037話:本藍染黒桟革の開発
JapanLeatherAward 2013 グランプリに挑戦すべく、黒桟革の漆の特性を最大限に活かしたブーツを作りたい、そのために新しい黒桟革を坂本商店さんと一緒に開発させて頂いたお話です。
そこで着想したブーツには、どうしても新しい黒桟革が不可欠でした。ブーツのお話はそのうち、書きたいと思いますが、今回は革のこと。
それは…本藍染黒桟革。日本伝統の染織技法、藍染で独自の青みを持つ革。
「黒桟革なのに黒くないじゃん!」というツッコミも聞こえてきそうですが、坂本商店さんが鞣して本漆で独自の加工を施した革を、そう呼びます。
藍染とは:
藍染め(あいぞめ)とは、藍を染料として用いた染め技法。藍染めのための染料はタデ藍を発酵させて作る。藍玉を用いることが多い。藍染めは名前のとおり藍色の染色を行うことができ(中略)日本において江戸時代には多くの藍染めが行われた。かつては阿波藩における生産が盛んであり、現在でも徳島県の藍染めは全国的に有名
(wikipediaより)
本藍染は合成染料にはない、独特な深い青さと色落ちの仕方が特徴です。
開発のはじまり:
率直に坂本商店さんにお願いしました。こんな感じで。今思うと結構無茶ぶりが過ぎましたね……
レザーアワード2013への出品作品として、
本藍染めの黒桟革(型押し)の開発をしたいと思い、ご協力をお願いする次第です。(本藍、漆革、ともに興味を集めており、国内に留まらず国際的にも大変興味深い試みと思います。)
もちろん、その際に次のことを予めお伝えしました。
・開発費用は全額ZinRyuが負担する
・本藍染の工程もZinRyu側で行う
・坂本商店さんは通常通りの黒桟革を作る工程を担当して頂きたい
・どんな結果になっても受け入れます
結果、ありがたいことに、開発に賛同していただけることに。ただ、坂本さんは幾つか懸念をお持ちでした。
そのうちの一つが、藍染は染め溶液が強いアルカリ性であり、たんぱく質・革の組織を溶かして破壊してしまうため、革としての風合いを保つのが難しいのではないかと。でも、決行しました!
何で本藍染革ができると思ったのか?
こちらの画像をご覧ください。(出典元)
本当に溶かしてしまい破壊してしまうのであれば、長年染めをやっている藍染職人さんの手はボロボロのはず。
でも、実際にはそうなっていない。
革へのアルカリの影響は存在しても、限定的ではないのか?と仮説を持ったことによります。もし、そんな危険な性質をもつものであれば、東急ハンズで藍染セットなんて売っていないですし。
開発のステップ:
1:坂本さんが、和牛の皮を鞣して革にする
2:ZinRyuが日本産の蓼藍を用い、天然藍灰汁醗酵建にて本藍染
(こちらにお願いしました。)
3:坂本さんが黒桟革として、後工程を実施
私としては、坂本さんが、いつもどおりの工程でやっていただければ良いと思っていましたが、タンナーとして様々な工夫をして対応して頂きました。
できあがった黒桟革本藍染:
良質な和牛の元皮、鞣しの技術、黒桟革としての漆の加工、そしてそれらを高度に調理する坂本さんの知識と経験。どれが欠けても実現はできなかったはずです。本当によく、こんな無茶に真摯に向き合っていただけたものです。
最後に:
誤解のないように明記しておきます。ZinRyuの役割は2点だけ…
・本藍染した革に漆を施した黒桟革がほしいと思った
・実際に本藍染を手配して、加工後の革を坂本商店さんに送った
実際に形にしたのは坂本商店さんです。そのなかには様々な試行錯誤があり、リスクを乗り越えるための取り組みがあったのだと思います。
今では、坂本商店さん独自の藍染方式を編み出されており、素敵な革が日々生み出されています。