088話:オーダー靴の価格について
1足30万円は高いのだろうか?
世の中には5千円で購入できる革靴があることも考えれば高嶺の花なのかもしれません。ここでは、個人が高く感じるかどうか?ではなく、職人が生きていけるか?を考えた観点で考えてみたいと思います。
・靴1足あたりの材料費や工賃はいくらなのか?
・工房を運営するにあたり経費は?
・1月あたり、職人にはいくらお金が残るのか?
ZinRyuは職人として生活しているわけではありませんので、内容は一部想像を含み大雑把で粗いものになっていますので、諸事情の違いについてはご容赦ください。
記事の構成:
1:靴の費用構成について
2:工賃
3:経費
4:1足あたり費用のまとめ
5:職人の収入
6:まとめ
1:靴の費用構成について
靴を1足つくるのに必要な費用の構成は主に以下3点。
・材料費
・工賃
・諸経費
あたりまえですが、物を作るには材料費だけではなく工賃(作業時間)が発生します。たまに材料費だけを切り取って、「元は〇〇円なのに高い!」と言われる方もいますが、個人的には勤め人が1ヶ月160時間以上働いて給料をもらっているのと同様に靴を作る人もお金を頂くのは当然のことです。
それぞれの要素を見て行きましょう
2:材料費
大雑把に5つを考えます。材料として、どのグレードを使うかにもよりますが、かなり良い仕様の場合を想定します。
1)アッパーの表革
一般的な舶来物のボックスカーフの場合、200DSの一枚革から4−5足取れます。なおDSというのは10cm x10cmで、革の一般的な大きさを表す単位です。
1足あたり使用する革の面積は20DSなので、数値上はもっと取れますが、傷や繊維の状態から使えないところも多く実際に使えるのは半分程度です。(使えない部分は仮靴に使うこともあります)
とりあえず、ここでは、4足として計算しましょう。費用はこちらの販売価格を元に算出しています。
アッパーの表革:11000円 = 44000円/4足
2)アッパーの裏革(ライニング)
ライニングは表に出ないこともあり、表革よりも取れる足数は多いです。ここでは6足としましょう。費用はこちらの販売価格を元に算出します。
アッパーの裏革: 4000円 = 24000円/6足
3)中底
1足単位で考えます。(販売価格)
中底:900円
4)アウトソール
1足単位で考えます。(販売価格)
アウトソール:3500円
5)諸資材。ウェルト・ヒール、芯材、釘など
ここは大雑把に2000円とします。
諸資材:2000円
6)材料費まとめ
なお、ここではラスト(木型)の材料費はいれていません。
11000円:アッパーの表革
4000円:アッパーの裏革
900円:中底
3500円:アウトソール
2000円:諸資材
_______________
21400円:材料費合計
2:工賃
1ヶ月あたり作れる足数は4足程度。(職人により早い遅いがありますが)
ここでは1足あたり40時間とします。時間あたりの工賃をいくらに設定するかはその人次第ですが、ここでは3000円とします。
工賃:120000円 = 3000円 x 40時間
3:経費
家賃・他を考えています。ここでは大雑把に。東京の方だと家賃はもっと高くなるかもしれません。
経費:35000円 = ( 家賃10万円 + 他4万円 ) / 4足
4:1足あたり費用のまとめ
1足あたりの費用は、1:〜3:を足し合わせると206400円になります。
21400円:材料費
120000円:工賃
30000円:経費
35000円:経費
______________________
206400円:1足あたりの費用
5:職人の収入
靴を作る工房を運営する職人に残るお金は、自身で手を動かした工賃と利益になります。
利益:374400円 = 93600円(1足あたりの利益)×4足
工賃:480000円 = 120000円(1足あたりの工賃)x4足
______________________
854400円:1月あたりの収入
年収に換算すると約1000万円になります。ただし、こちらはひっきりなしに注文が入ってくる流行っているお店の場合。実際には月に売れる靴が1足ー3足の場合もありますので、その場合職人に残るお金は以下のとおりです。
−66400円:0足の場合
73600円:1足の場合
287200円:2足の場合
500800円:3足の場合
一般のサラリーマンのように、福利厚生や体を壊した場合の賃金保障がないことを考えると、家族を養って生活するには厳しいと言わざるを得ないのが現実ではないでしょうか。
6:まとめ
オーダー靴を作る職人の場合、月の収入は−66400円〜854400円。
以上を考えますと、1足30万円という価格設定は職人が靴作りだけで生きていくに必要な金額。ただ、だから30万円が適正かと言いますと、結局は履き主が、その1足にどのくらいの価値を見出すかどうかというお話になりますので、そのひと次第になります。
いかがだったでしょうか?ここでは、「1足が高額だからといって職人がぼろ儲けしているわけではない」ということだけ認識していただければ十分であると思っています。
ありがとうございました。
気軽にカジュアルに履く方も作る方も革靴を楽しんでいただきたいので、有益な靴や革の情報を基本的には無償で公開していきたいと思います。 皆様のスキやサポートのおかげもあり、何とか続けてこれました。今後とも応援していただければ嬉しいです!何卒よろしくお願い致します!