど、長い歴史の中で僕の生きているこの数十年間だけでも、できることをすればいいと俯瞰できるようになりました。
とはいえ、今でも新しいことに挑戦する時は、たまにおじけづいてしまうんですけどね。そういうときは、視野が狭くなってしまっているときなので、「俯瞰しなきゃ!」と今までの学びを思い出して、自分を奮い立たせています。
ーーーKOTFEさんも、「KANEは絶対に自分で立ち上がってくる人」とおっしゃっていました!
でも、今の自分がいるのは全部KOTFEのおかげですよ。ひとりだともっと落ち込んだり、逃げ出したりしていたと思います。
それに、僕はKOTFEほど強い使命感を持っているわけじゃないし、正直逃げ出したくなるときもあるんです。
KOTFEみたいに大きい武器を持ってはいないけど、その隣で子どもが持っているような小さい刀をバンバン振り回しながら、自分なりに戦っているっていう感じですかね。
10年後、ふたりで見る景色を楽しみに
ーーーKOTFEさんの存在が本当に大きいことが伝わってきました。そんなKOTFEさんに何か伝えたいことはありますか?
本当に感謝しかないですね。出会ってくれたのも、救ってくれたのも、正義感を持って活動を引っ張ってくれているのも、隣にいてくれることも、言い出したらキリがないくらいです。
KOTFEが隣にいてくれたから、ふたりで成長もできたし、いろんな景色を見れたんだと思います。僕の人生に笑顔が増えたし、今、正直すごく幸せです。
だから本当、楽しみなんですよね。5年後、10年後、ふたりでどんな景色を見てるんやろうっていうのが。
ーーー私も話を聞いていて楽しみになりました!ぜひ10年後の理想を教えてください。
僕はこの2年間で、戦うことは苦しいことじゃなくて、自分の人生を豊かにするものだと教えてもらいました。なので、形は変わっていると思いますが、同じように声を上げ続けていたいですね。もちろん、LGBTQ以外の社会問題に対しても、すべては無理かもしれないけど、声を上げていきたいです。
当事者が自分の権利を主張するのってしんどいし、まわりが一緒になって怒ってくれるのって本当に心強いことなんですよね。
それに、ひとつの社会問題や人権問題が前に進めば、他の問題も前に進むキッカケになります。誰かにとっての生きやすさは、自分にとっての生きやすさにもつながる。結局全部つながっているんです。
ひとつひとつの経験が社会を変えていく要素になっていくと信じて、どんな形であれ戦い続けていきたいです。
でもやっぱり一番は、KOTFEと一緒に、健康で穏やかに過ごすことかな。そうやってずっと「幸せやな、楽しいな」って言葉を交わせるふたりでいたいです。
ーーーKANEさん、ありがとうございました!
KOTFEさんと出会う前は、自分のことを認められず、社会の問題からも目を背けていたKANEさん。
だけどKOTFEさんと出会うことで、少しずつ自分を受け入れられるようになり、今は他の誰かを守るヒーローになっている。
そんなKANEさんのお話を聞き、こんなにも人は変わることができるんだと驚きました。
それはきっと、隣にいてくれたのが他の誰でもないKOTFEさんで、KANEさんに無限の愛情を注ぎ続けていたから。そしてKANEさん自身に、前に進もうとする意志があったからだと感じました。
ありのままの姿を愛し続けることで、人は変わる。
そして、誰と一緒に生きていくかで人生は変えられるのだと、力強く教えられた気がします。
別々にお話を伺ったのに、目指していることを聞くと、ほとんど同じことを答えてくれたKANEさんとKOTFEさんカップル。ともに愛し合い、信じ合い、同じ方向を見て歩くふたりを見て、私自身、勇気づけられ、幸せな気持ちになれた取材でした。
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